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True Code  作者: 奏雨
〈しずな〉嘘は静かに
17/19

14.

だが、陣の口から語られる事実はそれだけに留まらなかった。

資料をめくる彼の指先が、わずかに強張る。


「宇中教授が絶望したのは、警察の執拗なマークにだけじゃない。これは最近のことだが、教授は蓮くんの部屋から、ある裏の通信ログと研究データを見つけてしまったんだ」

「それが、日奧 静輝との接触だったと......」


楓は資料のあちらこちらに散らされたその名前を見つける。

陣はああ、と頷いた。


「日奧って......俺でも知ってるぞ。よくニュースになってた奴だ」

「うん、金のためにどんな犯罪でも犯しちゃう元科学者。数々の凶悪な事件に関与していながら、警察はいまだに尻尾すら掴めていない。裏社会の大物の一人だね」


恐らく、宇中 蓮はすでに犯罪に手を染めているだろう。

だがそれを信じられず、誘拐されたと信じて教授はここにやってきた可能性が高い。

それを全員が理解した。


日奧のような大物と接触しているとなると、その者は決して善人ではない。

周りを身内で固め、用意周到に逃げ切る人だからこそ、そう言える。

日奧は利害が一致していても、自ら力になりたいと思う人しか受け入れない。

つまり、蓮は自ら進んで、その怪物の領域に踏み込んだのだ。


「自分の矜持を捨てて、息子を救うためにここに頭を下げてきた。警察が捕まえられない相手なら、少しでも定評のある"探偵"である我々に頼るしかないとな」

「蓮さんが本当に犯罪者になってしまったかどうかはまだ、わかりません。でも確率は高いでしょうね」


誰もが否定できないその現実に、居間には少しだけ静かな時間が流れた。


「ひとまず、楓としずなには大学に行ってもらって宇中教授の話をもう一度詳しく聞いてほしい。個人研究室も見せてもらえるだろう」

「僕行くのまずいんじゃ......」

「私たちは探偵、ですよ?」


先ほどとは打って変わって、にこにことどこか面白がりながら楓は、まるでこれから楽しい散歩にでも出かけるかのような軽いトーンで言った。

その隣で完全に置いてけぼりが確定した凪が、ソファに倒れこんで、恨めしそうな声を絞り出す。


「外に出られない俺の屍超えてけ......」

「はいはい、行くってば」


しずながゆっくりと立ち上がり、ソファに突っ伏した凪の背中を叩いた。

これでこの後の方針は決まった。


数時間後。

冬の訪れを予感させる冷たい風が吹き抜ける、昼下がりの日明央大学キャンパス。


「うわぁ、丁度必修の講義もなくて全休の日に来ることになるなんて」


上着の襟を少し合わせながら、しずなが校内を案内するように先頭を歩く。

そしてその後ろを楓が穏やかな表情でついていく。

二人は他人と比べると特別どこか違う雰囲気を持っているので、歩くだけでも自然と周りの視線を集めていた。


「それにしても、この時間にあの宇中教授の個人研究室に行くんだよね。なんであの人の授業受けちゃったんだろ......」

「おや、何かあるのですか?」


歩調を緩めることなく、不思議そうに首を傾げた。


「うーん、何というべきかな......」


しずなは周囲の視線を器用にいなしながら、小さく溜息をついた。


「あの教授の講義、出席確認の代わりに毎度、独自の倫理観に関する小論文を提出させるんだよ。もちろん、少しでもデータに基づかない主観や感情論が入ってたら即、容赦なく減点。僕のレポート、毎回ギリギリ合格ラインなんだよね」

「で、目をつけられてると?」

「きょーじゅには多分僕のことが不安定要素の塊にしか見えてないだろうからそこも含めて?」


しずなは苦笑まじりに肩をすくめた。

建物の中に入ると、階段で5階へと上がっていく。


「ここだよ」


足を止めたのは金属製のドアの前だった。

横にかけられたプレートに『宇中 斗文』と厳格な書体で刻まれている。


「失礼しますー。清月工房の者ですー」


三回しっかりとノックした後、しずなは少し声色を変えてそう言った。


一拍おいて、中から入れ、と少し鋭い声が響いた。

扉を開けた先は、壁一面の本棚に専門書や資料が隙間なく敷き詰められ、デスクの上にもたくさんの紙が嵩張っている。


「君は......祈君じゃないか」


祈......?と楓はしずなの背後でその名前を反芻する。

恐らく、それがしずなの本名。


「きょーじゅ、そんな僕が不審者みたいな目をしないでくださいよ」

「案内しただけか?」

「いいえ? ちゃんと教授のお役に立つために来ました」

「初めまして、今回の件を担当する秋月 楓と言います」


楓は少ししずなを遮るように一歩前に出ると、名刺を差し出した。

洗練されたその様子は人に安心感を与える。

宇中は差し出された名刺を受け取り、しずなに対して眉をひそめた。

楓については好感触なようで彼にとっての信用にするに値するという基準を超えているようだった。


「はぁ、他の者を向かわせるとは聞いたが、こいつだとは聞いてないぞ?」

「やだなあ、僕だって驚きましたよ? あの教授が僕たちの店に来たなんて」


どこか含みのある笑顔を浮かべ、しずなは放ちながら手をひらひらとさせてそう言った。


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