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#25¦ソラリスとセレナ¦

 

 廃港の夕暮れは、まるで血を流した後のように赤黒かった。


 ソラリスはセレナの後ろを歩きながら、肩のシラタマにそっと囁いた。

 

「シラタマ、ドラゴン化に備えてほしいの。可能な限り小さくなって、このカバンの中に隠れてて。隠れ家の中に入ったら、ドラゴン化したときもすぐ小さくなって隠れるの、いい?」

 

 もこもこの雲が「うん!」と小さく返事をして、するりとカバンの中に滑り込んだ。ソラリスはカバンの蓋を軽く押さえ、歩みを速める。

 

 道中、港の中央にそびえていたはずの塔が目に入った。


 かつては聖女の力を増幅させる巨大な結晶石の塔だったはずなのに、今は真っ二つに砕け、残骸だけが夕陽を反射して鈍く光っている。

 

 ソラリスは無言でそれを見つめ、胸の奥で小さく息を飲んだ。

 

 ――20年の空白……ここにも何かあったのね。

 

 セレナの隠れ家は、港の外れの半壊した倉庫の奥にあった。

 扉を開けると、薄暗いランプの明かりだけが部屋を照らしていた。壁は剣の傷や爪痕だらけで、ところどころ崩れ落ちている。ただ床は綺麗に掃除され、食器はきちんと揃えており、隅に置かれた布団も清潔に畳まれていた。人並み以下の生活基盤の中に、セレナの人柄が静かに滲み出ている。

 

「ここが私の隠れ家よ。……狭くてごめんなさい」

 

 セレナはランプの芯を調整しながら、改めて振り返った。

 

「私はセレナ・マリーナ。かつてはこのスウィートピア港でステージに立っていた歌手よ。隣にいるのはリリア。私の娘です」

 

 リリアが小さく頭を下げた。

 ソラリスも、8歳の体で精一杯背筋を伸ばした。

 

「私はソラリス。……フロレンシア様から聞いた話では、私はこの国の次の聖女らしいです」

 

 瞬間、セレナの紫の瞳が大きく見開かれた。

 

「フロレンシアに会ったの!?」

 

「夢の中でした。でも……感覚は本物な気がして」

 

 ソラリスは静かに訂正した。セレナは少し考え、ゆっくり頷いた。

 

「それは、彼女が扱えた力『共鳴』ね。信頼している相手の夢の中に介入できる……彼女も昔、よく使っていたわ」

 

 ソラリスは、夢の中でフロレンシアが口にした「信頼」という単語を思い出す。ソラリスは自分の中にもフロレンシアとの信頼があるのか考える。

 

 セレナはソラリスを上から下まで見つめ、ふっと小さく笑った。

 

「それにしても……とても子どもには思えないわね。話し方、目つき、全部」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

 セレナは一瞬きょとんとしたが、すぐに苦笑した。

 

 質素なパンとスープ、水がテーブルに並べられる。ソラリスは礼を言いながら、ふと思い出したようにロベリアの花環匣を起動した。

 

「そういえば……」

 

 淡い光と共に、盗賊に殺された男が運んでいた箱が現れる。側面には『スウィートピア港行き』と書かれていた。

 

 中を開けると、保存食、傷薬、簡単なポーション類がぎっしり。明らかに災害時の支給品だった。

 

「これは……?」

 

「道中で盗賊に襲われた馬車からいただきました。……私より先に、この街を目指していたみたいです」

 

 ソラリスは簡単に道中の出来事を話した。

 

「それと……私、この街に来る前の記憶がほとんどないんです」

 

 セレナは一度頷き、深く息を吐いた。

 

「……わかった。じゃあ、私から話すわ」

 

 彼女は胸元のペンダントを無意識に握りしめ、ゆっくりと語り始めた。

 

「約20年前……フロレンシアが突然いなくなったのと同時期に、国中で災害が起き始めたの。この街も嵐、地震、竜巻が頻発して……夜になると森や海から魔獣がやってくるようになった」

 

 セレナの声が少し震えた。

 

「信じていたのよ。あの子なら、どうにかしてくれるって……」

 

 そして、

 

「でも……」

 

 言葉が途切れたその瞬間――

 外から、カンカンッ、カンカンッと、鋭い鐘の音が響き渡った。

 

 続けて、爆発音と人の悲鳴。

 ソラリスがハッと顔を上げた。

 

「こんな時に……!」

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