第21話 シュリーヤルルの杖
(●´ω`●)凛ちゃん回
「凛。平気か?」
仲間が問い掛けて来る。
「見て解んねぇかよ?」
「ははは、まぁやられてんな」
「はぁ、うっせーよ」
俺は溜め息を吐き出し毒づく。
「んーーー、俺にしては頑張った、かな。なぁ?」
そう俺が問い掛けるのは目の前に居る仲間っつーか知り合いの能力者の―――死体だっ⋯た。
「おーい、おい。あー、死んだ、か」
今さっきまで生きてたのに。
突然喋らなくなったと思ったら死んだ。
「ふぅ、俺だけか。生き残りは」
所属していたグループはもう散り散りになっちまった。
ヘドロみてぇな奴に火炎系とか爆発系の奴等がバンバカ撃ち込んでたら大爆発したのよ。
可燃性スライムってなんだよ?
油かなんかで出来てんのか?
その後も酷かったな。
空飛ぶモンスターに狙い撃ちされて、俺より上手く飛べる奴がパクっと喰われた。
俺も危なかった。
「死にたくねぇ⋯」
逃げたいが無理だろうな。
片足が潰れてやがる。
「くそっ」
この穴から抜け出して移動してる間にモンスターに喰われる。
(この⋯穴?いつの間に⋯)
覚えてねぇ。
穴倉ってか、瓦礫の山の隙間だな。
無意識の内に這ってて辿り着いただけだろう。
さっきまで死んだ仲間と軽口叩き合ってた気がする。
仲間の死体はもう目の前には無い。
置いて来たのか。
まぁ持って帰れねぇけどよ。
(さっきのは夢?妄想?)
「駄目だ。血ぃ流し過ぎたかな⋯」
まぁ本当、酷いもんだったな。
「これが俺の人生かよ」
俺達は馬鹿だからよぉ。
作戦も何もあったもんじゃねぇ。
モンスター見付けたら全力戦闘。
倒せたら馬鹿騒ぎ。
負けそうになったら逃げる。
そんなんしてる内に俺一人だ。
(まいっか)
「風が吹かねぇな」
空気が澱んでやがる。
無理矢理なら飛べるが片足だとバランスが崩れてスピードが出せねぇ。
「ゾッとしねぇや」
俺より格上の能力者が泣きながら喰い殺されていた。
あーあの死に方は嫌だな。
だからって自害する勇気も無い。
「くそっ⋯」
せめて戦闘時の高揚感で死ぬなら気持ち良く死ねたかも知れんけど、今は冷静になっちまってる。
無意識に脳裡に思い浮ぶのは、近所の普通の連中とか、ちょっとつるんでた連中とか、安い飯屋の糞不味い定食とか。
「ろくな人生じゃなかったな」
親には暴力振るわれてて逃げ出した。
なんだっけ。
あーそうだ。
母親の情夫に押し倒されて犯されそうになった時に覚醒したんだわな。
母親は売春婦だった。
お前も味見してやるよって言った男の薄ら笑いは今でも思い出すな。
一瞬でフルスロットルになって文字通り八つ裂きにしちまった。
(スカッとなんてしなかったな。ただただ気持ち悪かった)
臓物を浴びた状態で飛んで逃げて、川に飛び込んで泳いで逃げて、ホームレスから服を強奪して逃げて―――
「やっべ、へへ、走馬灯ってヤツかよ」
悪くない人生だったなんて言えない。
もっと良い家に産まれてれば⋯
能力者に覚醒しなければ⋯
そんな愚にも付かない事ばかり思っちまう。
「いや、王都だって安全て訳じゃねぇ、一般人だってそうだ。俺達能力者が負ければモンスターに殺される。貴族だって良い物食えても、騎士になってクソみてぇな能力者のケツ蹴っ飛ばってモンスター殺しまからなアカんしぃ」
(やべ、呂律が回らなくなってきた。舌が動かねぇ⋯)
俺達能力者は自分の力で抗える。
他人に生殺与奪の権利を委ねはしねぇ。
だから、誇り高く死ねるんだっ!
だのに―――
「死にあくなうぃ」
やめろ。
俺は戦士なんだ。
「生きあうぃ」
嘘だ、嘘嘘嘘嘘だ、泣くなっ!
泣くなバカヤロー。
俺は強いっ!
(目も見えなくなってきた)
死ぬ寸前に生きたくなるなんて最悪だな、クソが。
(こんな人生、いつ死んでもいいとか思ってたのに⋯)
俺は⋯
「―――死にたくないか?」
唇に何か柔らかい物が触れる。
「ああ⋯死にたくない」
少し顔が楽になった。
呂律が戻る。
視界が戻る。
「⋯⋯⋯あ?」
「ふーん」
男が俺を見下ろしてきていた。
周囲に有った筈の瓦礫の山が消えていた。
空が明るい。
夜明けか。
てか、今まで夜だったのか?
駄目だ、記憶が⋯⋯
「お前、女だよな」
「だから?何だよ?」
能力者は覚醒時に成長が止まる⋯事がある。
俺も確か初潮来る前だったかな?
(あの屑野郎は初潮前のガキ犯そうとしてたんか)
だが年を重ねれば徐々に肉体が変化していく。
能力で、強靭な意志で自分の肉体を作り変えるからな。
最適化とか何とか、良く解らん。
だが俺は敢えてそれに逆らった。
男になりたかった訳じゃねぇけど、女だって舐められんのも嫌だった。
中途半端な体型をダブついた服で隠してた。
(仲間達は気付かないフリしててくれたっぽいけどよ)
皆死んだ。
「あー、クソ」
なるほどねー。
服が破れて胸が丸見えじゃねーか。
小さいがおっぱい出てるじゃん。
(まぁもぉどうでもいっか)
「ただ見しやがって、金払えよ」
「そんな貧相な体にか?」
「うっせークソが」
内臓がはみ出てやがる。
おっぱい見えても別にいーやもう。
「なら助けてやろっか?」
「⋯条件は?」
何だ?ヤらせろってか?
こんな死にかけの男みてーなガキの体が好みなのか?
変態め。
(まぁ女の腹掻っ捌いてヤるのが大好きな変態も居たな)
滅茶苦茶強い能力者だったがある日死んでいた。
「俺の女になって孕め、母乳を飲ませろ」
こいつも変態の類か。
「⋯⋯⋯くたばれ、変態野郎」
最悪だ。
最期に会うのがこんな変態だなんて。
こんな変態と心中するのかよ、俺は⋯
「ゴルルルルルルル⋯」
「さっきからうるせーな」
「そうだな」
そう、呑気にダベってる内に見つかっちまってた。
(俺いつ穴倉から出たっけ?)
少し崖になった所に、翼を畳んだ空飛ぶトカゲが座ってこっちを覗き込んで来ている。
(どうせなら一息で食い殺してくれよ)
俺が諦める。
何故なら覗き込んでるトカゲの背後、上空を他のトカゲ共が何匹も旋回してたからだ。
あー、終わったわ。
「シュリーヤルル」
目の前の男が何か呟くと、手の中に木の棒が現れた。
(杖?)
それが、あいつの能力か?
地味だし、変な能力。
でも―――
「雫、凍てつかせろ」
杖の先端に光る何かが生まれる。
「雫、燃やせ」
その光る何か⋯氷が、燃える?
「葵、座標指定」
そいつが杖を上空に掲げる。
「サキ、弾道補正」
さっきから何だ?
「皐、充電開始」
女の名前?
なんだよ、それ?
「ツキノシズク」
そう男が呟いた時、光る弾丸が解き放たれる。
凄まじい爆音と爆光が乱舞する。
「おお、すげー威力」
そいつが自分の攻撃に驚いている。
そいつが放った何かは一番近くに居たトカゲを撃ち抜き、追尾機能が有るのか他のトカゲ共も次々と撃ち抜き、放物線を描いて地面に落下して来る。
「けど空気抵抗モロに受けて溶けるの早かったなぁ」
ブツブツと何か呟いている。
(こいつ馬鹿なの?)
地響きが凄い。
近くに落下した。
(大馬鹿なの?)
逃げろよ。
俺を連れて逃げろってのっ!
「お、い、ヤバ―――」
地面が津波みたいに盛り上がって迫り来るのが解る。
アイツの何かが落下した所からだ。
モンスターを複数殺してもこの威力。
(もしかしてモンスターを自動追尾させた?だからこの近くのモンスターに最終的に落ちて来たの?馬鹿なの?)
おかしい。
(俺の知る能力者にこんな力持ってる奴は居ねぇっ!)
いや、そんな事よりも―――
「くそぉっ!死ぬ前にもっと肉喰っときゃ良かったぜっ!」
俺は毒づき思わず目を瞑る。
そして―――
「おいで」
声を聞いた。
「生きたいなら」
思わず手を差し出す。
「こっちへおいで」
無我夢中でその手を握り込んだ。
(●´ω`●)凛ちゃんは男のふりしてただけなのでママになったら多分普通になりそう。純粋な俺女ではない。




