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第20話:父と子

 朝までマティ姉と過ごした俺は、二人で一緒に一階へと降りていった。あの悪夢を見て感じていた不安は幾分か薄れていた。

 食卓では他の皆が揃っており、俺は安堵した。別にそれは当たり前の光景ではあったが、今の俺には十分な程に幸せを感じる光景だった。

「おはよう、オーア」

 父さんが俺に話し掛ける。そうだ、父さんとはちゃんと話しておかないと……。

「ねえ父さん。あのね……」

「ああ。ちょっと向こうで話そうか」

 父さんは俺が言おうとしている事を即座に理解してくれた。親っていうのは、こういうものなんだろうか?

 俺と父さんは食卓から離れ、浴室の方に歩いていった。


 脱衣所で俺と父さんは向き合い。話し始めた。

「父さん……」

「分かってる。母さんから聞いたよ」

「ごめん……」

「謝らなくてもいいだろ? オーアが悪い訳じゃない」

 いや……俺が悪いんだ。あの夢は、何か分からないが、普通じゃなかった。やけに現実感のあるものだった。それに、俺が居るから、皆が迷惑する。

「でも、俺が居るから、父さん達に迷惑掛けちゃってる……」

「そんな事無いさ。悪いのはオーアを付け狙う奴らだ」

「父さん……俺が狙われるのには、何か理由があると思うんだ。きっと俺が過去に何かやったんだと思う。俺が覚えてない過去に……」

「例えそうだとしても、お前は俺の息子だ。何があっても味方でいる」

 どうしても理解が出来ない。過去の家族の記憶が無いからかもしれないけど、父さんが何でそこまで俺の事を信じられるのか理解出来ない。

「父さん。聞いてもいい?」

「どうした?」

「……どうして父さんは、そこまで俺の事信じられるの? 俺は、元々記憶が無い人間なんだよ? もしかしたら、人間かどうかも分からない……。血の繋がりもないし、過去に付き合いがあった訳でもないのに、どうしてそこまで……」

 父さんは腰に手を当て、溜息をついた。

「……オーア。確かに俺達には血の繋がりは無い。でもな、俺はお前が優しい子だと思ってる。人を傷付けるのが好きじゃない人間だ。そうやっていつでも周りに気を遣って、時には自分の身すらも犠牲にしようとする」

 俺は思わず声を荒らげ、遮ってしまう。

「分からないよっ! そんなの、父さんが見た視点での話しでしょ!? 俺は、もしかしたら大勢の人間を殺してしまってるのかもしれないんだよ!? 俺自身ですら分からないのに!」

 父さんが俺の肩に手を置く。熱くなっていた体に冷水を掛けられたかの様に、すっと冷静になるのが分かった。

「オーア。それはもしもの話だ。少なくとも今のお前は優しい子だ。母さん達に聞いてもそう答えるぞ?」

「……今はそうだとしても、やっぱりおかしいよ。記憶が無くても分かる。人から命を狙われるって事は、それだけの事をしたって事だ」

「オーア。人間は記憶が無くなったとしてもそんなに変われるものじゃない。お前は昔から優しい子だった。俺が保障する」

 俺は言葉が出なくなる。正直、反論出来ない。理詰めで言われた方が、まだ反論出来る。なのに……こんな風に言われたら、俺には反論出来ない。

「……ありがとう父さん。もう、反論出来ないや……」

 父さんは肩を軽く叩くと、笑顔を見せた。いつもの様に白い歯が光り、俺はその眩しさに目が眩みそうになる。

「分かってくれて良かったよ! さっ、そろそろ母さんが朝食を作り終える頃だ。戻ろう!」

 そう言うと父さんは、俺の肩に腕を回し、肩を組んだ。その腕はがっしりとしていて、とても力強く、頼もしい腕だった。

 俺達は肩を組んだまま、食卓へと戻っていった。


 食卓に戻ると、父さんの言う通り、母さんが調度朝食を作り終えていた。一緒に暮らしてたら、こういう事も出来る様になるんだな……。

「もう親父~遅いよ~!」

「すまんすまん! ささっ、食べようか」

 俺達は食事を始めた。皆の様子はいつもと変わらなかった。正直俺は怖かった。皆が俺に変な気を遣ってしまうのではないかと気が気ではなかった。

 ……でも、皆はいつも通りでいてくれる。

 俺は安心出来るその空気と共に、朝食を喉の奥へと飲み込んだ。



 食事を終え、皆が各々準備をしていると、扉に何かがぶつかる音がした。

 俺の背中に緊張が走った。今までの事もあって、嫌な予感がしてしまう。

 しかし、いざ扉を開けて見ると、誰の姿も無く、代わりに手紙が一通落ちていた。

 俺は手紙を拾い、どこから送られてきたのか確認をした。

「これは……」

 送り主はピールの幼馴染のメルヨーナさんだった。

 俺は朝の準備をしているピールの下に行き、手紙を渡した。

「ピール、これ」

「え? 何? 手紙?」

「何か、メルヨーナさんからみたいだけど」

「メガーサちゃんから?」

 ピールは手紙を開け、中を確認した。しかし妙だな……あの人の性格を考えると、手紙を送るよりも直接来そうなんだけどなぁ……。

 手紙を読み終えたピールは何か悩んでいる様子だった。

「何だった?」

「うーん……何か風邪引いちゃったらしくて。それで……看病に来て欲しいって……」

 あーなるほど……そういうあれか……。

「でも変なんだよね。今までもあの子が風邪引いた時があったけど、別に看病をお願いされた事無かったし……」

 確かにそれは妙だ。そんな彼女がこういう風に手紙を送ってきたというのは、それほどキツイ状況だという事ではないだろうか?

「ピール。行ってあげたら?」

「行ってあげたいんだけど、今日はちょっとどうしても店に居ないといけなくて……」

「何かあるの?」

「うん。実は、今日は新しいメニューをお客さんに公開する日なんだよね。いきなり日付を変えるなんて出来ないし……」

 そうだったのか……知らなかった……。しかし、それなら行けないな。直前でキャンセルなんてしたら、店の信用に関わる。

「どうしようかな……」

「うーん……」

「んー……」

「……」

「んー……?」

 あれ? 何でこっち見てるんだ……?

「……何?」

「決めた! オーア兄が代わりにメガーサちゃんの所に行ってあげてよ!」

「俺!? いやいや、メルヨーナさんはピールの事呼んでるんだろ? 俺が行っちゃ駄目だろ!」

 あの人ちょっと苦手なんだよなぁ……悪い人じゃないんだけど……。

「大丈夫だよ! お願い! 終わったら私もすぐに行くから!」

 ……あんまり行きたくはないけど、もしメルヨーナさんが苦しんでるのかと思うと、心配になる。孤独っていうのは本当に辛い事だと思うし……。

「……はぁ。分かったよ。とりあえず、行ってみるよ」

「ありがとう! じゃあお願いね!」

 そう言うと、ピールは急ぎ足で母さんの方へと走っていった。

 俺は顔を擦り、気持ちを落ち着ける。

 ……よし、大丈夫。行くか。

 俺は身支度を終え、メルヨーナさんの所へと出向いていった。

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