Chapter 6 暴力
先ほどまでの熱気から一転、試合場は静まり返っていた。
その中央には、くの字に折れた木剣を片手に、ユーグが立っている。
そして、ユーグの前には、コンラートがうつぶせに倒れている。
コンラートは動かない。
「……すまん。加減を間違えた」
ユーグが、顔に大量の汗を浮かべて言葉を発した後、
「中止!! 中止!!」
「医療班を呼べ!! 不用意に動かすな!!」
「コンラート!!」
場内が騒然とし、観客席にいたフェリクスが駆け寄る。
すぐに医療班も駆け付け、コンラートの状態を確認する。
コンラートは呼びかけには反応するものの、目の焦点は定まらず、「うう…」とうめき声を漏らしている。
(――今のは、なんですか?)
一部始終を見ていたエレノアは、目を見開き、冷や汗をかいていた。生まれて初めて、他者の剣筋を見失った。
両者の間合いが詰まり、コンラートが木剣を振り下ろそうとした瞬間、頭上に掲げていたユーグの右手が消えた。
――いや、そう見えるほどの異常な速度で木剣が振り下ろされ、コンラートの頭防具に直撃したのだ。
そして、その威力に耐えられなかった木剣は、くの字に折れている。
剣は身体能力だけでは決まらない。その理をあざ笑うかのような、圧倒的な暴力だった。
驚愕と恐怖に飲まれそうな中、今度はユーグを観察する。
あの大量の汗は、あきらかに冷や汗だ。つまり、本人にとっては想定外であり、重傷を負わせるつもりはなかったのだろう。
謝罪の言葉も含め、芝居には見えない。
(このような人物が、いるのですね…)
それからしばらく経った後、コンラートは意識がはっきりし、受け答えもできる状態になったとの報告が試合場に届いた。
今の試合結果の扱いは協議中であるが、とりあえず、予定されていた分の試合はそのまま進めるらしい。
(…ふむ。大事には至らなかったようで何よりです。――それはそれとして)
口角を吊り上げる。
(あれ、カウンター取れますかねえ?! 失敗したら死んじゃいますねえ!!)
「ふふっ…ふふふふふ」
そのまま、しばらく試合場を眺めていると、
「おや?」
気付けば、周囲から生徒たちがいなくなっていた。
いや、厳密には、生徒たちが距離を取り、遠巻きに自分を見ていた。
(ふむ、またやってしまいましたか。――まあいいでしょう)
エレノアは特に気にとめず、自試合の準備に向かった。




