第2話 憧れ
(*´ω`*)百合
「ぐあああっ!?」
僕は敵の能力者の攻撃に吹き飛ばされる。
爆発が連続で起こり、地面や建物が爆砕する。
視界には激しく入れ替わる天と地、受け身も取れずに地面を転がり蹲る。
口の中に土が入り、耳鳴りが酷く吐き気が迫り上がって来る。
(に、逃げなきゃ―――)
このままだと嬲り殺しだ。
しかしその時⋯
「うっ!?」
熱くて冷たい風が吹く。
熱風と寒風の吹き荒ぶ中、小柄な影が現れた。
「余り前に出ると死ぬわよ。弱い癖にしゃしゃり出てこないで、ハル」
子共にしか見えない姿と舌っ足らずな声音の先輩が現れた。
七歳で能力が覚醒し、成長が止まった幼い肢体。
しかし歴戦のエージェントである。
氷と炎を操るエージェント、氷炎の緋雨。
その名の通りの能力故に対策され易いと思われるが、圧倒的な火力で敵を粉砕してきた。
本物の、強者。
「す、すごい⋯」
今だって、僕を苦しめていた敵の能力者は呆気なく倒されていた。
確か炎の能力者だった気がしたが、単純に火力負けしたらしい。
「す、すみません」
感知系能力の僕は直接戦闘力は無い。
思わず謝ってしまう。
「いいから。黙って守られてなさい」
ちょこちょことした足取りの背中は、見た目以上に大きかった。
能力の影響なのか、染めても直ぐに直ってしまうらしい左右で違う青い髪と赤い髪。
ツインテールにしたその青と赤をたなびかせ、仲間内で最強と名高い氷炎の緋雨が戦場を舞う。
殲滅する相手は焼き殺し、生け捕りにする相手は氷結して動きを封じる。
実に鮮やか手並みである。
「緋雨さんは、凄いなぁ」
「――――――ちっ」
僕が純粋に憧れる横でつまらなそうにする者達も居た。
「あんな奴、大した事ねぇよ」
彼等は新米のエージェントである。
(僕と同じ⋯)
能力に覚醒し、一般社会で無双していた井の中の蛙。
弱い者虐めは得意だが、能力者同士の殺し合いには尻込みする臆病者達。
氷炎の緋雨の援護や支援を行う脇役達である。
「いつか、僕もあの人みたいに」
僕も脇役の一人だ。
それは自覚している。
だが憧れは止められない。
そんな僕の憧れのあの人が―――
「負けた?」
「ああ、現場にはこれが残されていた。頼めるか?」
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
心臓が煩い。
ナンダコレハ―――
「手――――」
僕の憧れのあの人の小さな手だった。
「まだだ」
僕は緋雨さんの手を握る。
手を切断されても生存出来る。
彼女の能力自体は、手を放出の為のトリガーにはしていない。
きっと切断面は焼いて止血⋯または氷結で止めているだろう。
「僕が助ける」
憧れのあの人が、負けたなんて。
信じない。
信じられない。
「きっと卑劣な罠にかけられた筈だ。卑怯者め」
彼女の小さな手を両手で握る。
「僕が必ず助けます」
既に冷たくなってしまった手を、握る。
感覚でしかないが、手の持ち主の方向が何となく解る。
「知覚、能力⋯」
僕を先頭にして捜索チームが組まれた。
非雨さん程ではないけれど、戦闘向きの能力者達。
その中には奴等も居た。
「調子に乗ってるから殺られるんだよ」
緋雨さんに劣等感を持つ男達が下卑た笑い声を上げる。
耳障りだ。
「へへ、現場には切断された手足が放置されていたんだろう?」
――――聞いてない。
片手だけじゃない、のか?
手足を、切断?
あの、緋雨さんが?
「ひはっ!きっと達磨にされて毎日犯されて孕まされてるぜぇ〜」
仲間⋯仲間なんて呼びたくないが⋯達が大声で話してる。
いや、小声だ。
小声だが、僕の知覚能力が敏感に拾う。
嘲りと優越感と、安堵感が混ざり合った色。
不快極まる。
「あーあんな冷てー顔がどんな姿で善がるか見てーな」
うるさい。
「俺も犯せば良かったかな」
「馬鹿、殺されるって」
「それにあんなガキじゃ勃つもんも勃たねーって―――」
「てめぇらっ!」
僕が思わず殴りかかる。
「あの人に散々助けて貰っておいてっ!」
簡単に組み伏せられてしまった。
悔しい。
「ふんっ!あのロリババアに散々手柄盗られてきたんだ!いい気味だぜっ!」
「お前の憧れのガキ女ぁっ!輪姦されて孕まされて売り飛ばされてるぜぇっ!」
「絶対にそんな事はないっ!」
そう云えばコイツら、スカウトされる前は強姦や輪姦も遊び感覚でやっていたと自慢していた。
屑め。
(なんで)
何でこんな奴等が生きてて緋雨さんが―――
「緋雨、さん?」
緋雨さんの気配がする。
僕は組み伏せていた男達を跳ね除け走る。
会える。
あの冷たくも温かい声を聞きたい。
(何だ。やっぱり無事なんじゃないか)
四肢切断なんて嘘なんだ。
手だって僕の手の中にある。
希少だけど治癒系の能力者になら治せるかも知れない。
全て元通りだ。
そこの角を曲がれば、いつもの冷たくも温かい彼女の顔が見えるんだ。
僕はそうして―――
「緋雨―――さ⋯⋯ん⋯⋯?」
緋雨さん―――
足だ。
足?
足があった。
少しでも背を高く見せたかったのか、少し上げ底の⋯エージェントが履くには、幼い見た目の彼女が履くには不釣り合いな、ヒールのある靴。
その靴に乗っている足。
おかしい。
足があるのに、体が無い。
「あ?」
見覚えのある緋雨さんの足と靴が、僕の目の前にある。
「知覚系、探査系、探索系の、能力者」
何処かからボソボソと声が聴こえる。
感知系能力の僕がかろじて拾える声。
「釣れた、釣れた」
声が聴こえる。
ゴクリッと生唾を飲み込む。
緋雨さんの足の側に男が立っていた。
その男が手を振ると、緋雨さんの足が消える。
奪われた。
あの人の足が強奪された。
「返せぇっ!」
思わず駆け出していた。
嫌だ嫌だ嫌だ。
理解したくない。
緋雨さんの切断された手と足―――
それが意味する事とは―――
「よくもっ!よくも緋雨さんをぉぉぉっ!」
僕が辿り着くより早く、他の能力達が男に殺到した。
「てめぇがあの二色頭殺ったのかっ!?」
「ならてめぇを殺れば俺達がトップだっ!」
男達が能力を解放する。
光が迸り、岩が抉れる。
緋雨さんよりは勿論弱いが、僕よりも強い戦闘向きの能力。
その複数の能力の集中砲火により、僕は爆風で地面を転がる。
「げほっ!げほっ!ぐっ⋯」
咽ながら立ち上がる。
爆煙が晴れる。
その先に現れたのは⋯
「お仕事、終わり」
例の男だった。
仲間の能力者達は全員倒れている。
何をやったのか解らない。
だがあれ程威勢の良かった連中がピクリとも動かない。
「?⋯アレは⋯」
現場には居ない筈の、僕に緋雨さんの手を渡してくれた上役の男も倒れていた。
きっと先走った連中を囮にして不意打ちを仕掛けたのだろう。
(僕達を餌に敵を誘き寄せていた?)
彼は僕やあの馬鹿共を隠れ蓑にして敵に奇襲を仕掛けたのだろう。
返り討ちにされたみたいだが。
(僕じゃ、勝てない―――)
派手な能力ではなかったが、任務達成率は緋雨さんと同等の実力者だった筈。
「緋雨さんは、何処だ?」
せめて、彼女が無事かどうかは知りたい。
まだ望みは捨てない。
片腕や片足を失っても上手いこと潜伏しているかも知れない。
この一連の流れも、実は緋雨さんを誘き出す為の罠であって、彼女はまだ無事な可能性も―――
「知り合い?」
男が小首を傾げる。
「いいから答えろっ!」
吠える。
そんな僕をジッと見下ろす男。
男が嗤う。
「見る?」
不気味な笑顔だった。
そして男が目の前の空間に手を翳すと、空間が歪んだ。
きっと自慢したくなったのだろう。
最近新しく手に入った、自分の玩具を。
「な――――――――」
歪んだ空間の中に、映像が視える。
「緋雨さ、ん⋯」
僕が見たのは、真っ暗闇の様な空間にボウッと浮び上がる、氷炎の緋雨の変わり果てた姿だった。
ツインテールにした青い髪と赤い髪は変わらない。
しかし、その身体には大きな変化があった。
先ず、腕が無い。
(両手が無い)
足が無い。
(両足が無い)
そして、そんな事よりも――――
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
僕の脳が焼き切れる。
氷炎の緋雨の下腹部は膨らんでおり、薄い胸にある乳房からは母乳が滴っていた。
「映像⋯過去の映像って⋯おお、こうするのか」
男はその映像に手を翳して何かを弄っている。
そして映像が切り替わる。
目の前の男が緋雨さんの四肢を切断してダルマにする瞬間..
そしてそのまま犯し続ける映像に、僕は―――
「殺す」
映像の中の緋雨さんは苦悶の表情の中に甘い色を混ぜた顔をしていた。
「殺す殺す」
膨らんだ腹を揺らし、母乳を飛び散らしながら男に犯されている。
緋雨さんは男に口付けを求めて舌を伸ばしている。
食い千切れば良いのに、男のモノを愛しげにしゃぶっている。
そんな姿なんて――――
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!」
「ふふふ」
怨嗟の声を上げる僕。
「良い顔だ」
男の手が僕へ伸び、僕の意識は途切れた―――
(*´ω`*)僕っ娘




