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True Code  作者: 奏雨
<渦垂 凪>潮風はふたたび
9/19

8.

猫の争いで寝られぬ

すっかり夜の帳が下りた街を抜け、二人は清月工房の扉をくぐった。

公共交通機関を利用せず歩いて帰ってきたのだ。


「遅かったな」


ひどく帰りが遅かった二人を工房主である陣は出迎えた。

店頭に並ぶ数々のガラス細工が夜の光を反射して優しくきらめいている。


「陣さん、私は今から調べることがあります。後ほど時間があれば話したいこともあるので、できれば後ほど私の部屋に来てほしいです」

「......何かあったようだな。わかった」

「凪、詳細を調べてきますのであなたは休んでください」

「はい......」


生返事をしながら、凪は自分の部屋へと向かう。

その背中を見守ってから楓も足早に自室へと籠もった。


翌朝。  

珍しく早起きし、まだ薄暗い工房の廊下を進んでいた凪は、リビングから漏れ聞こえる人の声に足を止めた。


「今、ノヴァとともに『異夜』のコードを弾きました」


楓の、いつもより少し硬い声が響く。


「……やはり、政府の保管庫から盗まれた遺物と、凪のエネルギー波形が完全に一致しているな」


低く応じるのはリーダーの陣の声。

凪は廊下の影に身を潜め、わずかに開いたドアの隙間から中を覗き込んだ。

シヴォンやしずなもいる。


「ついでに宗教絡みときたわね。もう、面倒くさいじゃない」

「これ結構危なそうだけど......それに僕の知ってる限り、こういう組織は楓みたいに相手が動く前に先に動く、をモットーにしてるから多分今から動き出しても手遅れな気がする」


しずなの言葉に、誰も言葉を返さない。

重苦しい沈黙がリビングを満たす。


「遅すぎるかもしれませんが今から動いてみましょう。凪や他の能力者を使ってこの組織が具体的に何をしたいのか、それを私は調べます」


楓がソファから立ち、廊下に向かって歩いて来るのをみて、凪は足音を殺してその場をすぐに離れた。

(自分でも役に立つことを......)

その一心で凪は外へ出た。


―――.。***。.―――


凪が足音を殺して工房を去ったことなど露知らず、楓は自室へと引き返した。

すぐにデスクの椅子に滑り込み、複数のモニターの冷たい光の中に身を投じる。


「これ以上の情報は、私自身の手で剥ぎ取るしかありませんね……」


液晶の光がその鋭い瞳を青く照らした。

指がキーボードの上を躍り、電子の戦いが始まった。

相手は政府の保管庫から遺物を盗み出すほどの組織。


国家の枠組みから外れた天才ハッカーや、かつて政府の機密機関を追われた最高峰の技術者たちが、潤沢な闇の資金と法に縛られない研究環境を求めて連中の下に流れ着いているのだ。

そのセキュリティは幾重にも張り巡らされた迷宮のようであり、一筋縄ではいかない。


楓はノヴァの演算能力をフル稼働させ、敵の偽装コードを一つずつ剥ぎ取り、バックドアを抉じ開けていく。

時間を忘れ、ただ画面に向かって思考を研ぎ澄ませる。

遮光カーテンの隙間から差し込む光が、朝の白さから、次第に鋭い昼の太陽へと変わっていった。


時計の針が丁度十二時を回った、その時。

不意に楓の動きがとまった。


「......いつもより時間がかかりましたが、アクセスできましたね」


普通のハッカーなら数日ほどかかる作業を楓は六時間で終える。

何百もの暗号を突破し、ついに楓の画面に表示されたのは膨大な秘匿ファイル群だった。

データを上から順に解析していく。

読み進めるうちに楓の顔は青ざめていった。


「皆さん!!」


思わず楓はみんなを大声で呼んだ。

しずなが一番に部屋に飛んでくる。


「え?! 能力者の兵器化?!」


他のみんなも遅れてやってくるが、しずなのその言葉に凍り付いた。


「どういうことだ」

「遺物や彼らのもつ技術を使って、能力の出力を強制的に引き上げたり、能力自体を融合する。そして洗脳して私兵として運用するというものです...... とても事が大きくなりました」

「そんなことが可能になったら日本はあっという間に死んじゃうわね」


そのために国に把握されていない、未登録能力者ばかりを狙っているのだろう。

楓は本日更新されたばかりのログファイルを見つけ、開く。


そこには見慣れた少年の顔写真と、エネルギー波形のデータが浮かび上がっていた。

【個体名:渦垂 凪】

【ステータス:確保済み】


「......凪?」

「学校を休むってカードはキッチンに置かれてたけど、てっきり部屋で休んでるものかと思っていたわ。どういうことなの?」

「見てくる!」


しずなが部屋を飛び出した。

廊下の向かい、左の扉をがばっと開けて確認する。


「いないよ......凪」


その場にいた全員が息を呑んだ。

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