表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/30

#22¦荒廃した街¦

 

 馬の蹄が、崩れた石畳を踏む音だけが響いていた。

 

 ソラリスは手綱を握りしめたまま、ゆっくりと馬から降りた。8歳の小さな体では鞍から地面までの距離が遠く、シラタマがふわふわと体を伸ばして階段のように支えてくれたおかげでどうにか着地できた。手綱を肩にかけ直し、彼女は正面を見据える。


 スウィートピア港――。

 

 ゲームのホーム画面で何百回も眺めた、あの幻想的な街並みはもうどこにもなかった。

 

 カラフルだったはずの屋根はほとんど崩れ落ち、赤や青や黄色の瓦礫が海風に晒されて錆びつき、波が打ち寄せるたびに鈍い音を立てている。鉄骨が海水を浴びて赤黒く腐食し、半ば埋もれた船のマストが、まるで墓標のように突き出していた。空気には潮の匂いと、焼け焦げた木の残り香が混じり、甘く重い。

 

 ――どうして……こんなことに。

 

 ソラリスは唇を噛んだ。胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

 

 ゲームでは、毎日色を変える美しい海とまるで祭りのように賑わう市場と、歌姫セレナ・マリーナの歌声が響く港だったのに。

 

 ここは、ただの死んだ街だ。

 

「シラタマ……この街、何があったのかしら」

 

 肩の上のもこもこした雲が、きょとんと首を傾げた。

 

「わからない……でも、すごく悲しい匂いがするよ」

 

 ソラリスは小さく頷き歩き始めた。手綱を引いた馬も、おとなしく後ろをついてくる。崩れた石畳を踏むたび足元で瓦礫が崩れる乾いた音がした。8歳の身体は成人した大人の身体より軽いはずなのに、まるで鉛を背負っているように重かった。

 

 ――20年前の空白……。

 棺桶のメモ……。

 フロレンシアの夢……。

 頭の中で、断片がぐるぐる回る。

 この街の破壊と、ソラリスが目覚めた理由と、何か見えない糸で繋がっている気がしてならなかった。

 

 しばらく歩いたところで――

 突然、少女の悲鳴が響いた。

 

「きゃあああっ!」

 

 路地の奥、半壊した石壁の陰で10歳くらいの小さな少女が必死に逃げていた。その背後から、巨大なカニのようなモンスターが迫っている。甲羅は赤黒く濁り、鋏は鋼鉄のように光り8本の脚がガチガチと石畳を抉っていた。体長は優に3メートルを超え、口から滴る粘液が地面を溶かしている。

 

「シラタマ! あの子を助けて!」

 

 咄嗟にソラリスが叫ぶと同時に、肩の雲がぴょんと飛び上がった。

 

「うん!」


  シラタマの体が一瞬で圧縮され、手のひらサイズの小さな雲へと変わる。黒い点々の目が鋭く細まり、小さな竜の角がピンと立った。

 

 次の瞬間――

 

 シラタマが跳んだ。

 

 小さな体が風を切り、雷光を纏って一直線にカニモンスターへ突進する。

 

 ビリビリッ!青白い稲妻が炸裂した。

 

 カニの巨大な鋏が振り下ろされる直前、シラタマは空中でくるりと回転し雷を撃ち放った。

 

「えいっ!」

 

 雷撃がカニの甲羅に直撃。

 

 ガァン!甲羅が大きくひび割れ、青色の火花が飛び散る。

 モンスターが咆哮を上げ、鋏を横薙ぎに振るう。シラタマは身を翻し、背後からもう一撃。

 雷が脚の関節を撃ち抜き、カニの巨体ががくんと傾く。

 脚が一本、千切れて石畳に転がった。

 

 シラタマはさらに加速。

 小さく圧縮された体が、まるで弾丸のようにカニの目玉へ突き刺さる。

 

 ズドン!と、雷の爆発。

 モンスターの巨体が痙攣し、甲羅が次々とひび割れていく。

 

 その隙に、ソラリスは少女のもとへ駆け寄った。

 

「大丈夫!?」

 

 少女は瓦礫に座り込み、震えながらソラリスを見上げた。

 

 その瞳が、大きく見開かれる。

 

「……お母さんが、好きだった……お姉さん?」


 小さな声。

 

 ソラリスは一瞬、言葉を失った。

 

「え……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ