Chapter 1 なんでこんなことに + Chapter 2 一旗揚げる
Chapter 1 なんでこんなことに
辺りには、鉄のぶつかる音と怒号が、絶え間なく響いている。
巻き上がる土煙の中、ローレライ王国軍の三等兵、マルクの手が震えている。
あの大男が自分を見ている。男は丸腰だ。なのに、握った剣が、ひどく頼りなく感じる。
(なんで……なんでこんなことになってんだよ?!!)
時は半日前にさかのぼる。
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Chapter 2 一旗揚げる
――大陸歴一四一年、陽炎の月(七月)、中央緩衝地帯、街道。
三等兵マルクは、息を切らしながら行軍に加わっていた。
(き、きつい…!わかっちゃいたけど、徒歩はきつい!)
部隊の数は四十名ほど。街道は狭く、隊列は縦に伸びている。かろうじて、先頭で乗馬している指揮官が見える。
(一旗揚げよう、と思って家を出たけど、早まったかなあ?)
マルクの家は、ローレライの炉端街(商業区)に店を構える大工だった。
子どものころから物語に登場する英雄に憧れていたマルクは、二十の誕生日に父親と大喧嘩し、家を飛び出した。
父親は店を継いでほしがっていた。だが、人生を決めつけられることへの反発と、未だ燻る英雄への憧れが、マルクを軍へと向かわせた。
「おい新入り、遅れんなよ」
隣を歩く二等兵が、マルクの背中を叩く。
歳はマルクと一回り以上離れている。いわゆる、ベテランという雰囲気のある兵士だった。
「す、すみません。この装備でこんなに歩くの、初めてなんで…」
「俺たち一般兵は、馬なんて高級なもんには乗れねえんだ。任務の前からばてちまってたら、話にならねえぞ」
マルクは返事すら億劫になっていたが、さすがにこれくらいは聞いておこうと思い、二等兵に尋ねる。
「あの…今回の任務って、巡回警備って聞いてたんですけど。こんなに遠くまで行くんですか?」
二等兵は少し考えると、小声で話し始める。
「俺も詳しくは知らねえんだが、この先の村に用事があるらしい」
「村に?」
「最近、自治政府からの税収が滞ってるって話は知ってるだろ?」
「はい」
「今向かっている村が、最初に自治政府から独立したんだ。そこから他の村も真似し始めたらしい」
「それで税が?」
「そういうこったな」
マルクはやはり疲れていたが、更に疑問が生まれ、質問を続ける。
「でも、なんでその村は独立したんです?自治政府は上手く回してるって聞いてましたけど」
二等兵は「そう思うだろ?」とでも言いたげな顔をすると、マルクに耳打ちする。
「なんでも、正体不明の大男が、役人を殴り飛ばしたらしい」
「はあっ?!殴った?!」
「バカ!声がでけえ!」
「す、すみません!でも何ですかそれ。仮に不満があっても、役人殴っちゃダメでしょ」
「俺もこれ以上は知らん。ただ、その村に向かうってことは――何かあるかもな?」
二等兵が意地悪く笑う。マルクが顔を青くするのを楽しんでいるようだ。
「ええ…」
マルクは、今から向かう村にそんな凶暴な人間がいるのか、と不安になった。
それに、結局は任務の目的も分からない。
ため息をつき、自分の足元を見ながら行軍を続けた。




