Chapter 7 勝者の不満
「え? 出場停止、ですか?」
自分の試合を危なげなく制したエレノアは、選手控え室で拍子抜けした声を発した。
「そうだ。運営側で協議した結果、ラグナードとドルベルクの試合はラグナードの勝利。ただし、ラグナードは以降の試合には出さんことに決まった」
剣術教官が告げる。
エレノアは、次の試合でユーグと対戦するものと踏んでいた。しかし、大会の安全管理を鑑みてユーグは出場停止。
結果、不戦勝となったのだ。
「…賢明なご判断かと」
エレノアをねぎらいに来ていたアリスも同意する。
しかし、エレノアの反応は違っていた。
「…異議ではありませんが、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「彼はルール違反をしていませんよね?」
「そうだ」
「つまり、安全管理の問題は別として、試合自体は成立可能というご認識で?」
「…そうなる」
なぜか、エレノアはそわそわしている。
教官が訝しむ。
一方、アリスは額に手を当て、ため息をついていた。
「であれば、もし私が優勝した場合には、真の優勝者を決めるという意味で、私が彼と最終試合を行うのはいかがでしょう? ほら、ちょうど一試合分短縮されるわけですし――」
教官は口をあんぐりと開け、言葉が出ない。
「こいつは何を言っているのだ?」と顔に書いてある。
「エレノア」
「なんでしょう?」
「駄目ですよ?」
「…でも」
「でも、ではありません」
「えー」
「えー、でもありません」
「……」
「エレノア?」
「……はい」
エレノアはがっくりと肩を落とした。
それ以降、大会は大きな混乱もなく進んだ。
優勝は、エレノア・フォン・ヴァイスハイト。
第一試合から決勝まで、相手の技量を引き出しつつ、自身の技術を見せることも忘れない、授業のお手本のような試合だった。
表彰が終わった後、エレノアはアリスと共に帰路についていた。
「もう。まだ拗ねているのですか?」
「いいえー? 大変有意義な大会でした。不満などありませんとも」
言葉とは裏腹に不満しかない顔を見て、アリスは苦笑し、話題を変える。
「ユーグですが、彼は試合の後すぐに、ドルベルクさんのお見舞いに向かったそうです。無表情でわかりにくいですが、とても反省していたみたいですよ」
「…ほほう」
試合中の様子から察してはいたが、やはりそういう人物らしい。
「彼は剣術家としてはどうなのですか? 今回は残念でしたが、あなたが戦いたがるくらいですから、相当なものでは?」
エレノアは、アリスが話題をこちらの興味に寄せていることを察し、少し頬を緩める。
「まず、剣術家、とは違うかと。戦ってみたいというよりは、自分の技の限界を試してみたかった、というのが正確ですかねえ」
アリスが首を傾げる。
「ですが、実力者のドルベルクさんを剣で制圧しました。それは、剣術が優れているからではないのですか?」
すると、エレノアは「そう思いますよね?」とでも言いたげな顔を向ける。
「身体能力は認めます。実際、あの一撃を捌くのは、我が家の高弟クラスでも厳しいでしょう。――ですが、極論、剣である必要がないのですよ」
「はい?」
「例えば、棍棒でも斧でも、それこそ角材でも、手に持てるものならほぼ同じ結果を出せる、ということです。――ね? 剣術ではないでしょう?」
「…なるほど」
「はい。あれは、『暴力』です」
強さは認める。だが、剣術とは認めない。剣術家の矜持とも取れる表情を見たアリスが、息を飲む。
「では、彼は危険だと?」
アリスが伺うような視線を向ける。護衛としての評価を聞いているのだろう。
「ふふっ。それはまだ保留としておきます。今のところは、興味深い、とだけ言っておきますかねえ」
その後、アリスを家まで見送ったエレノアは、門弟たちと日課の組手を行った。
普段とはまったく異なる激しい打ち込みに、門弟たちは恐怖した。




