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#20¦聖女の力の本質¦


「私から聖女ソラリスに進言します」


 フロレンシアは言葉を続ける。

 

「聖女の力の本質は『めぐる力』。魔法を発動する時に詠唱の有無は関係ないの。大事なのは、心の中で『流れ』を思い描けるかどうか」

 

「その解釈は、聖女ごとに違うわ。私はこの力を『信頼』だと思った。人と人との信頼の輪。それが私にとってのめぐる力」


 ソラリスは息を詰めた。

 ゲームでは、そんな深い設定は出てこなかった。ただ「聖女の力で魔族を浄化!」みたいな表層的なものだけだったのに。

 

「私ね、あなたがこの力をどう解釈するのか楽しみなの」


 フロレンシアが微笑む。

 その表情は聖女としての笑顔というより母が子どもの成長を見守るような温かみのある笑顔だった。

 

 フロレンシアは、静かにソラリスを指さした。

 

「そうそう。ソラリスに伝えておくことがあるの。あなたの中には二つの魔力があるわ」


 ソラリスの背筋が、ぞくりと震えた。

 

「聖女の力と……魔族の力。昼は聖女の力が強く、夜は魔族の力が強くなる。制御するには、魔力の『めぐり方』を理解してほしいの」


 ソラリスには思い当たる節があった。

 ロベリアの花環匣と宵月の変華水が夜に使えなくなってしまったことと関係があるのか。


「フロレンシア……聞きたいことが……」

 

「ごめんなさい。そろそろ、目覚める時間よ」

 

 フロレンシアが微笑みながら、ソラリスの頬を優しく撫でる。

 

「また近いうちに、会いましょう」


 「待って!」

 

 ソラリスは思わず手を伸ばした。

 でも、指先は空を切った。フロレンシアの姿が、ゆっくりと白い光に溶けていく。

 

「待って、もっと話が……!」

 

 声は届かない。

 白い花畑が、遠ざかっていく。


 ソラリスは、ハッと目を開けた。


 まだ夜だった。

 

 焚き火の残り火が、ぱちぱちと小さな音を立てている。シラタマの巨大な白い鱗が、星明かりを反射して淡く輝いていた。翼で風を遮ってくれている温もりが、背中にじんわりと伝わってくる。

 

 ソラリスはゆっくりと息を吐いた。

 

 ピンクの髪が、額に張り付いている。頰が熱い。胸の奥が、ざわついていた。

 

 ――全部、夢……?

 しかし身体の感触が全てを夢だと思えなかった。

 ソラリスは膝を抱え、焚き火を見つめた。

 

 (聖女……私? 魔族の力……?)

 

 夜風が、枯れた森を渡っていく。

 遠くで、獣の遠吠えが響いた。

 

 ソラリスは、ブレスレットに視線を落とすと淡い青の宝石が、静かに光っている。

 

 ――まだ、わからないことだらけ。

 

 でもこの世界のどこかにフロレンシアは……きっとどこかにいる。そんな気がした。


 ソラリスは彼女に会うために、この世界に来たことを思い出す。

 

「待っててね……絶対に、会いに行くから」

 

 焚き火の炎が、彼女の青い瞳に揺れた。

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