第6話 塩
(*´ω`*)後輩キャラ
「あ、先輩っ!」
私が話し掛けると先輩が振り返る。
冷たい双眸。
その瞳に見つめられるとゾクリとする。
私は駆け寄って先輩を見上げる。
「今日は宜しくお願いしますっ!」
「ああ」
空間能力者の虚空。
界隈では有名だ。
強い能力者には癖が強い者が多く、彼もそんな一人だ。
雇われればどんな依頼でも受けるが、何かトラブれば依頼主を殺したりもする。
先日もちょっと揉めて依頼主を殺し、報復に来た組織を返り討ちにして壊滅させたらしい。
ただ敵も多いけど、こうして頼られる面も有る。
うちの仕事は偶に受けてくれる。
正式加入の話は蹴られ続けてるらしいけど。
(うちのボスとは仲が悪くなくて良かった)
イカれた最強の空間能力者、その名も虚空。
孤高の最強。
(カッコいいっ!そんな先輩に痺れるっ!憧れるっ!)
私は然りげ無く二の腕で胸を挟んで押し上げ谷間を作る。
ジッと先輩が見詰めてくれる。
ふふふ、どうだっ!?
「あ」
フイッと興味無さ気に私の胸元から視線を逸らす先輩。
紳士的と云うより、本当に興味が無さそうで傷付く。
(だけど⋯)
あーん、そのストイックな塩対応がカッコいい!
ちなみに私が彼を先輩と呼ぶのは⋯
『敵勢力、来ます』
その時、味方の通信能力者から連絡が来る。
私達は前線を維持しながら防御陣地を構築している。
「来たぞ」
敵の先遣隊が特攻を仕掛けて来た様だ。
炎や岩の塊が飛んでくる。
うちの仲間達も迎撃してるが効果は薄い。
「下がってろ」
「はいっ!」
私は先輩の背中に隠れる。
先輩は手をポケットに突っ込んだまま敵の能力を迎え撃つ。
「ほああっ!?」
私は思わず声を上げてしまった。
先輩に殺到した筈の炎や岩の弾丸が、全て溶ける様に空中に消えてしまったからだ。
「イン」
ボソリと先輩が呟く。
そしてもう一言。
「アウト」
「みぎゃああああああああああああああっ!?」
敵勢力から悲鳴が上がる。
先輩の目の前の空間に吸い込まれた炎や岩が、敵の真上に出現して降り注いだからだ。
「すっご⋯」
胸がドキドキする。
私もこんな仕事をしてる。
いつ死ぬか解らない。
だからこそ、自分の恋には全力でいたいんだ。
「死んでない奴は集めろ」
敵の生き残りは集められた。
特攻を仕掛けて来るだけあって頑丈だ。
余り死んでないし、重傷者も居ない。
「先輩?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
先輩が倒した敵の能力者にトドメを刺さない。
「なんだ?殺せ」
目の前には女。
冷や汗をかく女。
何と云うか、凄い女だった。
背は高いし、胸も、こう、凄い⋯くそぉ。
顔もすっごい美人。
(まさか―――)
私がハッとする。
好みの女だから、生かしてる?
(まぁ冷酷無比な先輩に限ってそんな事無いか)
何か意味があるのだろう。
拷問して情報を聞き出すとか。
「多分、戦闘が終わる」
先輩がそう告げると敵の能力者を解放する。
先輩の能力で見えない何かに拘束されてたらしい彼等が不思議そうに、不気味そうに肩や腕を回してる。
意図が解らないからだろう。
私も解らない。
『総員、戦闘中止』
そこに通信が入る。
「一旦休戦する」
目の前の女が告げる。
向こうも思念で会話しているのだろう。
敵対組織からの思いがけない提案。
罠等ではないだろう。
(て事は、まさか―――)
地響きが鳴る。
地面が揺れる。
地震ではないだろう。
これは、この、足音は―――
「来た」
「モンスター」
仲間の一人が呆然と遠くを見上げる。
私達の町の外。
荒れ果てた荒野から何かが来る。
遠目に見える巨体。
毛むくじゃらの、角を持った四足歩行の獣。
「遠距離攻撃持ちは集合っ!町に入らせるなっ!」
先程まで殺し合いを行い、実際既に死人が出ていたが、即興で共同戦線を張る。
敵同士信頼なんか出来ないし、信用も出来ない。
裏切られる可能性もある。
だが、そんな事を言っていられない。
人間同士の諍いなんて結局は茶番だ。
アレを町に入れたら、縄張り争いなんか無意味になる。
物資の奪い合い、能力者の奪い合いも全部無に帰す。
人間達は居場所を失い、荒野を彷徨う事になる。
「大きい」
五階建てのビルよりも高い。
山の様な巨体のモンスターが進撃して来る。
いや、進撃等ではない。
向こうからすればちょっとした散歩だろう。
人間なんかサイズ的に牛に群がる羽虫か、精々鼠ぐらいだろうか。
実際そのモンスターは牛型のモンスターだ。
捻れた角、大きな鼻。
「始まったな」
町の外、まだ大分距離がある所で戦闘が始まる。
うちだけでなく、さっきまで殺し合いをしてた敵と協力して遠距離攻撃持ちがバンバン撃ちまくる。
炎、岩、氷に雷。
属性もごちゃ混ぜで、兎に角撃って撃って撃ちまくる。
巨大な牛のモンスターは正に牛歩の歩みで町に近付いて来る。
その毛むくじゃらの体には所々穴が開き、血が噴き出している。
倒せばかなりの肉と脂が手に入るだろう。
戦利品は山分けだろうか?
総取りを狙っての殺し合いはしたくない。
(ま、倒せれば、だけど)
私は遠距離攻撃なんか持ってないのでこの場で待機だ。
「強い」
先輩が呟く。
ん?どっちの事?
「いや、弱いのか?」
ああ、共同戦線を張る能力者達が強いのかと思ったけど、モンスターが弱かったって事ね。
(ふふ、ミステリアスな先輩の考えてる事なんて全部解っちゃうんだから)
私がそうやって呑気に構える。
だってモンスターから反撃らしい反撃が無いんですもの。
「反撃が無い」
先輩も同じ事考えてたみたい。
私達って相性バッチリよね。
(でも確かにおかしいわね?)
あの牛型モンスターは角から雷を放ち、口から炎を吐く筈。
遠目に暴れてる姿を見て一目散に逃げた記憶がある。
アレは人類が勝てる存在じゃないわ、マジで。
何よりその巨体で突進されたら人間の町なんて一撃で滅ぶ。
「様子がおかしい」
遂に町の外縁に辿り着いた牛型モンスター。
しかし、その姿は既に満身創痍。
「おかしい。魔法防御をしていない?」
先輩が何か思慮深く呟いてる。
カッコいい。
「倒れるぞーーーっ!」
誰がが叫ぶのが聴こえる。
モンスターがゆっくりと横倒しになる。
大きな地響きと共に粉塵が舞い上がる。
アレをやっつけた。
きっと私達の方が貢献度が高いわ。
「やった!私達の勝ちだわっ!」
「違う。弱ってた。既に」
先輩から嫌な緊張感が伝わって来る。
怖いぐらいに集中してる。
私は先輩をリラックスさせるべく体を密着させる。
「もぉ〜心配性なんだから〜。先輩ったら―――」
その時、爆音と閃光が乱れ狂う。
「な、なに―――」
凄まじい轟音に尻餅を付く。
「え?」
今倒した筈のモンスターの腹が爆砕していた。
確かクジラだったっけ?
クジラの死体はガスが溜まって爆発するとか?
それと同じ―――
「不味いな」
先輩の顔が険しくなる。
周囲の地面を大量の血で染め、モンスターの腹の中からナニカが現れる。
人影が、三つ⋯⋯⋯
「人間?」
中から現れたのは―――
「エルフだっ!」
誰かの悲鳴が響き渡る。
罠だった。
もしもエルフが居たのなら、あんな生温い攻撃はしていなかった。
氷炎の緋雨クラスの能力者を、組織間の軋轢を無視してでも招集した筈だ。
「エルフが―――三人も」
男二人に女一人。
「逃げろ」
モンスターなら何とかなったろう。
あの撃たれるだけだった牛型モンスターが元気いっぱいに突撃して来ても、きっと何とかなったろう。
だがエルフは駄目だ。
人間より細い体格、整った容姿。
緑色の瞳に長い金髪。
美少女、美少年、美青年。
先輩の美しさとは違った、作り物めいた美しさ。
「俺が殺る」
そう言って先輩が消える。
「先輩っ!?」
閃光が夜空に煌めく。
人間とは比べ物にならない魔力を持つ種族、エルフ。
そんな彼等と単独で戦って勝てる能力者等数える程しか居ない。
しかも三対一。
「先輩っ!逃げてぇっ!」
私が叫ぶ。
エルフの一人が手を振り翳す。
掌には、雷。
稲光、電光が空を覆う。
人間の電撃系能力とは比較にならない。
正に人外の力。
空中に放たれた雷撃が地上の全てを吹き飛ばしていく、
抵抗する者、逃げようとする者、勇敢にも挑もうとする者。
押し並べて等しく、全てを薙ぎ払って逝く。
「先輩っ!?」
私への直撃コースだった雷撃が吸い込まれる様に空中に消えた。
「先輩っ!?」
先輩が助けてくれた?
気付くと先輩が背後に居た。
「アウト」
先輩がボソリと呟くと空中に居るエルフに雷撃が直撃する。
しかし目映い閃光が消えた後も、そこには変わらず浮かぶ三つの人影。
地上で丸焦げで転がる人間達と同じになんてならない。
雷撃を浴びても涼しい顔をしている。
恐ろしく整った顔には人間への嫌悪感、侮蔑の感情しか読み取れない。
「ひっ」
エルフの一人が手を振ると、暗雲が立ち込め始める
黒雲が雷を纏い渦巻く。
威力を上げる気だ。
あんなモノを落とされたら、この町の人間は全滅する。
「きゃっ!?」
地面が盛り上がり何か蛇の様な物がのたうつ。
「木―――の根?」
こんな荒れ果てた大地なのに、突然樹木が生えて来る。
黒い地面に緑が溢れ草が足元を覆って行く。
植物は野菜や果物を産み出す希少価値の有る高級品。
しかしエルフが操るそれは、人の精気や魔力を吸って育つ、人食いの大樹。
「ぎゃぁあああああああっ!?」
運の悪い奴が木の根に突き刺され養分を吸われて逝く。
「木属性魔法か」
先輩が厳しい顔をする。
こんな時でも素敵。
私はもう諦めた。
最後は先輩の側で―――
「仕方無い」
先輩がボソリと呟く。
「おいで」
優しい声音だった。
私への呼びかけ―――ではなかった。
先輩の周囲の空間が歪み、何かが出現する。
手、だ。
女?いや、子共の手?
「雫、葵」
先輩が何かを呟き――――
大樹の根っ子が私達を逃さない様に覆い尽くす。
そして―――――
雷撃が私達に叩き落とされ―――
――――⋯⋯⋯――う⋯
「うぅ⋯?」
目が覚めると先輩に抱き抱えられていた。
荷物みたいに小脇にだけど。
お姫様抱っこが良かったけど。
「ありがとう、雫、葵」
シズク?
アオイ?
誰の名前?
「誰よその女⋯」
先輩の側に手が三つ浮いている。
(消えた?)
見間違いかな⋯?
「エ、エルフは?」
周囲は酷いものだった。
元々放棄された市街地だったけど、建物とかはほとんど倒壊し、瓦礫の山だ。
「一体は倒した。一体は逃がした」
「え?先輩⋯倒したの?」
先輩も流石に疲れた様な顔をしている。
「帰る」
「みぎゃっ!?」
地面に落とされた。
「もーー、先輩ひどーい」
私がそう苦情を言った時、既に先輩は消えていた。
きっと隠れ家に帰ったのだろう。
先輩は誰も知らない隠れ家を持っている。
「でもエルフ三人に勝っちゃうなんてやっぱり凄い」
私なんて何も出来なかった。
「一体は倒して。一体は逃がした―――て」
ふと気付く。
「もう一人は?」
(*´ω`*)枢は多分、ぐいぐい来るワンコ系女子が苦手なんだと思うの




