Chapter 6 今からなれば?
広場には、剣と槍、そして農具がぶつかる音と怒号が、絶え間なく響いている。
作戦の詳細を聞かされていた兵は村人に応戦するが、事情を知らなかった兵は戸惑い、「よせ!」と制止しながら村人を押し留めている。
だが、既に隊長を失ったローレライ軍は指揮系統が崩れ、完全な乱戦状態となっていた。
マルクは、剣を抜いたまま一歩も動けずにいた。
誰かを斬ろうとしているわけではない。この異様な状況の中、丸腰でいる恐怖に耐えられなかったからだ。
その手は震えている。
(なんで……なんでこんなことになってんだよ?!!)
自分は、弱い人間を助ける英雄に憧れて軍に入った。
なのに、今の自分は、本来守るべき村人に剣を向ける側にいる。
もう自分が何をやっているのか、どうしたいのか、全く思考が追い付かない。
すると、巻き上がる土煙の中、ユーグが兵たちを殴り倒している姿が見えた。例外なく一撃で無力化している。
そして、ユーグがマルクを視界に捉えた。
近づいてくるが、マルクがその場を動かず震えているのを見ると、目の前で立ち止まった。
マルクは、目の前の男に自分が思い描いていた英雄の姿を重ね、嫉妬と憧憬の念を抱いた。
村人のために真っ先に動いたときもそうだ。この男は、なぜこんな風にできるのか。
「お、俺だって…」
気付けば、声に出していた。
「あ?」
ユーグが首をかしげる。
「俺だって!誰かを助けられる、英雄になりたかった!!」
涙が溢れていた。
こんな企てに加担した自分は、もう英雄にはなれない。こんなことを吐き出したところで、どうにもならない。
それでも、この男には聞いて欲しい。マルクは、なぜかそう思った。
「っふ…ぐっ…!」
下を向き、嗚咽が漏れる。もう消えてなくなりたい。そう思った時だった。
「今からなれば?」
「……え?」
間抜けな声が漏れる。何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
(そんな、こと…できる、わけ)
ない、と言い切れない自分がいた。そして、少し腹も立つ。
ここまで思い詰めた末の告白を、簡単に片づけられた気がしたからだ。
それなのに――自分の中で固まっていた答えに、亀裂のようなものが入った気もした。
「お、俺は…!」
マルクが顔を上げる。次の瞬間、その目に飛び込んできたのは、なぜか、ユーグの拳だった。
「ぐはっ?!!」
地面を一、二転して仰向けに倒れる。
薄れゆく意識の中、マルクは信じられないといった表情でユーグを見る。
「お…お前…今の、流れで…な、殴るか?…普通…」
「よくわからんが、剣抜いてるだろ」
ユーグが少し困惑した顔で見ている。マルクは「こっちがわからん」と言いかけ、気を失った。
「ああ、あと、がんばれ」
マルクには聞こえていなかった。




