#13¦異世界生活はじまります¦
まぶたが、重い。
夢か、現か。境界が曖昧な霧の中で、有明月乃の意識がゆっくりと浮上する。身体は浮遊感に包まれ何も掴めない。感覚のすべてがぼんやりと柔らかく、しかしどこかで微かな変化を感じていた。
――何かが……変わった気がする。
それは、風が止むような。雨止むような。言葉にできない静かな移り変わり。月乃の胸に、ほんの僅かな安堵が広がる。
そしてすぐに疑問が芽生える。
ーーここはどこ?
自室のベッドではない。虚空の白さでもない。まぶたの向こうに、暗闇が広がっている。
月乃はゆっくりと、目を開けた。
暗く、光が一切ない。視界は黒く息苦しい閉塞感が月乃を襲う。空気は淀み木の匂いが鼻をくすぐる。身体を動かそうとして慌てて起き上がる。
――ガンッ!
何かに激突した。頭に痛みが走り、月乃は思わず顔を歪める。
「っ……!」
痛い。生々しい痛み。虚空での会話の後、久しぶりに生身の身体で痛みを感じた気がした。月乃は額を押さえ息を吐いた。
激突した衝撃で上部が僅かにずれ細い光の筋が差し込んできた。そこから、埃っぽい空気が流れ込む。
――これは……箱?
自分が何かの箱の中に横たわっていることに気づく。月乃は両手を上げ思いっきり上部を押した。力を込め、歯を食いしばる。
ギシッ、という音が響き蓋が開く。月乃は勢いよく身を起こし箱から這い出て周囲を見回す。
そこは、小屋だった。
木の香りが濃く、ログハウスのような素朴な造り。壁は丸太を組んだもので、窓から柔らかな陽光が差し込み、埃の粒子が舞っている。家具は簡素で、テーブルや椅子、棚が並び、まるでおとぎ話の森の家のような、温かみのある空間だった。
だが、何かがおかしい。
月乃は立ち上がり、小屋の内部を見渡す。テーブルが高く椅子が大きい。棚の上の壺や本が、まるで巨人の持ち物のように見える。
――建物が大きい? それとも……私が?
違和感が胸をざわつかせる。月乃は自分の手を見る。手のひらを広げ、指を動かす。生前よりも一回り細く、柔らかく、小さい子供のような手。
――これ……私の手?
慌てて、声を出してみる。
「あ〜あぁ〜〜~」
声が高い。生前の酒焼けした声とは違う幼い響き。喉が震え月乃は自分の首に手を当てる。
――子どもの姿? どうして?
転生のはずだった。神、リツが約束した人間の身体。
なのに、これは……憑依? それとも、何か違う?
月乃の心に、疑問が渦巻いた。




