第22話:仕組まれた病
俺はいつの間にか体から消えていた痛みに気が付き、目を覚ました。
床に倒れてしまった筈が、メルヨーナさんを寝かせていたソファーに寝ていた。
近くの机を見ると、置手紙が置いてあった。
手紙を書いたのはどうやらヘルメスお姉ちゃんの様で、頼んでいた薬が完成し、メルヨーナさんに飲ませる事が出来た様だ。
それにメルヨーナさんは隣にある寝室に寝かせてあるらしい。
俺は寝室の扉を開け、確認する。
メルヨーナさんは静かに寝息を立てており、落ち着いた状態の様だ。
……何とか間に合ったようだ。
俺は扉を閉め、台所に移動した。
あれだけ熱が出てて辛そうだったし、治ってたらお腹を空かせるかもしれない。何かちょっとした物でも作ってみようかな。
近くにあった木箱の中に何か入っていないか確認するため、蓋を開ける。
……何も、入ってないな……。
何故だろうか? 偶然食料を切らしただけか?
俺が困っていると、階段へと続く扉が開く。
入ってきたのはピールだった。
「オーア兄!」
「あっ、ピール。もう店の方は大丈夫なの?」
「うん。……それよりメガーサちゃんは……」
ピールは少し動揺している様に見えた。恐らくヘルメスお姉ちゃんから聞かされたのだろう。
「今は大分落ち着いてるみたいだよ。ヘルメスお姉ちゃんが頑張ってくれたみたいだね」
「そっか……ヘルメス姉が……」
ピールはホッとした様で、目を閉じた。
俺はこれ以上ここに居る必要性は無いと感じ、ここを出る事にした。
「じゃあピール。俺は出るよ。メルヨーナさんの側に居てあげてくれ」
「どうしたの? 別にここに居ても……」
「うん……ちょっと用事があってね」
俺はピールに後の事を任せ、メルヨーナさんの家を出た。
さて、ちょっと行ってみようかな。
俺はグーロイネ先生の病院に辿り着いていた。
もしかしたら先生ならあの病気にも詳しいかもしれない。
入り口を潜った俺は受付に話を通してもらい、グーロイネ先生の元に案内してもらった。
先生は椅子に座っており、近くにはヘルメスお姉ちゃんが居た。
「おや、あんたも来たのかい」
「え? ヘルメスお姉ちゃん何で……」
「う、うん。ちょっとね……」
グーロイネ先生がヘルメスお姉ちゃんの代わりに答える。
「こいつはあたしに相談しに来たのさ。サイアネ症がまた出たんだって?」
「先生。俺はその病気の事あんまり知らないんです。珍しい病気なんですか?」
「昔、一度だけ大流行した事があった。あの時には、数千人単位で死んだ。少なくとも確認されてる範囲でだけどね」
どうやら、相当危険な病気な様だ。
「感染とかは……?」
「それは確認されてない。そこはある意味救いがあるんだがね……恐ろしいのは、人から人への感染が確認されていないにも関わらず、それだけ死んだって事だ」
俺の記憶が正しければ、こういう病気は他の生物に感染していき、どんどんその感染範囲を拡大していく筈だ。
それだと言うのに、感染が確認されていない?
「あの、さっきの言い方だと流行したのは一回だけで、それ以降は流行らなかったという事ですか?」
「流行らなかったというよりも、それ以降確認されなかった。いや、それどころか過去の資料を見ても似た症状の病気を確認出来なかった」
確認出来なかった? そういうものなのか? 突然現れて、それ以降出てこない病気ってあり得るのか?
グーロイネ先生がヘルメスお姉ちゃんの方を見る。
「こいつがここに来たのもそれが理由さ。サイアネ症が流行った時、錬金術師が薬を作ったのさ。こいつの師匠、トリスメギストスがね」
「そ、そうですね……師匠が作ったらしいですね。私はまだ産まれてなかったので詳しくは知りませんが……」
なるほど。ヘルメスお姉ちゃんが薬の作り方が載った資料を持っていたのはそういう事か。知識と技術は受け継がれたのか。
「詳しくなかったにしてはよく出来た薬みたいじゃないか。あの時計店の喧しい娘に飲ませたんだろ?」
「え、ええ」
グーロイネ先生が俺を見る。
「どうだった? 症状は治まってたかい?」
「俺は素人なのではっきりとは言えませんが、少なくとも熱は下がってるように見えました。呼吸も安定してましたし」
「それなら大丈夫だ。あのジジイが残した資料にもそういう効果が出るって書いてあったよ」
グーロイネ先生が言うなら大丈夫だろう。正直、素人の俺から見てもよく分からなかったし、これで少し安心した……。
だが、問題はまだ片付いていない。
もしあの病が広まれば大変な事になる。
今は一応薬を作る事が出来るが、それには材料がいる。材料は有限だ。どれだけの数の人間を治せるか分からない。
「さてオーア。あんたも疑問に思ってるとは思うが、サイアネ症……あれはどうもおかしいとは思わないかい?」
「……一度だけしか確認されなかったって事ですよね? しかもそれが、今になって急に再確認されたという……」
「そう。普通だったら少しは確認されるんだよ。なのに、一回大流行しただけで、後はそれっきり」
やっぱり先生もおかしいと感じてる様だ。
俺の中に一つの仮説が浮かぶ。
もしも、あの病が自然発生したものじゃ無かったとしたら? 誰かが意図的に発生させたものだとしたら?
あり得るかもしれないとは思ったが、あくまで仮説のため自分の中に飲み込んでおいた。
「おかしいとは思うんですが、原因がよく分かりませんね……」
「そうかい? 答えは単純じゃないか。誰かが意図的にやったんだよ」
グーロイネ先生は俺が考えていた事をそのまま口に出した。
「……可能、なんですか?」
「さあね。そこまでは知らないよ。でもそうでもしないと説明がつかないのさ。あれだけの殺傷力がある病気だってのに、そこから感染が発生しないっていうのが怪しいのさ」
「というと……?」
「いいかい? 病気ってのは大抵ウィルスのせいで発生する。あいつらは自分達の数を少しでも増やすためにどんどん感染させていくんだ」
「それは……生物が種を残そうとするのと同じって事ですか?」
「賢いじゃないか。そこに気付いたんなら分かるだろ? 感染しないウィルスは何を目的にしている? 数を増やせないのに何故大量の犠牲者を出した?」
だとしたら……先生の言う様に、俺の仮説は当たってるのか……?
当たってるとしたら、どうすればいい……? 誰がやってるのかも分からないのにどうやって止めればいい?
俺が悩んでいると、突然俺達がいる部屋の扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのはマティ姉だった。
「あっ! オーア!? ヘルちゃん!? 何でここにいんの!?」
「いや……マティ姉こそどうしたの……?」
「大変なんだよ!! 採掘場の皆が!」
嫌な予感がする……まさか……。
グーロイネ先生がマティ姉に尋ねる。
「呼吸が乱れて熱が出て体が動かない、中には意識が無い奴もいる。違うかい?」
「そ、そうです!! 何か急に皆ああなって……!」
俺の胸の奥で何かが熱くなるのを感じた。
何だろうかこの感覚……吐き出してしまいたくなる様な何かが体の中に出来た感覚がする。
「グーロイネ先生」
「ああ。分かってるよ。あたしも行こう。それと錬金術師のちっこいの、薬はまだ作れるかい?」
「は、はい……! まだ材料は残ってます……!」
「よし。じゃあ先に行ってな。他の奴に事情話してくる」
そう言うとグーロイネ先生は奥へと入っていった。
「マティ姉、行こう」
「お、おう! じゃあ付いてきて!」
俺達は病院を抜け出し、急いで採掘場へと向かった。
どうか間に合って欲しい。あそこには父さんもいるんだ……。
もしこれが、誰かが仕組んだものなんだとしたら……もし、俺を誘き出す事を目的にやった事だとしたら……俺はそいつを許さない。
絶対に。命をもって償ってもらう……。




