Chapter 5 一宿一飯
翌早朝。
少年は、ユーグが家にいないことに気づいた。
部屋に外套があるので、村を発ったわけではなさそうだった。
外の犬が、けたたましく吠えている。
「何だろう?」
外に出ると、村の入口の方からユーグが歩いてくるのが見えた。
少年がユーグに駆け寄ると、途中で足が止まった。
「……え?」
ユーグの肩に、昨日と同じくらい巨大な熊が乗っていた。
村の大人数人でも運べない大きさだった。
「これ……一人で?」
「ああ」
「どうやって?」
「狩った」
「それは見れば分かるよ!」
ユーグは熊を地面へ下ろす。ずしん、と音がする。
「どうして?」
「肉になる」
「……うん」
「脂も、毛皮も使える」
「うん」
「なら、いいかと思った」
少年が聞いたのはそういう意味ではなかったが、ユーグの言葉にただ頷く。
他の村人も集まってくる。村長が目を丸くしながら尋ねる。
「まさか……我々のために?」
ユーグが村長を見る。
「昨日、もらったからな」
「もらった?」
「飯」
少年が昨日の食事を思い出す。薄い麦粥と、固い黒パン。
「これ、絶対あの飯より高いよ!」
「そうか?」
「そうだよ!」
そう言って笑う少年の目は、輝いていた。
そこから、村は急に忙しくなった。
「刃物を持ってこい!」
「桶だ!桶!」
「子どもは離れてろ!」
大人たちの大きな声が飛び交う。
久しぶりの肉に、子どもたちも目を輝かせている。肉だけではなく、脂、毛皮、骨も利用できる。
熊一頭で税の問題が消えるわけではない。それでも、数週間をしのぐ助けにはなる。
少年は、木に寄りかかり腕を組んでいるユーグへ声をかける。
「ユーグも食べるよね?」
「ああ」
「夜、みんなで!」
「食う」
「うん!」
少年は大きく頷く。
村には、ほんの少しだけ力が戻っていた。




