第4話 手
「くそっ!また消えたっ!?」
「空間転移かっ!」
「追い込めっ!追い込めぇっ!」
俺達は遂に奴を追い詰めた。
氷炎の緋雨を倒した空間使い、虚空。
奴は以前、こちらの依頼通りに氷炎の緋雨を倒し生け捕りにした。
しかし引き渡しを拒み、うちのボスを殺した。
後釜に就いた新しいボスは虚空を狩る事を先ずは最優先に掲げた。
特に恩義も無い⋯どころか早く消えて欲しいと願っていたのにだ。
虚空には感謝しても仕切れないだろう、今のボスは。
しかしそれとこれとは話が別。
組織を纏める為には禊は必要だ。
先代のボスの仇を討つ。
これで組織を纏め上げるつもりだろう。
俺もその勝ち馬に乗るつもりだ。
「虚空を仕留めれば俺も出世出来る」
俺も普通の暮らしをしていたが突然能力に目覚めた。
それは良い。
自分がスーパーヒーローに成ったのだと有頂天に成れた。
しかしそんな絶頂感は直ぐに消えた。
待っていたのは裏社会からのスカウト。
血で血を洗う、終わらない闘争。
人間同士ですら化け物みたいな連中が居るのに、本当の化け物共とも戦う事になった。
「俺はこんな所で終わらない。のし上がってやる」
『虚空を指定のポイントに追い詰めたわ』
通信能力持ちから連絡が来る。
思念を送れるので盗聴の心配も無い。
「よし、行け。先ずは前衛部隊だ」
俺は指示を出す。
俺の能力は作戦指揮に特化している。
敵の能力を分析し、戦況を三次元的に俯瞰出来る。
脳内に仮想フィールドを構築する。
今所定のポイントに追い込んだターゲットを、うちの前衛部隊が囲むのが解る。
近接戦闘特化の者達だ。
空間転移出来ない様に罠も張っている。
個人差があるが転移出来る距離はそこまで長くはない筈だ。
一度の空間転移で移動出来る距離。
それを把握する為の開けた場所への追い込みは成功した。
能力使用のインターバルもある筈だ。
常時連続使用可能ならこちらを簡単に全滅させられるからだ。
「作戦通り、前衛部隊で削れるだけ削る」
炎や氷、雷を出したり出来ないので地味ではあるが、兎に角硬い連中を集めた。
普通の攻撃じゃぁ掠り傷一つ負わないだろう。
「余り近付くなよ?空間ごと身体を削り取られるぞ」
前のボスが殺られた時、護衛に居た筈のうちの精鋭達も全員抉り殺されていた。
無敵かと思えた身体強化特化の能力者が、体を穴だらけにされて死んでいた。
奴に防御は無意味。
しかし、奴自身にも遠距離攻撃能力は無い。
これからじわじわと追い込んで―――
「なっ!?」
瞬間、激しい爆炎が場を包む。
俺は能力で透視の様な事を行えるので遮蔽物に隠れていたが、そんな俺の所にまで熱風が吹き付けて来る。
「なにが、起きた?」
虚空が居たポイントが、囲みを掛けていたうちの前衛部隊ごと炎に包まれている。
凄まじい火力だ。
うちの前衛部隊でも何人かは死ぬ。
それに炎は防げても酸欠までは防げない。
窒息死⋯まではしなくても意識は失う。
意識を失えば炎に巻かれる。
「なん、だと?」
奴に仲間が?
特定の組織に属せず、雇われるままに転々としている孤高の能力者の筈。
「いや、一時的に誰かを雇った?もしや第三勢力?」
虚空に恨みを持ち、つけ狙う組織は他にも居る。
チャンスとばかりに横から掻っ攫われたのか?
「なにっ!?」
空気が凍る。
文字通り凍る。
爆炎の熱気が凍り付く。
息が白くなる。
「なんだ、アレは?」
現場を肉眼で確認する。
さっきまで炎が激しく燃え盛っていた所には、天を突く程の氷塊が出現していた。
氷と、炎―――
「どういう事だ?」
俺は知覚能力を上げる。
「手?」
奴の体の直ぐ側の空間から、小さな手が生えていた。
片手からは冷気、片手には熱気を纏う、虚空に浮かぶ、一対の子共の手。
その手がもう一本増える。
虚空からまた別の手が生えたのだ。
そしてその手が、こちらを⋯俺を指差すのが解った。
「マズイ―――」
俺は生き残っているチームメンバーに撤退の指示を出そうとして、熱風と冷風に飲み込まれる。
「い、いかんっ!?水蒸気爆発―――」
膨大な氷が俺の周囲を覆って行く。
それと同時に熱波が押し寄せる。
「総員退避―――」
俺は命令を出し――――
そこで意識が途切れた。
――――――――――⋯⋯⋯⋯―――
⋯⋯いや、まだ生きている?
そうか、大分距離を取っていたからな。
でも、体が動かない⋯
何か聴こえる⋯
誰の声ダロウ?
「いい子だ、雫、葵」
イイコ?
シズク?
アオ――――――――――




