第15話 轟拳
(●´ω`●)皐ちゃん回
「来たわ。出て来なさい」
見回り中にうちの人間が襲われた。
それは良くある事。
ただ今回の敵の目的は不明だ。
周囲の組織との揉め事は最近は無い。
なので明確な敵対組織も居ない筈。
「わざわざうちの縄張りで舐めた事をしてくれたわね」
私は周囲を睨め付けながら路地裏を進む。
部下のうち、非戦闘員である女性が攫われた。
二人一組だったが、敢えて弱い方を残して強い方を返した。
逃げて来た部下はそれなりの手練れだったが、腕を折られ戦意も折られていた。
命に別状は無い。
(居た)
「無事?良かった」
部下の女性を見つけた。
手足を縛られ猿轡をされているが、乱暴された形跡が無いのが救いね。
意識も有るし衣服の乱れも無い。
「んんん―――――――っ!?」
部下が叫んでいる。
「落ち着いて、今すぐそれを外すから―――」
私が手足を縛る縄に手をかけ―――
「よぉ、雷帝」
「なっ!?」
背後からの突然の声に反応する。
(っ!?躱せな―――)
しかし、能力で底上げされてる筈の私の反応を上回る速度で拳が襲って来た。
「がはっ!?」
部下を庇って背中でその一撃を受ける。
メキメキと骨が軋む。
油断した。
まともに喰らってしまった。
(重い―――)
私は壁際までぶっ飛ばされ激突し、地面にバウンドして転がる。
受け身も取れなかった。
凄く痛い。
「逃げな、さい」
攻撃を受ける寸前に手足を縛る縄を切ってやっていた部下は、こちらを振り返りながらも走って行く。
良かった。
仲間は逃せた。
猿轡は自分で外してね。
「へへ、見つけたぜ雷帝ぇぇ〜」
地面に蹲る私に近付いて来る影が在る。
「轟拳⋯」
「おっほぉ〜?覚えててくれたんだぁ〜?」
男がゲラゲラと嗤う。
心底おかしそうに、嬉しそうに。
(馬鹿な⋯何故―――?)
轟拳。
身体強化特化の能力者だ。
私の知る限り最も頑丈な能力者。
「ちゃんと、殺した筈なんだけど」
私は喋りながら立ち上がる。
体は痛いが内臓にも骨にも異常は無い。
痛いだけだ。
(痛い⋯くそっ⋯)
「へぇ〜?俺はピンっピンしてるぜぇ〜?」
轟拳は拳を開閉しながらゲラゲラと嗤う。
「ペッ!」
私は血混じりの唾を吐き出す。
「あの時の連中は一人ずつ始末したぁぜぇ?残るはお前だけだぁ~⋯」
「あ、そう」
轟拳は何処にも所属せず、好き勝手に生きていた。
(ある意味虚空と似ているけど、全く違う)
轟拳は気紛れに民間人を殴り殺す。
民間人の女を犯す。
一番の悪趣味は民間人の子共を集めて、一撃で何人殴り殺せるか試して遊んでいた事だ。
「お前みたいな奴が居るから、能力者が肩身の狭い思いをする」
「ぎははっ!?パンピーに気ぃ遣って生きてるんじゃねぇや?好きに生きなきゃ損だぜぇ?」
轟拳が嘲笑う。
(私一人で、勝てるかしら?)
あの時は組織間の軋轢や抗争を越えて、一級線の能力者が集まってコイツを処刑した。
でも電撃や炎とかじゃ傷一つ付かない。
結局、土を操る能力者が鉄の箱に泥を敷き詰めコイツを生き埋めにして、更に川底に沈めたのだ。
「どうやって生き残ったのかしら?ゴキブリよりもしぶといわね」
「褒め言葉として受け取ってやるぜぇ」
(仕方無い。時間を稼ぐ)
私達は周囲の組織とは良好な関係は築けているとは思う。
(部下が知らせてくれれば、もしかしたら⋯)
利害度外視で助けてくれる相手は居ないけど、この馬鹿を野放しにしてはならないと判断してくれる―――はず、よね?
「はっ、また遊んで上げるわ」
「嬉しぃねぇ」
奴が能力の出力を上げる。
(私も本気で―――!?)
しかし―――
「なっ!?」
轟拳の肉体がメキメキと変質して行く。
筋肉が肥大化するのは解る。
しかし、それで終わらない。
明らかに骨格から変形して肥大化して行く。
身長が二倍、三倍にまで高くなり、横幅はそれ以上だ。
コレではまるで―――
「モンスター―――」
「ふんっ!」
「ぐはっ!?」
先程よりも速度と威力の上がった拳が私を襲う。
間一髪で直撃は避けたが、掠っただけでダメージを負う。
「はぁ、はぁ、はぁ⋯アンタ、正気?」
この変貌の仕方は、まさか―――
「ああ、正気さ」
顔の筋肉や骨格まで変形させた轟拳が嗤う。
「魔人と手を組むなんて⋯」
エルフとはまた違った魔法を扱う種族、魔人。
彼等はエルフの魔法の様に自然界のエネルギーは使わない。
代わりに魂や肉体を代償にして人外の力を得るのだ。
本来の魔人なら変身や変形の後に元に戻れたりする。
しかし普通の人間が魔人の魔法を使えばもう元には戻れない筈。
「くっ!」
私は指先から電撃を放つ。
生身の人間なら一撃で昏倒するレベルの衝撃を与えられる。
「貴様の電撃なんて通じないぞぉ、ゲハハハッ!」
奴の肉体が更に膨らんでいく。
私の電撃は、効いていない。
肉体強化の能力者の範疇を超える、正に変身だ。
「喰らえっ!」
奴の足元の地面が弾け飛ぶ。
奴の巨体が瞬時に私の目の前に現れた。
「あぐっ!?」
奴の拳が私の腹を捉える。
(反応出来ないっ!?なんてスピードっ!?)
反射速度や肉体強度を上げている筈なのに全く避け切れない。
ダメージが内臓まで通る。
「オラオラオラオラッ!」
「ぐぅっ!?」
ドコドコと殴り付けられる拳。
格闘技等の技術的なものは何一つ無い。
(避けろっ!くそっ!)
ただただ拳を力任せに振り下ろしてるだけの、暴力。
私も拳に電撃を纏わせて迎撃する。
奴の連打を撃ち落とす。
しかし⋯
(足がっ―――)
左足の足首をやられた。
避け損ねた拳の一撃がまともに私の足を潰した。
(身体強化が使えない―――)
何でもかんでも出来そうだが、身体強化は非常に繊細だ。
(私の身体強化は電撃能力の派生技に過ぎない、純粋な身体強化にはパワー負けする―――)
軸足の足首を痛めた状態では完璧なパフォーマンスを発揮出来ない。
動きを封じられた私は徐々に拳を捌けなくなる。
(詰み、かしら)
拳の雨は止まない。
殴られた箇所が出血する。
鼻血が飛び散り、腕の骨にヒビが入るのが解る。
(くそ、ジリ貧ね)
中途半端に身体強化をしたままだと死に難くなって余計に苦しむ。
身体強化特化の能力者が首だけになっても死ななくて、長く苦しんで事切れたのを見た事がある。
このまま何もしない方が良いだろうか。
どちらにしろ嬲り殺しだろうけれど。
「へへっ、これで今日からこのシマは俺のもんだぁあああああっ!」
絶命するその瞬間、ふとあの時の事が思い浮かぶ⋯
(あのカフェのケーキ、美味しそうだったわね)
虚空が抱きかかえていた手足の無い女の子達。
彼女達は一人一人大切そうに虚空に抱っこされ、それぞれ違うケーキを食べさせて貰えていた。
紅茶も飲ませて貰えていた。
手足も無く、孕まされ、不自由そうなのに幸せそうだった。
(少なくとも不釣り合いな立場に収まり、好きでもない戦闘をし続ける私より、不自由そうではなかったわね)
彼女達を羨ましい、妬ましいと思ってしまった。
「死ねやぁっ!雷帝ぇっ!」
そして私は目を瞑る。
最期に見るのが轟拳の下卑た笑い顔や、奴の拳なのは嫌だったから。
「っ!?⋯⋯⋯⋯―――⋯」
轟拳の振り下ろす拳が私の頭蓋骨を粉砕し、脳髄を飛び散らせる。
そんな、最悪な光景を思い浮かべる。
「―――――?――――⋯⋯⋯?」
⋯⋯いつまでも痛みが来ない。
死ぬ瞬間、余りの衝撃で痛みを感じなかったのかしら?
「え?」
「これが魔人化かぁ」
目を見開くと、奴の頭が落ちて逝くのが見えた。
肥大化し変形した頭蓋骨は最早人間の時の面影を残してはいなかった。
角が生えて牙が生えて、醜い化物に成り果てていた。
そんな恐ろしげな面相に歓喜の笑顔を浮かべたまま轟拳は絶命していた。
「首を落とせば死ぬんだね」
つまらなそうに言い捨てて、轟拳の首を投げ捨てる虚空。
(いえ、本物の魔人は首だけになっても生きてるらしいけど⋯じゃなくて)
「虚空⋯」
満身創痍の私を見下ろす空間能力者、虚空。
「やぁ鵺」
タイミングが良過ぎる。
(あの時、マーキングされてたのかしらね)
「その名前は好きじゃないの」
多分私が彼に利敵行為を行なうかどうかの監視をしていたのだろう。
「雷帝」
そのお陰で助かったのだから複雑ね。
「もっと嫌い」
私はそう言ってから呟く。
「皐」
本名だ。
もう誰にも呼んで貰えていないけれど。
「皐って呼んで」
「解った皐。俺は枢」
「枢」
本名を教えた⋯て事は⋯
(プロポーズか、お前を殺すって事よね⋯)
「一目見た時から欲しかったんだ。手に入って良かった」
「私もあの子達みたいになるの?」
(ああ、もう帰れないか⋯)
先日、流行りのカフェで虚空が代わる代わる抱っこしてケーキを食べさせていた女の子達。
四肢を切断され、お腹を膨らませたボテ腹ダルマ娘達。
「どうせこのままだと死ぬけどね。ゴホッ」
吐血した。
内臓をやられている。
「死なない。死なせない」
虚空が私の体を抱き上げる。
「もう俺の物だからね」
虚空が優しく、嬉しそうに微笑む。
「いいわ、もう」
私は諦観し溜め息を吐き出す。
私も四肢を落とされ孕まされるのだろう。
「好きにして」
「ああ、皐、好きだよ。可愛いね、皐」
そうして雷帝鵺としての私は終わったのだった。
(●´ω`●)皐ちゃんもロリニティーズに加入です。




