Chapter 10 熊鍋
夜。村の広場。
村人みんなで熊鍋を囲んでいる。
料理の量は多く、久しぶりに村人全員の椀が満たされている。
表面上は祝いの席に見えるが、大人たちは早くも今後について議論している。
「明日から見張りを立てよう」
「森側の柵を伸ばせないか?」
「隣村にも知らせよう」
自治政府の徴税が止まれば、これまで奪われていた麦や食糧を村へ残せる。畑を耕す力も、柵を築く力も戻る。
楽観できる状況ではない。
それでも村人たちは、初めて、何を奪われるかではなく、残ったものをどう使うかを話し合っている。
話し合いの中心にユーグはいない。無言で黙々と熊鍋を食べている。
そこへ、昨日黒パンを分けた少年の妹が、恐る恐る近づいてくる。
ユーグが羽織っている熊毛皮の外套に触れる。
「ふわふわだー」
ユーグは妹を一瞥し、何も言わない。そのまま食事に戻る。その様子を見ていた他の子どもたちも集まってくる。
「触っていいの?!」
「僕も!」
「私も触る!」
一人がユーグの腕にぶら下がり、もう一人は背中へよじ登る。ユーグは食事を続けようとするが、子どもが邪魔で腕を動かしにくい。
「……食いづらい」
不満そうに漏らすが、子どもたちを振りほどこうとはしない。
役人を一撃で吹き飛ばした男は、今は子どもたちの遊び場になっている。
大人たちの議論は続いている。
少年は、子どもたちに囲まれながら熊鍋を食べるユーグを見て、言った。
「父さん、俺、いつかああなりたい!」
少年の目はキラキラと輝いていた。
父親はユーグを見て少し考えると、少年に苦笑いを向けた。
「……うーん。どうなんだろうなあ?」
第一章 なんだこの男は? 完




