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第17話:指揮官、八甲田千波

 俺が母さんの店で手伝いをしていると、何やら外が騒がしくなっていた。いったいどうしたんだろうか?

「……母さん。ちょっと外見てくる。ピール達の事見てて」

 俺は母さんに中にいる様に言うと、扉を開け、外を確認する。


 外には街の自警団の人々が倒れていた。俺は思わず外に飛び出す。

「おい! ちょっと! 大丈夫ですか!?」

 俺は倒れている一人を揺する。……良かった。小さく呻き声をあげてる。生きてはいる様だ。

 俺は大量の人間の気配を感じ、横を見る。そこには一人の女性を中心にした軍団がいた。その中にはかつてマルデダを襲った日ノ本もいた。……という事は、あの中心にいるのが彼女の言っていた上司か。

 俺は立ち上がり、彼らと向き合う。

「貴様がオーア・メイ、だな?」

 中心に立っている女性が言う。やっぱり、俺の命が目当てなんだろうな……。

「そうだけど。……何の用ですか?」

「分かってるんだろう? ボスからの指示だ。お前を捕まえる」

 何だ? 前は俺を殺す事が目的だった筈……。

「……俺を殺すんじゃないのか?」

「正確には、貴様の能力を捕まえる。必要なのは貴様自身ではない」

 俺の能力? 能力だけ、奪えるのか……?

「……それで、何がしたいんだ? 俺の能力はそこまで大それた事は出来ないぞ?」

「貴様が理解してないだけだ。その能力の真の力をな」

 俺が、理解できてない……? まだ、俺の知らない能力の使い方があるのか?

「さて、お話はここで仕舞いだ。始めるぞ」

「待てよ。失礼じゃないのか? まずは名前を名乗れよ」

「……これは失礼したな。私は八甲田千波(ハッコウダチナミ)。これでいいか?」

 ハッコウダ……日ノ本やマカフシさんと同じ様な名前だ。同じ地方の出身か……?

「……ああ。納得したよ。始めよう……」

 俺は拳を構え、睨みつける。本当はこんな事したくないが、もしこいつらがピール達に手を出す可能性が少しでもあるなら、ここで倒さなくてはならない。

「ほう……一人でやる気か。面白い奴だな」

 ハッコウダは手に持っている鞭を振り上げ、前へ振ると同時に声を上げる。

「殺せェェーーーーー!!!」

 その声と同時に、後ろにいる人々が一斉に襲い掛かってくる。よく見たら、街にいる人々じゃないか……。こいつが、操ってるのか……?

 俺は迫ってきた一人の攻撃をいなし、腹部に拳を叩き込む。……完全に無意識での動きだった。今までこんな事した事も無かったのに……体が、覚えているようだった。俺は……昔、何だったんだ?

 俺は次々と襲い掛かってくる人々相手に必死に応戦した。だが、いくらなんでも数が多すぎる……。それに、面識が無い人が多いとは言え、この人達は操られてるだけだ。攻撃する度に、罪悪感に苛まれる。

 瞬間、俺の脇腹に激痛が走る。見ると、抉れた様な穴が開いていた。この穴は見た事がある。この状況なら、あいつしかありえない……!

 日ノ本に目を向けると、奴はこちらに銃のような物を向けていた。そうだ……マルデダを襲った時も、あれを使ってたな……。銃には詳しくないが、恐らくあれは形からして一発ずつ装填しなくてはならない物だろう。なら、少しはチャンスがある……!

 俺は目を閉じ、ハッコウダに意識を集中させる。俺の痛みをあいつに移譲させる。これなら、迂闊に攻撃出来ない筈だ。

「っ! ……なるほど。まあ、そうするよな」

 な、何だ? 何でそんな、余裕そうなんだ?

「他の連中と同じに見てもらっちゃ困る。潜ってきた修羅場の数が違うんだよ」

「な、に……?」

 ハッコウダは異常な程に余裕そうだった。普通はもう少し痛がる筈だが……。

「さて……やはり本体は大して脅威では無かったな。日ノ本、やれ」

 くそ……まずい……俺一人じゃ無理なのか……? 俺は己の無力さを嘆く。俺は家族を、家族との生活を守りたいだけなのに、そんな事も俺は出来ないのか……。

 日ノ本がこちらに銃を向ける。俺を取り囲んでいる人々の動きが止まる。周囲一帯に静寂が訪れた。今の俺には、どうする事も出来ない……。


 その時だった。日ノ本の腕に突然ナイフが刺さった。ナイフには何か巻きついており、道の端から伸びている。俺はその伸びている物を目で追う。

 その先には、母さんの店の扉があった。扉は僅かに開いており、あの紐の様なものはそこから伸びている様だった。母さん……ちゃんと見ててって言ったのに……。

「ぐっ……! これはっ……!」

「日ノ本。どうやら、邪魔が入ったみたいだな」

 日ノ本が扉に向かって銃を向ける。俺は咄嗟に能力の対象を切り替え、腕の感覚をリンクさせ、銃の射線を逸らした。

 すると、ナイフに巻きついていたピールの腕は動き出し、日ノ本の首に巻きついた。俺は日ノ本が抵抗出来ない様に意識を集中させ、体の動きを封じた。

「ぐっ……何度も何度も……!」

 日ノ本の顔はどんどん青くなっていき、最終的には、その場に倒れ込んだ。ありがとうピール……何とか命拾いしたよ……。

「……油断するなと散々言っておいたんだがな。学習しない奴だ」

「……だから、前に俺達に負けたんだよ」

「そうかもな。だが……今回は、私がいる」

 そう言うと同時に、操られている人々が襲い掛かってくる。まずい……今の体じゃ、対処出来ない……一度に複数人は対処出来ない……。

 俺の危機を察知してか、ピールの腕がハッコウダの方に伸びていく。無理だ……同じ手が通じる奴じゃない……。

 ハッコウダは伸びてきたピールの腕を掴み、ぐいと引っ張った。すると、扉の向こうからピールが飛び出してきた。俺は何とか立ち上がろうとするものの、袋叩きにあい、動く事すら出来ない。せめて……ピールは守らないと……。俺は声を絞り出す。

「待ってくれ……分かった……俺の能力を持っていっていい。だから……家族は巻き込まないでくれ……」

「貴様を殺す事は初めから決まっている。いずれにせよ殺す。だが……我々の計画を邪魔する者がいるのなら、ここでついでに殺して置かなくてはならない」

 ハッコウダがピールに目を向ける。ピールの顔には汗が伝っているのが見える。

「君も殺すからな」

「……出来る物ならやってみればいいですよ。あなたに私は殺せない」

「何故そう言える?」

「あなたの部下は私に倒されました。2回もね。ただの素人である私にですよ?」

「……何が言いたい?」

「大した人じゃないって事ですよ。素人に負けるなんて目も当てられない恥ですよね」

 挑発してる……? おかしいな、ピールらしくない……まさか、時間稼ぎしてるのか……?

「随分な言い草だな」

「図星でしょう? 少なくとも、私はあなたの部下を2回倒した。これは紛れも無い、覆りようも無い事実です」

「そうだな。私は少しあの子の事を過大評価しすぎていた様だ。そこは反省しよう」

「反省しなくてもいいですよ。……もう終わりです」

 そう言うと、ピールは体全体を解れさせ、その一部を店の扉のとって部分にくくりつけた。それと同時に、ハッコウダの足元の地面が割れる。俺は、この現象を知っている。

「……なるほど」

 ハッコウダは落ち着いた様子で目線を下に向け、掴んでいたピールを離すと同時に懐から銃を抜くと、割れ目に向かって素早く発砲した。

 しかし、銃弾は地面に着弾する事は無く、割れ目から飛び出した地面の欠片によって弾かれた。更に割れ目から手が伸び、ハッコウダの足を掴む。

 だが、ハッコウダの表情に焦りというものは見られなかった。落ち着いた様子で腰に付けていた筒のような物を割れ目に放り込んだ。

 次の瞬間、凄まじい爆発音が鳴り響いた。俺は思わず目を閉じる。

 再び目を開けると、そこには大きく砕けた地面と、その中で倒れているマルデダの姿があった。俺は思わず声を上げる。

「マルデダっ……!」

「愚かな奴だ。己の能力を過信し、私に挑むとはな。自分が三下であるという事も理解していない」

 見ると、ハッコウダは右足が無くなっていた。恐らく先程の爆発で失ったのだろう。だが、当の本人は全く慌てる様子は無く、冷静に傷口を縛っていた。

 どうやらピールは逃げられた様で、姿は見えなかった。とりあえずは、逃がせたか……。

「さて……少し予定が狂ったが、問題は無い。後は貴様を殺すだけだ」

 ハッコウダがそう言うと共に、再び人々が俺に攻撃を始める。俺は傷口からの出血が多く、最早まともに動く事は困難になっていた。

 体中の痛みが大きくなっていく。ハッコウダに感覚をリンクさせようにも、血が抜けているせいか頭が上手く働かない……もう……駄目なのか……。

 そう思ったその時、突然近くの川から水塊が飛び出し、ハッコウダの顔を覆い尽くした。まさか、あれは……。

 ハッコウダは驚いた様子で腰に備えていたナイフを抜き、水塊に突き刺した。しかし、何の反応も無く、水塊はハッコウダの顔に引っ付いたままだった。

 ハッコウダはしばらくあらゆる方法でもがいていたものの、最終的には泡を吐いた後、そのままパタリと倒れ動かなくなった。それと同時に操られていた人々は全員気を失った。水塊はハッコウダの顔から離れ、人の形を形成した。

「や、やった……わ、私がやったんだ……! はははっ! どうだ! 私が!」

 何やら大喜びしている。ハッコウダは、あいつとは仲が悪かったんだな……。

 ふと店のほうに目を向けるとピールが店から出てきていた。母さんやヘルメスお姉ちゃんとも一緒の様だ。母さんがこちらに駆け寄る。

「オーア! 大丈夫!?」

「ああ……母さん……ごめん、心配掛けて……俺は、大丈夫だから……」

「……待ってね。今、グーロイネ先生の所に運ぶから」

 そう言うと母さんは、服が血で汚れるのもお構いなしで、俺をおぶった。母さん……俺よりも小さいのに……無理をしてないだろうか? 俺は不安になり、一人で歩こうとしたものの、体に力が入らないどころか、声も出せなかった。

 近くではピールとヘルメスお姉ちゃんがマルデダの側にいた。どうやらマルデダは意識を取り戻したらしく、その場に座り込んでいた。

「……あいつも呼んでたのか」

「偶然見つけましたので」

 そう言うと、ピールは腕を伸ばし、あいつを捕まえ、自分の元に引っ張ってきた。

「ひっ! ちゃちゃ、ちゃんと助けましたよ……!?」

「怯えなくてもいいよ。お礼が言いたかっただけ」

「へ……? そ、そうなんですか……?」

「うん。こっちの人はあなたに用があるみたいだけど」

「あっ! マ、マルデダ……さん!」

「久しぶりだな。テメェも失敗した口か」

 彼女は相当慌てている様に見えた。

「えっと、その……」

「心配すんな。別に殺しはしねェよ。俺はもう組織とは関係ねェ。テメェと同じ、消される身だ」

「や、やっぱり……失敗したら消されるって本当なんですね……」

「……テメェだったら海を伝って他の国に逃げるなり何なり出来るだろ。まだ間に合うぞ……死にたくねェンなら、さっさと逃げな水無月」

 ミナヅキと呼ばれた彼女は慌てた様子で川に飛び込み、そのまま姿を消した。……一応、感謝しないとな……。

 ピールがマルデダに話しかける。

「一人で動けます?」

「問題ねェよ。これ位いつもの事だ。それより、あいつの側にいてやれ……」

 マルデダがそう言うと、ピールとヘルメスお姉ちゃんは立ち上がり、こちらに駆け寄ってきた。

「オーア兄! 頑張って!」

「オ、オーア! お、お姉ちゃんがついてるよ……!」

 二人が俺を励ます。ありがたいが、体に響くから、少し静かにしてて欲しいな……。

 俺は二人に要望を出すことも出来ず、母さんにおぶられたまま、意識を失った。

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