#4¦23時の攻防戦¦
ルナは両手を腰に当て、わざとらしく胸を張って見せた。
「五分ぴったり!えっへん」
子供のような仕草に、橘が思わず苦笑する。
ルナは軽く目を閉じ、数拍の間だけ自分をリセットした。まぶたを開けたとき、そこにはもう完璧なNo.1の顔があった。
「状況は?」
「ルナさんと2位のホタルさんとの差は約250万円ほどです」
橘の声は低くとても冷静だ。
「ホタルさんも今夜は団体を入れていて、青樹社長ほどではありませんがかなり売上を伸ばしてきました。ただ……この後、追加のお客様を呼ぶ予定がないそうです。24時で上がる予定だと」
「あがって着替えている途中に飛び入りの来客はありえるわ。この業界で『確定』なんて言葉は存在しない。私は最後まで足元をすくわれないように戦うわ」
「わかりました。23時から数席、指名が入っています。卓回しでいきましょうか」
卓回し——
指名客がいるテーブルを順番に短時間ずつ回る接客方法だ。一席に長居せず、全体の売上を底上げするための高度なテクニックだ。
「それで構わないわ。それから……さっきのチトセさん、このあともヘルプで私の席につけて。あの子は囲っておきたいわ」
橘は頷くとルナを心配そうに見つめる。
「青樹社長のテーブルで、かなり飲まれていました。大丈夫ですか?」
ルナはふっと笑った。
「私を誰だと思っているの?」
その言葉は橘に向けたものだが、同時に自分自身にも言い聞かせるものだった。
この街の頂点に君臨する夜の蝶は、まだ翼を休めるつもりなど微塵もなかった。
ルナはドレスの裾を軽く払い、廊下の先——
まだ数字が踊る戦場へと再び歩き出した。
23時を回ると、ルナ指名の席は次々と埋まっていった。
「ルナは今日も美人だな」
「ルナちゃんこの間のSNS見たよ」
「ルナさん一緒に写真撮っていい?」
ルナはすべて笑顔で対応しながら、頭の中で素早く計算をしていた。
(卓替えは15分単位。延長が狙えるお客様と1setでも売上が伸びそうな卓を重点的に……)
卓を移動中、橘がルナを呼び止める。
「ルナさん、松田様から連絡です。『今から行く』と」
「……え?」




