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Chapter 5 剣術大会


「そこまで!」

主審の声の後に歓声が上がり、勝利した選手が剣を掲げる。

場所は士官学校の中央訓練場。

剣術大会当日である。


剣術教官が、仮設の観客席に座る生徒たちに向かって、今の試合の解説を始める。

食い入るように聞き入る者、メモを取る者、興味のなさそうな者と、生徒たちの反応は様々である。


(ふむ、まだ腕だけで振っている感じは否めませんが、相手をよく見てますねえ)

そんな中、あれほど出場を渋っていたエレノアは、最前列で楽しげに笑みを浮かべていた。


教官の解説が終わり、次の試合の準備が始まる。

エレノアが、係員によって整地される地面をぼんやり眺めていると、横から声をかけられた。

「やあ、あの日以来だね。ヴァイスハイト嬢」

声の主はフェリクスだった。一歩後ろに体格のいい男子生徒も立っている。


「はあ」

うっかり、座ったまま気のない返事をしてしまった。

流石に態度が悪いと思い、遅れて立ち上がる。

フェリクスは特に気にした様子もなく、笑いかける。


「観戦かい? 君からすれば退屈でしかないだろうに」

「いえいえ。他者の組手は発見だらけですよ。――ご用件は?」

「彼が君に挨拶したいと言って、きかなくてね」

フェリクスが後ろを振り返ると、男子生徒が前に出る。


「はじめまして、ヴァイスハイト殿。コンラート・フォン・ドルベルクです。ご高名はかねがね」

大きな体を曲げて会釈する。

「これはご丁寧に。ドルベルク殿ですね。こちらも、剣術研究会での噂はかねがね」

エレノアも会釈を返すと、コンラートは興奮した様子で話し始める。

「おお! 知ってくださっていたとは光栄です! ヴァイスハイト殿は我々剣士にとっての憧れですからね! そんな方と学生の身分で組手ができるとは、幸運以外の何物でもありません!」


(…おや?)

エレノアはトーナメント表の試合順を思い出す。

「ドルベルク殿の初戦は、ラグナード君ではありませんでした?」

「そうですが、それが何か?」

ドルベルクはきょとんとしている。

(おやおや?)

「ドルベルク殿と私が当たるのは二回戦ですので、まだ戦えるとは決まっていないのでは?」

ドルベルクはようやく問いの意味に気づいたのか、「ああ!」と頷く。

「はっはっは! あんな灰溜区など相手になりませんよ! 聞けば、剣術のイロハも知らぬ素人というではありませんか!」


(ああ、なるほど。そういう方でしたか)


エレノアが冷ややかな眼差しを向ける。ドルベルクの話は続いている。

「入学実技では目立っていたようですが、剣は身体能力のみではどうにもならないことを、私が教えてやりますよ!」

「コンラート、手加減してやれよ? 灰溜区でも、一応は一緒に学ぶ仲間だからな」

話を聞いていたフェリクスが口を挟む。口調こそ穏やかだが、ユーグを見下す態度を隠そうともしていない。

「はっはっは! お任せください! フェリクス殿の名に泥は塗りませんとも!」


(出自で人を測る点は、お二人ともそっくりですねえ)


「確かに、剣は身体能力のみでは決まりませんね」

「ええ! そうですとも! さすがはヴァイスハイト殿!」

憧れの剣士の同意を得られたと、コンラートは得意げに胸を張る。

「――ですが」


「あまり油断されない方がよろしいかと」


いつもの笑みを向けたエレノアは、二人に一礼し、その場を後にした。



それから約十分後。

当のユーグとコンラートの試合が始まろうとしていた。


「ラグナード、分かっているな?」

「?」

「剣を振って、相手に当てて制圧だ。それ以外の手段は?」

「禁止」

「…よし。この取り決めを守ることに集中しろ。勝ち負けはその次だ」

「わかった」


ユーグの返事を聞いた教官は、安心したような、そうでもないような微妙な顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。


(ああは言いましたが、さすがに勝つのは厳しいですかねえ?――おや?)

その様子を見ていたエレノアは、ユーグを無意識に応援している自分に気づく。

(…ふふっ。アリス様の気持ちが少しわかりますね。確かに、彼は見ていて気持ちがいい)


「両者、前へ!」


主審の合図と共に意識が試合に戻る。

試合場の反対側から、コンラートが悠然と歩いてくるのが見える。

対するユーグは、木剣を片手で無造作に持ったまま、所定の位置に立つ。

その所作にコンラートは顔をしかめるが、何も言わず自分も配置についた。

両者とも、頭部と胴体を守る大会用の防具を身につけている。


「うおおっ!」

「どっちもでけえ!」

向かい合ってみれば、両者の体格の良さが強調される。大きな差もない。

恵まれた体格を持つ者同士の好カードであると、観客席の熱気が高まる。


主審が手で合図し、試合場が静寂に包まれる。――そして、


「はじめ!!」


開始と同時に、コンラートが一気に前へ出る。

自分の得意とする重い振り下ろしで、一息に決めてしまおうという算段だろう。

(…ふむ、なかなか。――!?)

エレノアが踏み込みの鋭さに目を向けた瞬間、ユーグが、木剣を持った右腕を頭上に伸ばすのが見えた。木剣は真上を向いている。

まるで片手で万歳をしているようだった。およそ剣術の構えには見えない。


侮辱と受け取ったのか、コンラートの表情に明確な怒りが宿る。


両者の間合いが詰まる。

コンラートが、おそらくはその憤りを剣に込め、振りかぶる。



試合場に炸裂音が響いた。


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