第22話 螺
(●´ω`●)ニナと読みますね。
「何をしているの?」
「⋯騎士⋯」
「ちっ」
私が声を掛けるとその者達が動きを止める。
数名の男女。
彼等が向かう方向は、戦線とは真逆だ。
目の前には倒されたモンスターの死骸が在る。
巨大な貝殻はヒビ割れ破壊され、口からは本体が飛び出し血が地面に広がっている。
(この者達の手柄ではない。確か報告だと我が騎士団の戦功だな)
あの貝殻は良い素材になる。
他にもあちこちで戦果が上がっている。
今回の戦いで使い捨ての能力者を失ってもお釣りが来るだろう。
「敵前逃亡する者は粛清対象よ」
私が剣を抜く構えを取る。
いくら王国騎士でも、能力者に無条件に戦闘を強いる事は出来ない。
拒否権は有る。
だが、彼等は招集を受けた時点で今までの犯罪歴はクリアになり、報酬も受け取っている。
戦う義務が有る。
「逃げるな。戦いなさい」
私が告げる。
「勘違いだよ騎士さん、俺達はちょっと休ませて貰おうと⋯」
「そうそう、回復したらまた前線に復帰して―――」
「言い訳は聞かないわ。休みたいならこの場で休めば良いでしょう?」
「ああ?ふざけてんのか?こんな所でどうやって休めってんだよ?」
周囲からはモンスターの雄叫びや能力者達の戦う音、死に逝く者の断末魔が響いている。
「ここら一帯のモンスターを全て倒せば、この場でキャンプする事を許可します」
私は冷たく告げる。
(五、六人か⋯)
男四に女二、能力の内訳はどうだろうか?
私に気付かなかったと云う事は感知能力持ちは居ないのだろう。
「頼むよ騎士さん、俺には妻も子共も居るんだ」
リーダーらしき年長の男がヘラヘラと笑いながら訴えて来る。
「そう。なら妻子の為に命を懸けたら?もしも殉死しても色を付けてあげる。安心して戦いなさい」
「⋯話になんねぇな⋯」
男の目が鋭く変わる。
目の前の女騎士を殺して逃げる算段を立て始めているのだろう。
「愚かな⋯」
柄を握る手に思わず力が込もる。
私は楓軍団長の様な居合い剣は使えない。
負ける気はしないが一撃で全員は仕留められまい。
処分する順番を品定めする。
「舐めないでよ」
お互い緊張感が高まって行く。
「お高く止まりやがって、こなクソ女が」
今にも激突するかと云う、その時だった―――
ズズンッ!と云う音と共に地面が揺れる。
転がる程ではなかったがたたらを踏む。
目の前の能力者達は全員地面に転がっていた。
「な、何だっ!?」
爆音と地響きは鳴り止まない。
空中に光が舞い、血飛沫が舞う。
「何が―――」
そして一際大きな爆発音。
倒壊する放置された建物群。
「くっ!?」
私も立っていられずに片膝を突く。
岩山の向こう側に爆煙が見える。
向こうには飛行タイプのモンスターが群れを為していた筈だが⋯
(これ程の範囲攻撃持ちは、今出撃中の騎士団員には居ない―――)
そして事前調査で把握した能力者にもこんな破壊力を持つ者は居なかった⋯筈だ。
(一撃、若しくは絶え間無い連撃で航空戦力を一掃?馬鹿な⋯)
能力者のほとんどは自己顕示欲が強く、自らの能力を自慢気に教えてくれた。
(いや、招集には応じたものの所在知れずになった者達は居たわ)
能力を隠していたのだろう。
秘密主義者は居るものだ。
我々王国騎士団としては把握しておきたいが、能力を知られるのは命取りになる。
ギリギリまで隠し通す実力者は少なくない。
身の危険が迫らなければ本気を出さないのだ。
「誰かがその、本気を出したの?」
姿を見せたり消したりする者の中に空間能力者の、確か虚空と呼ばれる者が居た。
(空間能力者は希少だが火力が乏しい者が多い)
「大きな岩や爆弾を転移させた、とか?いや解らないわ」
爆発を起こせる能力者と連携を取ったのだろうか?
ならば空中に転移して飛行タイプのモンスターを攻撃出来る。
「しまった」
私はそちらの方向に気を取られ過ぎてしまった。
その隙を突かれた。
さっきまで転がっていた能力者達が次々と逃げ出していた。
慌ててそれを追う。
―――それが、いけなかった。
「ぐはっ!?」
私は側に居たモンスターの触手の一撃をまともに受けてしまった。
(な、にっ!?)
関節の無い軟体動物故に動きが読めなかった。
ズルズルと壊れた貝殻から何がが這い出て来る。
「くそ、まだ生きてたの」
私がこの場に来た時には動いていなかった。
擬死と云うものか。
(敵前逃亡者共に気を取られ、油断した⋯)
本体が完全に姿を現した。
大きな蝸牛の様なそいつが目と触手を伸ばし、獲物を見定めている。
「ぎゃっ!?」
弱い獲物から狙う。
基本ね。
「た、たしゅけ―――みぎゃああああっ!?」
敵前逃亡を図っていた能力者達が次々と捕まり捕食されていく。
炎を出したりと抵抗する者達も居たが、全く効果が無い。
モンスターは旺盛に貪り食っている。
受けたダメージを、肉を食って回復させるつもりなのだろう。
「ぐっ⋯」
私は何とか立ち上がる。
(痛い⋯が、内臓や骨は無事か⋯)
私は呼吸を整え能力使用の準備をする。
「まだ、戦える」
モンスターが六人の能力者を食べ終え、此方を向いた。
「―――来い」
私は剣を抜いて構える。
剣に能力を纏わせ攻撃力を上げて―――
「なっ!?」
バツンッ!と云う、大きな布地を強引に引き千切る様な音を立てて、そのモンスターが弾け飛んだ。
ビチャビチャと体液を撒き散らし、モンスターが絶命する。
「な?何が起こったの?」
私が視線を巡らせると、一人の男を見付けた。
(コイツ⋯いつの間に⋯)
空中能力者は希少なのでデータは閲覧していた。
コイツは確か⋯
「虚空⋯」
「どうも」
「助かったわ」
私がその男に礼を述べる。
空間能力者、虚空。
「君、可愛いね」
「な、に?」
虚空がこちらを見詰めている。
ゾクリと背中に寒気が走る。
その目付きは、先程のモンスターの様に、獲物を品定めする様に冷たく、恐ろしいものだった。
「騎士かぁ」
虚空が私の方を向く。
「貴族を飼うのは初めてかな」
本能が叫ぶ。
「う」
この男は、危険だ。
「うわああああああっ!」
私は能力の出力を上げる。
私には突出した才能は無い。
「全力戦闘っ!」
私の剣に風や炎が纏わり付き光り輝く。
肉体も強化され、足元の地面にヒビが入る。
(先手必勝っ!一撃必殺っ!)
奴が攻撃を行う前に仕留めるっ!
「せぃっ!」
私は雄叫びと共に突っ込む。
しかし―――
「え?」
走っている筈なのに進まない。
足が前へ進んでいない。
(飛んだ!?)
奴が上へ飛び上がった。
私が奴を見上げる。
(違う)
「あ、ああっ!?」
足が無かった。
厳密には太腿から先が無い。
「空間っ!?能力っ!?」
楓軍団長の居合い剣と同じ?
楓軍団長の能力は厳密には空間能力とはまた違うが、結果は同じだ。
奴は離れた間合いから私の両足を奪った。
「くそぉっ!」
私は剣を振り上げる。
中距離だが、攻撃は届く。
だが―――
「ぐああっ!?」
私の剣を持つ腕も消えた。
二の腕から先が無い。
持ち替え様と思ったら両腕が無かった。
「くそっ⋯」
最早私に四肢は無い。
「大人しくしてれば痛くしないよー」
虚空が笑いながら近付いて来る。
どうやって私の四肢を切断したのか解らない。
「くたばれ」
私が奥の手を使う事を決める。
そう、自爆だ。
私には突出した才能は無い。
どんな能力でも操れる反面、それに特化した連中にはその方面では敵わない。
そしてその相反する属性の能力をぶつけ合わせて自爆するのだ。
「共に逝こうぞ、空間使いっ!」
私は近寄る男に向けて能力を暴走させる。
「で?」
私の肉体は爆裂四散し、目の前の男も巻き添えに―――
「え?」
(何処だ?此処は―――?)
何も無い空間だ。
そんな事よりも―――
「此処はね、俺の空間」
自爆が、不発?
「俺に危害を加える事は出来ない」
まさか、そんな―――
「ぐっ!?貴様っ!?」
虚空が私の衣服を脱がして来る。
「やりたくない仕事だったけど」
虚空が、私の胸に唇を寄せる。
「疲れたし」
唇も塞がれた。
舌を噛み切ってやろうと思ったが、甘噛みにしかならない。
「新しい娘が二人も手に入ったから、トントンかな」
男の指が私の股ぐらを弄る。
「や、めろぉ⋯」
彼の指が私の全身を這い回る。
「ぐっ!」
駄目だ。
舌も噛み切れない。
(自殺も出来ないのかっ!?)
「可愛いよ、螺」
(私の名前―――)
本名を知られた。
記憶を読まれた?
私の情報が抽出されている。
「ふふ」
「くっ!?」
男が⋯枢が私に覆い被さって来る。
私もここまでか⋯
「楓軍団長⋯すみません⋯」
そして私は―――⋯⋯⋯
(●´ω`●)女の子の捕獲方法が猟奇的だぁ。猟奇的な恋愛って事でここはひとつ。




