表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/30

#12¦いざ、ハッピーエンドへ¦


 ――それからどれだけの時間が流れただろうか。


 月乃は、綺麗な姿勢から始め、完璧なお辞儀の角度、お客様の隣に座るときの注意点、会話の回し方、視線の配り方、相手の心理を読むテクニック、指名が取れない子の典型的な失敗、デュエットで歌うと喜ばれる曲、シャンパンコールまでの流れ――すべてを、容赦なくリツに叩き込んだ。


 お酒を飲んで笑っているだけの仕事じゃない。キャバクラとは1秒の隙も許されない戦場である。


 リツは、最初は戸惑い、次に悲鳴を上げ、最後にはへたり込むほどに追い詰められた。


「覚えておきなさい。この世に、楽に稼げる仕事なんてないわ」


 月乃は、最後にそう言い放った。


 リツは、ぐったりとしながらも、どこか感心したような顔で呟いた。


「……恐ろしい女じゃ」


「あとこれは私からのお願い。橘には本当のことを話して欲しいの」


「なぜじゃ」


「きっとあなたの力になってくれるわ」


「わかった」


--きっと橘はリツの話を信じてくれるだろう。だって彼はこういった話が好きだから。


月乃は心の中で橘に謝る。残していなくなる自分を許して欲しいと。


 改めて、リツは呪文を唱える。


 月乃の周りに、光が満ちていく。


 それは温かく、柔らかな光。


 月乃の意識は、ゆっくりと溶けていく。


 ――待っててね、フロレンシア。

 ――私があなたをハッピーエンドまで連れて行く。


 光に包まれ、月乃の意識はそこで途絶えた。


 ――


 白い虚空に、静けさが戻った。


 リツは、ふっと息を吐き、小さく呟いた。


「聞いていた通り、そなたの主人はなかなかに面白い女じゃな」


 虚空の片隅で、淡く光る小さな魂。


 それは、頷くように輝いた。


 リツは、優しく手を伸ばす。


「契約に従って、そなたを月乃と同じ世界に送ってあげよう」


 リツの指先が、小さな魂に触れる。


 再び、呪文を唱える。


「短い間じゃったが、仕事を手伝ってくれたこと感謝しておるぞ。これは我からの祝福じゃ。手土産に……月乃へ持っていけ」


 小さな魂はまるで礼を言っているように光を強めて、虚空の向こうへ消えていった。


 リツは、1人静かに微笑んだ。


「さて、我も地球をエンジョイしようかの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ