Chapter 2 読み違い
ローレライ王立士官学校、学食テラス席。
昼休み。エレノアはアリスと昼食を共にした後、そのまま相談を受けていた。
既に十五分ほどが経っている。
そして、安請け合いしたことを後悔していた。
「…ですので、私は、彼自身を見ているつもりで、侯が選んだ理由を探していただけだったのです…」
「はい」
「しかも、その理由さえよく考えもせずに推測し、それで納得して…」
「はい」
「私は、自分の理解しやすい形に彼を当てはめたばかりか、そんな彼に勝手に好感まで…」
「はい」
「……聞いてます?」
「まあ半分くらいは。既に三回目ですので」
「エレノア!」
「はいはい。要するに、動機まで正確に理解していなければ、好感を抱く資格がなかった。そうおっしゃりたいのでしょう?」
「……はい」
三回も聞けば、さすがに要点は理解できた。エレノアは紅茶の入ったカップをテーブルに置き、真面目が過ぎる主君を見る。
「それで? お嫌いになったのですか?」
「……いえ。さらに好ましいと…」
「……ならいいのでは?」
「よくありません!」
アリスが立ち上がり、身を乗り出して叫ぶ。
エレノアは珍しく気圧され、少しのけぞる。
「これは過程の問題です! 私は、私自身の認識の怠慢を問題視しているのであって、これでは侯に顔向けができないと!」
「アリス様、落ち着いてください。皆さんが見ています」
普段の姿からは想像できない剣幕に、周囲の生徒たちの視線が集中している。
「し、失礼しました…」
視線に気づいたアリスが、顔を赤くして着席する。
そのまま俯くと、また訥々と語り出す。
「つまり私の好感は…不完全な理解に基づいていたわけで――」
エレノアは再度カップを手に取り、音を立てずにすすると、どこか遠い目をした。
(……だんだん面倒になってきましたねえ)
「今、面倒だと思っていません?」
いつの間にか、アリスが少し恨めしげな目でこちらを見ていた。
「え?! いえいえ、めっそうもありません!」
流石に鋭い。エレノアは冷や汗をかいて作り笑いを向ける。
「…とにかく、これではフェリクスと同じです」
「それは違うでしょう」
作り笑いから呆れた顔に変わり、きっぱりと告げる。
「…そうでしょうか?」
「はい。私からすれば、フェリクス殿のはただの決めつけ、アリス様のは読み違いです。――というか、私嫌ですよ。フェリクス殿と同じ方に仕えるなんて」
「……」
今度は黙ってしまったアリスを見て、エレノアは苦笑しながら、小さくため息を吐く。
「はいはい。出会ってまだ一ケ月程度なのに、そんな簡単に理解できるわけないでしょう? これから知っていけばいいのでは?」
「……そう、ですね。私は、少し意固地になっていたようです」
(少しではないですが。まあ、それだけ衝撃的だったのでしょうけど)
気づけば、昼休みも終わりかけていた。
二人は揃って校舎に戻る。
(それはそれとして。彼については見定める必要がありますねえ。――護衛はつらいです)
エレノアは校舎へ向かいながら、そのようなことを考えていた。




