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第23話:埋められた過去

 採掘場に着いた俺はマティ姉を追い抜く様にして中へと跳び込んだ。

 中ではメルヨーナさんと同じ様な症状が発症し、倒れている人達が何人も居た。

 だが、まだ何とか意識のある人達も残っており、全員が完全にやられた訳では無い様だった。

「父さん! 父さんっ!!」

 俺は声を上げる。

 他の人達も心配ではあるが、それでも……俺にとっての父さんはあの人だけだ。決して代わりが利かない人なんだ。

「落ち着きなって!」

 マティ姉が俺の肩を掴む。

 落ち着けと言われて、そんなに簡単に落ち着ける訳がない。

 俺は柄にも無く怒鳴る。

「これが落ち着けるっ!? 父さんが! 巻き込まれてるのかもしれないんだよっ!?」

 その瞬間、俺の頬に痛みが走る。

 俺は……マティ姉に叩かれていた。

「……叩いてごめん。でも、まずは落ち着きなよ。こういう時こそ、慌てちゃいけない」

「…………そう、だね。ごめん……」

 頭から熱が去った俺は何とか冷静になる事が出来た。

 そうだ……こういう時こそ、冷静にならないと……。

「親父はこっち。おいで」

「うん……」

 俺はマティ姉の後に付いていき、父さんの下へと向かった。


 父さんは少し置くに入った所に居た。

 採掘場の壁にもたれかかる様に座っており、その様子を見るにサイアネ症で間違い無さそうだった。

 俺は思わず駆け寄る。

「父さん! 無事!?」

「ああ……オーア、か……悪い……体が急に動かなくなってな……」

「大丈夫、父さん。今、ヘルメスお姉ちゃんが薬作ってくれてるから……」

 俺がそう言ったところで父さんは意識を失った。

 一瞬ひやっとしたが、ただ気を失っただけの様だ。

 俺は立ち上がる。

「マティ姉。これは俺やグーロイネ先生の推測なんだけど、多分この病気は誰かが意図的に仕組んだものだと思う」

「意図的に……?」

「うん。恐らく、俺を誘き出すための罠。そのためにここに居る人達を巻き込んだ」

 俺が話していると、グーロイネ先生と病院の看護婦数名が到着した。

 この人が居てくれれば、少しは安心出来るな。

「酷い有様だね」

「先生。父さん達をお願いします」

「分かってるよ。そのために来たんだ」

 そう言うと先生達は倒れている人達を手分けして運び始めた。

 恐らく、ここで戦闘になる事を想定しての事だろう。

「マティ姉。父さん達がこうなった場所って分かる?」

「え? 場所?」

「もしこれが誰かの能力で発生した事なんだったら、このウィルスを流すための穴みたいなのがある筈なんだ」

 マティ姉は顎を触りながら数秒考えた後、ハッと思い出した様な表情をした。

「そうだ! この奥! あそこで作業してた時に急に倒れた奴が出たんだよ!」

 この奥……確かにまだ先に続いている。

 俺はなるべく壁を触らない様に気を付けながら、奥へ奥へと進んでいった。


 進んだ先には開けた空間があり、周囲に落ちている道具などを見るに、ここで鉱石などを採っていた様だ。

 俺は目を閉じ、周囲に意識を集中させる。

 もしかしたら、まだ近くに居るかもしれない。

 すると、壁の中に一人分の人間の気配を発見した。

 この配置、どう考えても不自然だ。誰かが能力を使うなりして中に入らないと、こんな場所に気配がある筈がない。

「マティ姉。準備は出来てる?」

「な、何の準備さ?」

「こんな事をした奴を倒す準備だよ」

 俺は近くに落ちていたつるはしを拾う。

「居るんだろ? さっさと出て来いよ! お望み通り来てやったぞ!!」

 俺がそう叫ぶと同時に俺の顔に何か違和感を感じた。自分の顔を見る事は出来ないが、何か変だ。

 マティ姉が俺の肩を掴み、引っ張る。

「ちょっとオーア……これ……」

「……? 何……?」

「穴が、開いてる……」

 俺は開いた方の手で顔を軽く撫ぜる。

 すると、明らかに穴が開いている場所があった。どう考えても今までは無かった。

 今、この瞬間、出来たんだ……!

 俺は自分の迂闊さを後悔した。

 この敵は、俺が怒りに駆られてここに来る事を予測してたんだ。

 そして俺がここに来たところで攻撃を仕掛けてきた。

 俺はマティ姉を突き放す様にして離れる。

「マティ姉! 触らない方がいい! この攻撃……あの症状と違う! 感染するかも……」

 それを聞いたマティ姉は眉をキッと上げ、近くに落ちていた何かを拾う。

「オーア。お姉ちゃんは大丈夫だよ。それより、どこに敵が居るのか教えてちょうだい」

 俺は静かに指を差す。

 あそこに諸悪の根源がいる。

 俺が指を差したのを見たマティ姉は手に持っていた物を大きく振りかぶり、投擲した。

 投げられた物は真っ直ぐに敵がいる場所へと飛んで行き、そして……爆発した。

「なっ……!?」

 完全に予想外な事が起き、思わず驚いてしまう。

 まさか、今のは発破か……?

 爆発によって粉々に砕かれた壁の中から、一人の男が這い出してきた。

 いや、正確には壁では無かった。

 向こう側にも通路が伸びており、どうやらこいつが向こう側から掘って来ていたようだ。

 男は顔にマスクの様な物を付け、レンズの向こうからはこちらを覗く不気味な目が光っていた。

 俺の頭にまた少し血が上る。

「お前が、やったのか……?」

「……全く……困った奴だよなぁ~~。出てきやがってよぉ~~~~」

 何を言ってるんだこいつは……。

「この俺が、わざわざ、殺してやったって言うのになぁ~~……」

 何……? 誰を殺した……?

「何を行ってるんだ。お前……」

「テメェの事だよッッ!!」

 突然男が吼え、採掘場に男の声が響く。

 俺が……俺の事……?

「あの時……お前を殺してここに埋めてやった……ボスからの命令でなぁ……それで良かった筈だった」

 俺が殺されて埋められた? じゃあ、何で俺は今生きてるんだ……?

「お、おい! どういう事なんだ! 何でそんな!」

「うるせぇんだよ!! 今は俺が喋ってんだろーがッ!!」

 何なんだよこいつ……どうして俺を……。

「良かった筈なのに……お前が出てきちまったから……またやり直しじゃねぇかよ……」

 男がこちらに指を向ける。

「心配すんなよ。あの時はちょっと加減しすぎた。今度は完膚無きまでに、お前をころッ……!?」

 我慢ならなかったのか、突然マティ姉が男に近寄り、殴り倒した。

 俺は慌てて近寄る。

「あんたね、ごちゃごちゃうるさいんだよ。あんた達の事情なんてどうでもいいんだよ」

「て、テメェ……!」

「それよりも……あんた覚悟はしてきてんでしょうね? あたしの大切な家族にこんな事して、許されると思ってんの?」

 男は座ったままの姿勢で後ろに飛び退く。

「どっちも殺すッ……!」

「やってみなよ。最後に残ってんのはどっちだろうね?」

 その瞬間、マティ姉の頬に穴が開いた。

 小さな穴ではあったが、恐らく俺の顔に開いた物と同じやつだろう。

 しかし、俺にはあいつがどうやってこれをやってきたのかが分からなかった。ウィルスだとしても、あまりにも突然過ぎる。

 しかし、最早考えている暇など無かった。

 俺は腕に力を込め、力の限りつるはしを投げ付ける。

 しかし、俺の力不足からかつるはしは相手に届かず地面に落ち、金属音を立てた。

 俺の顔にまた穴が開いた様だった。

 今度は分かる。先程とは違ってはっきりと開いた感覚がした。

「抵抗すんなよぉ……そのまま痛みも感じずに死んでいけ」

「断る……お前なんかに……俺の命を好き勝手されて堪るかよ……」

 俺はマティ姉を見る。

 何故かは分からないが辺りをキョロキョロしており、とても敵と対峙しているとは思えなかった。

「マティ姉! 何やって……!」

「慌てなさんな。ここは採掘場。あたしらの専門だよ?」

 そうかもしれないが、相手は人を殺す事に何の躊躇も無い奴だ。専門どうこう言ってる場合じゃない!

「ねぇ、あんた名前何て言うの?」

「……何だぁ? 恐怖でおかしくなったか?」

「別にいいじゃん。答えなよ」

「フン……じゃあ冥土の土産に教えてやるよぉ~~。俺はムラード・ロードレイク。これでいいか?」

「ああ。それでいいよ。これでたっぷり稼げたし」

 稼げた? 何の事だ……?

 そう思っていると、突然マティ姉が俺を抱き抱え、出口に向かって一目散に走り出した。

 俺は突然の事に声も出せず、固まったままになっていた。


 マティ姉は広間を脱出し、採掘場の出口に向かっていた。

 しかし、顔の穴はどんどん数を増やし、更には体の方にまで出現し始めていた。

「マティ姉! いったいどういう!?」

「ここさ、あたし達しか知らないんだけど、地下水が通ってんのよ」

 ……だからどうしたと言うのだろう?

「ここの地下水ね、相当ガチガチに溜まってるらしくてさ。鉱石採り出す時は、最新の注意を払わなきゃいけないんだよね」

「だ、だから?」

「さっき爆弾投げたでしょ? あの時、わざとその溜まった地下水を刺激するように投げたんだよ」

 え……じゃ、じゃあまさか……。

「ねぇ……俺の予感……当たるかな……」

「……多分ね」

 次の瞬間、轟音と共に大量の水が後ろから押し寄せて来た。よく見るとムラードも飲み込まれている。

 マティ姉は何とか飲み込まれない様に全力で走っていたものの結局追いつかれ、俺達は地下からの濁流に飲み込まれた。

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