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#16¦澄み渡る青い空¦


 枯れた木々の間を縫う風が月乃のピンクの髪を優しく揺らす。足元には、灰となった盗賊たちの残骸が、風に舞って消えていく。すべてが、あっという間の出来事だった。


 手のひらサイズのドラゴンが、月乃の指に絡みつくように巻き付き嬉しそうに体をくねらせる。


 「シラタマ……本当に、あなたなの?」


 月乃は小さなドラゴンを見つめた。白い鱗は雪のように輝き、飼っていたあの白いトカゲの面影を匂わせる。


 シラタマは、にこにこと頷いた。


 「うん!僕だよ、月乃!やっと、やっと会えた……!」


 その呼び方に、月乃の胸が疼いた。「月乃」――それは前の世界での自分。まだこの世界では誰も知らない、彼女の名前。


 ――どうして、シラタマがここに。


 月乃は、ゆっくりと息を吐き、質問を口にした。


 「ねぇ、どうしてこの世界にいるの?」


 シラタマは、嬉しそうに翼をぱたぱたさせながら説明を始めた。


「リツっていう神様に、月乃とまた会いたいって願ったら叶えてくれたんだ!月乃がこの世界に行くって聞いた時、一緒に送ってもらったよ!でも……着いたら月乃と離れ離れになっちゃって、それからずっとずーっと探してた」


 月乃は、目を丸くした。


 「……3日間も私を探してくれてたの?」


 「もっともーっとだよ。数えてはいないけど20年くらいかな!」


 ――20年。


 その数字に、月乃は息を呑んだ。リツの光に包まれてから、すぐにこの世界に目覚めたと思っていた。棺桶の中でほんの数日前に。なのに、シラタマは20年も――。


 月乃は無意識に自分の手を見つめた。小さくて、細くて、子供のような手。ピンクの髪が肩から流れ落ちる。少女の姿。


 ――もしかして。


 空白の20年。自分は20年眠っていたのか、あるいは自分が〝何かを〟忘れている20年があるのかもしれない。


 シラタマは、そんなソラリスの動揺などお構いなしに、嬉しそうに話を続けた。


 「この20年、ずっと月乃のこと探して、国中を彷徨ってたんだ!数日前、やっと月乃の気配を感じて、この国の王様に会いに行ったの。『月乃はどこにいるの?』って聞いたら、あいつら無礼な態度でさ……つい、城を吹っ飛ばしちゃった」


 月乃は、ぎょっとした。


 「えっ……城を、吹っ飛ばしたの?」


 「うん!ドカーンって!そのあと自力で気配を追ってたら、この森で月乃に会えたんだ!よかったー!」


 シラタマの無邪気な笑顔に、月乃は頭を抱えたくなった。詳細を聞くと、王は「そんなやつ知らない」と言い、ドラゴンは王に仕えるべきだと強引に主従契約を迫ってきたらしい。魔術師を使って無理やり契約をされそうになりシラタマは抵抗の末、城を破壊し逃げ出したという。


 ――つまり、このまま王都に行ったら、城を壊したドラゴンを連れたピンク髪の怪しい少女ってことになるわね。


 それに「月乃」という名前を使ったら、ますます疑いをかけられるだろう。王殺しの首謀者として。


 月乃は深く息を吸い偽名が必要だと考えた。


 「ルナ」は……仕事のことを考えてしまう。あの夜の蝶の名前はCLUB NOCTILCAに置いておきたいと思った。


 ――じゃあ。


 月乃は棺桶に落ちていたメモを思い出す。


 「ずっと愛しているわ、ソラリス」


 なんとなく、その名前が頭の中をよぎる。

 使うべきだ、と直感が告げた。


 「ねぇシラタマ。これからは、私のことをソラリスって呼んでくれる?」


 シラタマは、きょとんとして首を傾げたが、すぐに笑った。


 「わかった!ソラリス!かわいい名前だね!」


 〝ソラリス〟は、ふっと息を吐き、続けた。


「それと、お願い。城を壊したり唐突に人を灰にしたりするのは今日が最後。物騒なことは禁止よ」


 シラタマは、素直に頷いた。


「ソラリスの言うことなら、わかった!」


 ――素直で、よかった。


 シラタマは、ふと思い出したように言った。


「そういえば……リツから、手土産もらったよ。これ、月……ソラリスに」


 小さな爪で、輝くブレスレットを差し出す。金色の鎖に淡い青の宝石が埋め込まれた美しいもの。


 ソラリスはブレスレットを受け取ってすぐに〝それ〟がなんなのかわかった。


 ――ロベリアの花環匣《かかんこう》。


 『フロレンシアの誓約』に登場するアイテム。聖女が力を込めると、アイテムボックスとして使える。


 ソラリスにはこの世界に来てからずっと疑問があった。

 

「ねぇ、シラタマ。私の瞳って何色?」


 シラタマはソラリスの瞳を覗くと無邪気に笑い、晴天の空を指した。


「空みたいな、綺麗な色!」


 その一言で、ソラリスの中の疑問が一つ、解決した。ピンクの髪に、青い瞳。聖女の血筋――自分が聖女の力を持っている可能性。


 ソラリスは、ブレスレットを腕に巻く。


 「これちょっとだけ、やってみたかったのよね」


 ゲームの中でフロレンシアがやっていたように。

 身体の中の力をブレスレットへと流すイメージ。


 ソラリスはゲームでフレンシアが言っていた詠唱を模倣する。


 ――ヴェルナディアの血脈に刻まれし花の記憶よ。

円環に宿りし星屑の倉庫よ。

我が魔力を鍵とし、形なき蔵門を芽吹かせよ。

王家の血に応じ、名を与えられし器物を此処へ。


 淡い光が溢れ、ソラリスの頭に、アイテムボックスの情報が流れ込む。中身は……ソラリスの予想通りだった。


 「ありがとう、リツ」


 ソラリスは、小さく呟いた。


  「花環匣よ、開け《アルカ・ブルーメン》」


 ブレスレットから、光が渦を巻き、小さな瓶が現れる。


 ソラリスはそれを手に取りニコリと笑った。


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