第15話:造られたメアリー・スーと小さな勇気
私の目の前では、あの人がオーアさんに跨り、顔に打撃を加えていた。
地面が大きく歪んでいるからか、オーアさんの顔は私の位置からでは見えない。それは、私にとっては幸運な事だったのかもしれない。
私はあの人の恐ろしさを知っている。怒らせると何をするか分からない。きっとオーアさんの顔は……考えるだけで背筋が凍った。
あの人がこちらを向く。逃げなくては。そう思ったものの、足が動かない。あの時は逃げれたのに……。私は自分の無力さに嫌気が差した。
「まだいたのか。さっさと消えろよ」
あの人が私に悪態をつく。私だって逃げたい。でも……ここで逃げたら私は……。
「逃げ、ません……!」
そうだ。逃げるわけにはいかない。ここで逃げたら、本当に臆病者だ。私が、私が……オーアさんの仇をとるんだ!
「何お前。こいつと同じ目に会いたい訳?」
……この人は油断してる。私なんかに負けるわけが無いと。確かに私は勝てないかもしれない。でも、一泡吹かせる事は出来る。
私は鞄に手を突っ込み、私が作った道具を取り出す。
封魔の力を込めた香水。能力者の人にも効く筈だ。
私は迫ってくるあの人を精一杯睨んだ。
「お前もかよ。……俺の事舐めんなって言ってんだろ!}
あの人が飛び掛ってくる。私はすかさず香水を吹き付けた。これで、大丈夫な筈だ。
結果から言うと、失敗だった。ほんの一瞬効果が見られたものの、すぐに効果は切れてしまった。更に言えば、私が敵だという認識をされてしまった。
「変なもん吹き付けてきてんじゃねぇよ。失せろっ!」
拳が私にも迫る。私は思わず、目を瞑った。
数秒経っても何も起きず、私は疑問に思い目を開ける。そこには、私の前に立つオーアさんの姿があった。
あの人の拳が再び顔に当たっているにも関わらず、何故か立っていた。それだけでなく、体に開いていた穴や潰された筈の左腕までもが、元通りになっていた。
「まだ生きてたか」
あの人は恨めしそうに顔を歪めた。
私はオーアさんに声をかける。
「オーアさん……!」
しかし、返事は返ってこなかった。その代わりに、想像もしていなかった事が起こった。
「いっ!?あああああああああああ!?」
突然、あの人が大声を上げて苦しみだした。何で……何も起きてない筈……。
私が混乱していると、オーアさんはあの人の首を掴んだ。
「おい!?やめっ!いっ……!何なんだよ!」
あの人は必死にもがき、様々な魔法を行使していた。
炎を飛ばす。体に触れて穴を開ける。氷柱で突き刺す。電撃を食らわせる……ありとあらゆる魔法を使って抵抗した。だと言うのに、オーアさんの体には傷一つ付いていなかった。
私は巻き込まれないように二人から離れ、オーアさんの前に回りこんだ。
私には不思議でならなかった。あの優しいオーアさんが人の首を掴む何て事をするとは思えなかったからだ。私は……オーアさんの優しさを信じたいと思った。
オーアさんの顔を見た私は言いようの無い恐怖を感じた。
彼の目は真っ直ぐと前を向いていた。しかし、その目は確かに前を向いているにも関わらず、どこを向いているのか分からなかった。彼の目には、あの人も私も映っていないように見えた。
「やめろォ!離せ!分かった!買い戻す!買い戻すから!」
あの人は涙や鼻水を流しながら必死に懇願していた。その姿は、先程まで威張り散らしていた人物とは思えないほどだった。
あの人がその言葉を口にすると同時にオーアさんは手を離し、二人ともその場に倒れこんだ。
あれほど大騒ぎしていたにも関わらず、二人の体には傷一つ無かった。
……う……何だ……?俺は、どうなった……?
俺はもう開く事は無いと思っていた目を開ける。
隣にはあの男が倒れていた。……どういうことだ?何があった……?
俺が疑問に思っていると、男は呻き声を上げ、這いずる様にしながら家へと向かっていった。
俺は男を止めるため、声を出す。
「おい……逃げるな……ちゃんと……買い戻せ……」
「わ、分かったって言っただろ!?」
何だ?そんな事、言ってたか……?もしかして、気を失ってる間にヘルメスさんが頑張ったのか……?
そう感じた俺はヘルメスさんに目を向ける。彼女はその場にへたり込んでおり、何かに驚いている様子だった。
俺と目が合ったヘルメスさんはこちらに駆け寄ってきた。良かった……怪我は無いみたいだ……。
「オ、オーアさん……!」
「ああ……ヘルメスさん。心配掛けてすみません……。一人で頑張ったんですね……?」
「い、いえ!私は何も……」
どういう事だ?彼女は何もしていない……?
「!!」
俺は何者かの気配を感じ、そちらに目を向ける。
そこにいたのは、マルデダを襲った少女、日ノ本だった。病院にいた筈なのに、何でここに……。
日ノ本はゆっくりと歩きながら、あの男に近付いていった。
すると近くまで移動した日ノ本はあの男に話しかけた。
「久しぶり」
「あ、お前……!」
どうやら知り合いの様だ。
「お、おい!あいつを殺せ!」
……結局、買い戻すって話は嘘か……。
「何故?私がお前の命令を聞く義理は無い」
「何故だと!?一緒に旅した仲間だろ!?」
あの二人は仲間だったのか……?それにしては、どうもおかしいが……。
「仲間?何を勘違いしてる。私はお前のお目付け役だっただけだ」
「は……?」
「その力、誰に貰った?」
「か、神とか名乗るおっさんに……」
「……都合良く考えるんだな、お前は。ある訳無いだろ」
何を言ってる?神……?
「お前に力を授けたのはボスだ」
「何言って……!だって俺は確かに……!」
「幻覚を見せられる奴ぐらい、うちの組織にはいくらでもいる。特に、お前みたいな単細胞は引っ掛かりやすくて助かる」
「げ、幻覚……?」
「上からの命令だ。お前はもう必要無い」
くそ……あの子、あいつを殺す気か。何とかして止めなくては……!
「お、お前!俺に歯向かうのか!お、お前なんか簡単に!」
「やってみろ」
あの男は何やら腕を振ったり、ぶつぶつと喋っている。何だ?まさか力を使えないのか……?
「な、何で!クソッ!クソッ!」
「もうあの力は返してもらったよ。ボスがお前に与えたんだ。お前から奪うのもボスの自由だ」
「な……え……?」
「さて、それじゃあ死んでもらおうか。個人的にはお前は嬲り殺しにしてやりたいが……今日は上からの命令で来てるからな。楽に死なせてやろう」
「ま、待て!何でこんな事するんだ!」
「……我々にとっても、あの魔王は邪魔だったんでね。消えてもらう必要があったんだよ」
「だ、だったら!自分らでやればよかっただろ!何で俺が!」
「考えろよ単細胞。私達が魔王に手を出せば、全面戦争になる。ボスはそれをお望みで無い」
あいつを利用したって事か……。
「お前、よく考えてみろよ。死んでから違う世界に転移して、強大な力を持つ。出来すぎた話だろ」
「じゃ、じゃあ俺を撥ねたトラックも……」
「トラックとやらは知らないが、全部ボスが下した決断だ。お前を殺し、こちらに転移させ、力を与え、魔王を討伐させる」
「そんな馬鹿なことが……!」
「別に信じなくていい。そのまま、くだらない甘い夢を見ながら死ぬのもいいだろう」
くそ、まずい!あいつ、銃を取り出してる!
俺は日ノ本に意識を集中させ、目を瞑る。目が見えなければ、時間稼ぎ位は出来るだろう。
「……お前か。こいつを逃がそうとしてるのか?とんだお人好しだな」
「黙れ……そいつは殺させない……!」
「別に問題ないさ。見えなくても殺せる」
日ノ本があの男に銃を向ける感覚がする。まずい!
「ま、待ってくれ!あいつらは!?あいつらはどうなんだ!?」
「あの取り巻きの女共か?知らないな。大方、お前の力目当てか、財産目当てか、地位目当てだろう。不幸だな。散々ご機嫌取りをした相手が死ぬとはな」
あいつ……時間稼ぎをしてるのか?なら、少しはいけるか。
俺は感覚のリンクを腕に変更し、銃を持つ手を封じた。
「……無駄だ。こいつを殺す方法はいくらでもある」
今度は足から何やら隠しナイフの様な物を出現させた。くそ……一度に複数の場所がリンク出来れば……!
すると、ヘルメスさんが声を上げた。
「や、やめてください!」
「……お前、確かあのチームにいたな」
「そ、その人は決していい人ではありません……!でも!だからって殺すなんて、そんな酷い事は!」
「私に命令していいのはあの人だけだ。私を愛してくれたあの人だけ」
「い、言う事聞いてくれないなら……これ、投げますよ!」
そう言うとヘルメスさんは鞄の中から何やら小さな瓶の様なものを取り出した。
「何だ?」
「こ、これは……失敗作です!こ、これが割れたら、く、臭いですよ……!」
「臭いなどどうでもいい。人の糞を食わされる経験と比べたらどうと言う事は無い。私からの命令だ。下がれ。臆病者が邪魔するな」
ふと視線を家のほうに向けると、あいつは家の中に逃げているようだった。とりあえずは、逃がせたか……。
「……逃げたのか。単細胞な上に情けない。あの頃と変わってないな」
日ノ本は家へと歩き始める。
「ま、待ってください!話はまだ……!」
ヘルメスさんがそう言った瞬間、炸裂音が響き渡った。日ノ本がこちらに向けて発砲したのである。
「さっき下がれって言っただろ。お前も単細胞か?」
ヘルメスさんはその場に力なくへたり込んだ。俺は何とか体を起こし、ヘルメスさんの元に駆け寄る。
「ヘルメスさん!」
「え……あ……」
良かった……腰を抜かしただけか……。
「そのまま消えろ。今日はあいつだけを殺すように言われている。お前達を殺す理由は無い」
そう言うと、日ノ本は扉を破壊し、家の中へと入っていった。
俺は考えた。あいつを生かす方法はないだろうかと。
あいつは嫌な奴だ。人の気持ちも分からない性根の腐った奴だ。だが、それが死んでもいいという理由にはならない。
俺は家の方に意識を集中させる。
屋内には6人の気配がある。一人はあの男。一人は日ノ本。他の気配はあの取り巻きの少女達だろう。
日ノ本はあの男だけを殺すように命令されたと言っていた。他の子達に手を出すとは考えづらい。だとしたら、守るべきは一人だけだ。
「オ、オーアさん……私……」
ヘルメスさんが小さく震えながら話しかけてきた。
「大丈夫ですよ。あの人は殺させません。さっきはよく頑張りましたね」
「違うんです……私……あんな事言いましたけど……本当は……内心、あの人が死ねばいいって思っちゃったんです……」
……少し、安心した。この子にもそういう感情あるんだな。
「大丈夫です。誰しも、そういう風に考える事は一度や二度あります。ヘルメスさんだけじゃありません」
「ごめんなさい……!あ、あの人を助けて下さい……!」
「ええ。分かってます。あいつに死なれたら困りますからね」
俺はあの家の中で最も心拍数が高い人物にリンクする。
リンクして見た視界には、あの少女達が映っていた。どうやら間違いなさそうだ。
それとほぼ同時に視界に日ノ本が映る。それを見た少女達は応戦しようと各々構えている。
だが、日ノ本は懐から何かを取り出し、放り投げた。何だ……筒……?
すると突如、その筒の様な物から煙が発生し、部屋中を包み込んだ。俺は、自分の頭が上手く働かなくなっている事に気付いた。何だ……急に眠気が……。
「オ、オーアさん、大丈夫ですか!?」
俺はヘルメスさんの声で何とか意識を保ち、能力を行使し続けた。その瞬間、体に鋭い痛みが走る。あいつが撃たれた様だった。
「っ!ぐ……」
「オーアさん…・・・!?」
「へ、平気……です。後は……」
俺はあの男の体から、自分の体へ痛みを移動させた。これでとりあえず、ショック死なんて事は防げる筈だ。
しかし、本当に痛い……これであいつ死んだら、洒落にならないぞ……。
少しすると、家から日ノ本が出てきた。俺は何か喋ろうとしたものの、痛みのあまり、考えが纏まらなかった。
「……その様子だと、痛みを自分に移動させたか。まあいい。いずれにせよ、あいつはもう助からない」
「待ってください!馬車を!ここに呼んでください!」
やめろ……ヘルメスさん……そいつはそんな優しい奴じゃない……。
「呼ぶ理由が無いな」
「お、お願いです!あ、あの時同じチームだったじゃないですか!」
「それは理由にはならない」
「私……覚えてるんです……。私が、キャンプ中に一人で寂しくて泣いてる時、慰めてくれましたよね?」
「……慰めた記憶は無い」
「いいえ……慰めてくれました。ぶっきら棒で冷たいけど、本当は優しい人なんですよね……?」
「お前の勘違いだ」
「勘違いでもいいです。私は、信じてます……」
「……好きにしろ」
そう言うと日ノ本はその場から去っていった。
それから少しすると、遠くから馬車の音が聞こえた。まさか……あいつが呼んだのか?
「オーアさん!馬車ですよ!」
「え、ええ。すみませんヘルメスさん……ちょっと肩を貸してもらえませんか……?」
俺はヘルメスさんに肩を貸してもらい、馬車まで移動した。
俺を馬車に乗せると、ヘルメスさんは御者の人に事情を説明し、あの男を助けに行った。俺はあの人の事を少し過小評価していたかもしれない。いざという時には勇気を出せる。凄い人じゃないか……。
俺はそのまま、馬車の中で意識を失った。
眩しさを感じ目を開けると、白い天井が見えた。ここは……グーロイネ先生の病院か。
右を見ると、ヘルメスさんが何やら作っているのが見える。磨り潰しているのは植物だろうか?
「あ!オーアさん!め、目が覚めたんですね……!」
「ええ。何とか……。何してるんですか?」
「あ、こ、これはですね……お、お薬を作ってるんです……!」
「薬……ですか。申し訳ないんですけど、俺、別に怪我とかしてないですよ?」
「そ、そうみたいですね。先生も仰ってました。ただ、一応痛みとかあるかもしれないので、一応痛み止めをと……」
「そうでしたか。ありがとうございます。それで……あの、あいつは……」
「あ、えっと……隣の病室です」
それを聞いて一安心した。何とか、命は助かったか……。
俺は体を起こす。ちょっと行ってみよう。
「あ、オーアさん……無理はしない方が……」
「大丈夫です。それよりも、話をつけないと」
俺は病室を出て、隣の部屋の扉をノックした。
「入れ」
聞こえたのは聞き覚えのある声だった。
「……マルデダ。いたのか」
「あの女が関わってたみてェだからな……」
男の方を見ると、どうやら傷は治療され、一応は回復している様だった。
「……何しに来たんだよ。笑いに来たのか」
「違う。ヘルメスさんの道具を買い戻す約束をさせるためだ」
「……無理だ」
は?こいつ、この場に及んで……。
「もう、皆どっか行っちまった。俺にはもう何もない……金も地位も……能力も……」
まさかこいつ……あの子達に働かせてたのか?俺でも一応母さんの店で働いてるぞ?……最近はいろいろ会って行けてないけど。
「無一文だ。それなのに、買い戻す?無理だろ」
突然マルデダが男に掴みかかった。
「おい。テメェ舐めてんじゃねェぞ?カッコつけてんのか知らねェけどよ。自分で働けや」
「な、何だよ。チンピラが……」
これ、このまま放っておいたらマズイな……。
「マルデダ、止めてくれ。そういうのは無しだ」
「……テメェいいのか?舐められてんだぞ?」
「……そいつはそういう奴だよ。最初から大人しく返してくれるとは思ってない」
「……どうすんだ?」
「こうする」
俺は男に近付き、話を続けた。
「お前、男なら借りを返すもんじゃいか?」
「借りだと?別に助けろなんて頼んでないし……」
「俺にじゃない。ヘルメスさんに借りを返せと言ってるんだ」
「はぁ?」
「ヘルメスさんは、お前にあんなに酷い事されても、お前を見殺しにはしなかったんだぞ?正直な、俺はお前の事、途中で見放そうと思ってたんだよ。でも、ヘルメスさんは一貫してお前を助けようとしてた」
本当は死んで欲しいって思ってたって事は隠しとくか……。
「……別にそいつにも頼んでないだろ」
「……いい加減にしろよ。そういうのは子供の頃までにしろ。いい年してする事じゃない」
俺の後ろからヘルメスさんが顔を出す。直接近付くのは怖いんだろうか……。
「あ、あの……も、もう一度お願いします……。師匠から貰った大切な物なんです……」
男は目を背け、外を眺める。
「……どうすればいいんだよ」
「自分で考えろ。稼ぐ方法は色々ある」
「ここで働きゃいいだろ。あのセンセーなら任せても安心だろ」
マルデダの意見が一番現実的かもしれないな。
俺は男に提案する事にした。
「マルデダが言う様に、ここで働けばいい。あの先生なら、何だかんだ見捨てない筈だ」
「……いつまでに買い戻せばいい?」
「な、なるべく早いと……嬉しいです……」
「……分かったよ」
何とか約束させる事が出来た。こいつとしても金が無いと暮らしていけないし、この約束を守る筈だ。
一段落した俺はマルデダに尋ねた。
「ところで、日ノ本はいついなくなってたの?」
「昨日の夜にはもういなかった。多分だが、窓越しに誰かと密会して、逃げ出すチャンスを計ってたんだろうな」
「何で密会してるって分かったんだ?」
「……ここの病室は二階だろう?あいつの病室も二階だった」
「それが……?」
「窓のレールの部分に土が付いてた。あれは誰かが、あそこに足を掛けた証拠だ」
という事は、誰かが病院の壁を登ったという事か……?いったいどうやって……。
「おい。それより早く帰れよ。お前9時間もここで寝てたんだぞ。あいつらが心配してるんじゃねェか?」
しまった!そうだ……散歩に行くって言ってたんだ……。言い訳どうしよう……。
「……か、帰るよ」
「おう、じゃあな」
俺はヘルメスさんと一緒に病室を出ると、家路についた。
「あ、あの……ごめんなさい……私のせいで……」
「いえ、いいんです。嘘をついた俺の責任です……」
「……あの!こんな時に言うのは自分でもどうかと思うんですが……」
「何ですか?」
「あの……も、もう敬語使うの止めてもらえませんか……?」
どうしたんだろう……このタイミングで……。
「そうはいきませんよ。ヘルメスさんは年上なんですから」
「で、でも……こ、こんな情けないのが年上を名乗るなんて……」
まただ……。俺はヘルメスさんの手を握る。
「そんな事無いですよ。今日だって頑張ったじゃないですか」
「頑張れてないです……オーアさんの方がよっぽど……」
「頑張りの度合いは人それぞれです。ヘルメスさんは今日凄く頑張ってましたよ?だから、情けないだなんて言わないで下さい」
「……ごめんなさい。そうですね……年上がこんな事言う方が情けないですよね」
何とか持ち直してくれたか……。
「ヘルメスさん。年上なら、俺の事呼び捨てにして下さい。敬語も無しで」
「えっ!?そ、それは流石に……」
……ここは多少強引に行った方がいいかもな。
「駄目ですよ?ほら、試しに言ってみてください」
「う…………オ、オーア……?」
「そうです!出来たじゃないですか!」
よし、これでヘルメスさんも少しは気が楽になったかな。
俺は手を離し、共に家に帰ろうとした。しかし、俺は彼女を甘く見ていた。
「ま、待って……!」
「何ですか?」
「私の事……家族として受け入れてくれたんで、だよね……?だったら……私の事も呼び捨てで……」
……思っていたよりも頭が働くんだな……。こういう返しをされるとは思ってなかった……。
「えっと……じゃあ、何て呼びましょうか?」
「じゃ、じゃあ……お姉ちゃん、で……」
ヘルメスさんが恥ずかしそうにする。恥ずかしいなら他の呼び方にすればいいのに……。
「じゃあ……ヘルメスお姉ちゃん……?」
ヘルメスさんは目を輝かせ、俺を見る。この人……そういうタイプの人か……。
「か、帰ろう……!オーア……!」
「うん。そう、だね……お姉ちゃん……」
俺達は夜道の中、家へと帰った。
不安だったが、どうやら遅くなったのも、ヘルメスさ……お姉ちゃんに街を案内していたからだという理由で納得してもらえたようだった。
マティ姉が自分の立ち居地を盗られたと騒いでいたが、まあ一日経てば収まるだろう。
こうして、俺に新しい家族が出来た。




