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#11¦女の子の身体は何で出来ている?¦1545字

 リツは、深く息を吐いて、元の無垢な笑顔に戻った。


「さて、冗談はさておき――」


「私は冗談じゃなかったんだけど」


「――『フロレンシアの誓約』の世界じゃ。お主が本当に望むなら、そこに送ってあげよう。フロレンシアのそばで、彼女を守り、ゲームではなく“本当の物語”を見守り続けることだって可能じゃぞ?」


 月乃の頭の中にフロレンシアの笑顔が浮かぶ。


 ――本当に、行けるの?


 彼女のそばにいられる。


 月乃は、静かに息を吸った。


 ――彼女に、会えかもしれない。


 だが美味しい話には、だいたい裏がある。

これまでの人生で、学んだことだ。甘い言葉の裏には罠が潜んでいる


 月乃は、深く息を吸って、冷静さを取り戻すと神に向かって口を開いた。


「転生だけじゃ、割に合わないわ」


 リツの眉がわずかに動く。


 月乃は、はっきりと言った。


「私の身体を差し出す見返りが、『推しのいる世界に転生するだけ』なんて、おかしいと思わない? 転生しても、フロレンシアと関われる保証なんてどこにもないし……そもそも、人に転生できる可能性はどれくらいあるの? もしかしたら、魚とか虫とかに転生することもあるんじゃないの?」


 リツの眉がピクリと動き、瞳は鋭くなる。


「人の分際で、神である我が、願いを叶えてやると言っているのに、“対等”を求めるのか」


 声に、わずかな苛立ちが混じる。


 それでも月乃は、引かない。引けない。


「あんたこそ、私が提案に乗らなければ、ここまでの苦労が水の泡になること、分かってるんでしょ? 私とあなたの契約は対等であるべきよ」


 それに――


 月乃は、リツが先程から自分の身体を“器”と呼んでいることが、ずっと気に入らなかった。


「それにね、あなた、私の身体を物のように“器”って呼んでるけど……その器にどれだけの時間と金と努力がかかってるか、分かってる?」


 月乃は、指を折りながら、淡々と挙げ始めた。


 ――エステ代、4万円。


 ――サプリ代、2万円。


 ――ピラティスとジム代、3万円。


 ――美容院、2万円。


 ――ネイル、2万円。


 ――マツエク、2万円。


 ――コスメ、3万円。


 ――基礎化粧品、3万円。


 毎月、これだけの金額を自分に投資している。

女の子はお砂糖とスパイスと素敵なもの全部でなんか出来ていない。

 賞賛される美貌は本人のひたむきな努力と根性と多額の金で維持されている。


「これだけの価値がある身体を、転生“だけ”で交換するなんて、割に合わないわ。私の主張が気に入らないなら、そこらへんの努力も投資もしていない誰かを改めて選べばいいじゃない」


 月乃は、静かに、しかし力強く言った。


「私の価値は、私が守る」


 リツは、しばらく月乃を見つめ、やがて、深い溜息をついた。


「……お主なかなかに強い魂を持っているな。では、対等は望みとは何じゃ?」


 月乃は、迷わず答えた。


「まず、人間の身体を差し出すんだから、転生後も人間の身体を用意して」


 見た目については、言わない。


 努力は好きだ。どんな姿でも自分の力で変えてみせる。

 それが、月乃の信条だ。


「それと、私の財産や名誉に釣り合う加護を付けて。簡単に殺されないように。神の力でそのあたりをどうにかしてくれるなら……身体を差し出しても構わないわ」


「要求が多い……」


 リツは、もう一度溜息をついた。


 渋々、といった様子で頷く。


「……よかろう。それでそなたが“身体”を差し出すのであれば」


 リツは、両手を広げた。


 古の言葉が、虚空に響き始めた。


「ちょっと待って」


 月乃の声がぴたりと呪文を止めた。


 リツはわずかに身を引く。


「まだ、何かあるのか」


 月乃はにこりと笑った。


「この空間って、現実世界とは時間の流れ方が違うのかしら?」


 リツは無言で頷いた。


 月乃の笑みが深くなる。


「じゃあ、今からあなたにキャバ嬢のいろはを全て伝授するわ。No.1の講義を受けられることを光栄に思いなさい」

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