Chapter 7 がんばれ
軍は敗走した。
急行による疲労に加え、さらには戦意の高い兵がユーグによって優先的に無力化されたこともあり、乱戦は数分で決着した。
運よく死者は出ず、動ける兵たちは負傷者を助け起こしながら撤退したが、マルクを含む何人かの兵は村に取り残された。
「っは?!」
「お。起きたか。おーい、水持ってきてやれ」
「いてて…、こ、ここは?」
マルクが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
頬が痛み、顔をしかめると、傍に座っている中年の男が答える。
「村だよ。あんた、何度か目ぇ覚ましたり寝たりしてたんだよ。軍が帰ってからもう二日だ」
「え?! あ、あの…なんで?」
「ん?」
「なんで、助けてくれたんですか? 俺、村の人たちに剣を向けたのに…」
男はきょとんとした顔をして、少し考える。
「別にあんただけじゃないよ。他にも取り残された兵はいたさ。そりゃ腹は立ったけどね。そのまま放置ってわけにはいかんだろう?」
男の言葉を聞いたマルクは俯く。
「でも…俺は…」
「見てたよ。あんた、戦ってなかっただろ」
「…え?」
思いがけない言葉に、マルクが顔を上げる。
「剣を抜いて、そこから動いてなかっただろ? 戦う気がないことは、見りゃわかったよ」
マルクは、自分が何もできなかったと思っていた。
しかし、誰にも斬りかからなかったことが、無意味ではなかった。
「あと、泣いてたしな」
「え?…あ!」
マルクは、恥ずかしくなったのも束の間、気絶する直前のできごとを思い出した。
自分はあの大男に殴られて気絶したのだ。
『今からなれば?』
かけられた言葉がよみがえる。
あのときは色々と一杯一杯だったが、いくらか冷静になった今なら、別の受け止め方ができる気がした。
(今からでも、何かできるのか?)
ふと、マルクは巡回警備中に見かけた間に合わせの柵を思い出した。
「…何か、やってみるかあ」
それから数日後、村では、壊れた柵や家屋の修繕が行われている。
「マルクさん、そこ終わったらこっちも頼めるかい?」
「ああ、そのままにしといて」
回復した他の兵たちは皆帰ったが、マルクはしばらく村に留まり、手伝うことを決めた。
本来なら軍規違反だが、同じく取り残されていた先輩の二等兵は「村に残ることは黙っておく」と言ってくれた。
先輩には両親宛ての手紙も渡してある。
「よし…と!」「…へへ」
柵の補強が終わる。
丸太同士の隙間を詰め、横木で連結した。根元も土と石で固めてある。ちょっとやそっとでは突破できないだろう。
ふと、補強が終わった柵を見ているユーグに気づく。
「…興味あるのか?」
「ああ、すごいな。俺にはできん」
マルクは目を丸くすると、思い切って聞いてみることにした。
「…ひょっとして、認めてくれてんのか?」
「言っただろ。がんばれと」
(……言ったっけ?)
全く記憶になかったが、深く考えるのを止めた。まだ仕事はたくさん残っているのだ。
マルクは、村中からかき集めた大工道具を木箱に入れると、次の作業場所へ歩き出した。かなり重い。
それでも、その足取りは、村に来る前より力強かった。
第三章 今からなれば? 完




