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【騒がしい昼餉】

入力ミスがあったので、一部書き直しと追加部分があります!


「誰が皇都へ行く?」

「「「………」」」


 主様の問いかけに、皆様が何故か動きを止めた。

 

「……主? 誰《・》が?」

「うん。誰が?」

「全員で行くんじゃ…ねぇの?」

「いや~流石に大所帯で行くのはねぇ。轟《トドロキ》に乗れる人数も、流石にこの全員は無理だしねぇ?」

「暁《アカツキ》に乗って行けば!」

「あの子なら全員乗れるし速いけど、ちょっと目立ち過ぎるよ」

「じ、じゃあ! いっその事歩きで!」

「皇都に着くの夜になっちゃうでしょう? 皇都へ行くのは僕と主役の椿。あと同行出来るのは精々三人くらいだよ」

「この中から、皇都へ行けるのは……」

「たったの三人……」


 皆様が固唾を飲んで真剣な面持ちになって、互いの挙動を観察している。

 その中でも天《テン》と、いさ兄様は目に見えて必死そうだ。


「あ、あの……皆様は、そんなに皇都へ行きたいのですか?」


 てっきり先程の只ならぬ空気感は、”妖まじり”が人里へ赴く事で疎外される事を嫌悪されているのかと思っていたけれど、皆様の反応を見るに、そうではなさそうだ。


「そりゃあそうだ!」

「皇都は流行の最先端!」

「最新のお洒落道具、流行の洋服、美味しいお菓子。皇都にはいっぱいある!」

「それに皇都の方が、楽しい話題が沢山」

「猫(マーオ)! 観光も楽しいニャ~!」

「な、なるほど…」


 確かに、辺境の地の育ちである私も……皇都に行く事自体は、凄く楽しみなのです。

 それでも、この……一目瞭然で人ならざる存在だと分かる姿になってからは……どうしても、他者の目が恐ろしく思う。

 今朝はなつ兄様と葵が居てくれた……おまけに主様の領地内で、人も居るが妖も居るこの街の中では、思った程この姿を人前に晒す事が恐ろしく思わなかった。

 

「………皇都の中には、“妖まじり”を良く思われない人も、多いのではありませんか?」


 恐る恐る疑問を口にする。

 皆様は揃って口を閉ざしたけれど、閉ざした口は揃って弧を描いた。


「居るよ。沢山ね」

「え…」


 笑顔のなつ兄様は、私の問いに対する回答にしては、似つかわしくない程に爽やかに言い放った。


「俺達の調伏依頼を軍事部に直訴する輩が多いのも事実だ」

「で、では……どうして皇都へ赴く事がそんなに楽しそうなのですか?」

「幾つか理由はあるけど、最も大きい理由は―――帝(・)が”妖まじり”の生存を許し、尚且つ正式な手続き踏まず、帝の許可無く調伏する事を容認されていないからだ」

「帝様が…?」

「そう言う事。おまけに俺達を調伏するとすれば皇国軍事部だけど、その最高責任者と無条院家は仲が良い」

「……なるほど」


 どうやら私の不安は杞憂だった様だ。

 なつ兄様の説明を聞いた皆様も、同意する様に首を縦に振られている。

 主様も、にこにこと笑顔で手にした扇子をばっと開いた。

 

「そうそう。だからね、椿。他者の目が気になるし怖いのも分かるけど、危害を加えて来る者は絶対に居ない。それどころか、最近では皇都の人達も僕等を一皇都民(・・・・)として受け入れてくれている風潮にある―――だから、何も心配いらないよ」

「は…はい!」


 それを聞いて、思わぬ程心の底からほっとした。

 自分が思ってるよりも、ずっと世間は私達を受け入れてくれているらしい。

 長い間里で迫害を受けて来ていた所為で、少し神経質になっていたみたい…。


「ちなみに俺は主の護衛兼、椿ちゃんに皇都の案内役をするから同行数三人の内の一人に入ってる」

「えー!? ずるいぞ兄貴ッ!」

「そうだぞ棗! いっつもいっつも主の護衛ってかこつけてしょっちゅう皇都に行ってるくせにー!」

「しょっちゅうって、二ヶ月に一回行くかどうかだろ? それに現実問題、領主護衛役は勿論の事、領主補佐だって熟さなきゃならないんだが……お前達出来るか?」


 なつ兄様の視線を向けられた天といさ兄様……ずば兄様と綺《アヤ》ちゃんが苦虫を嚙んだ様な表情をして視線を逸らした。

 ただ一人、葵《アオイ》だけは「はいっ」と手を上げた。


「補佐の仕事はめんど……難しいから出来ないけど、護衛役なら棗君より、うちの方が向いてると思う」

「今絶対『めんどい』って言いかけたな? ……確かに葵の妖術による防御術は生身で護る俺よりも確実だけどね」

「でしょ?」

「なら、今回は葵が主の護衛役で同行するか?」

「え…うーん。うち的には棗君が居てくれた方が楽……頼もしいんだけどなぁ」

「今『楽』ってはっきり言ったな?」

「まーまー。棗君は僕の補佐役としては絶対に外せない人選だからね。葵? キミの皇都での目的は主に“お買い物”なんじゃないかい?」

「ぎくっ」

「はてさて? 僕の聞き間違いでなければ、今朝の朝餉を食べ終わった後で棗君と椿と一緒に街で大量の買い出しをして帰って来たと話を伺っているよ? ―――僕の臍繰り(・・・・・)をた~んまり持ち出して……ってね?」

「ぎぎくっ」


 主様の……ちょっと形容しがたい「にや~」っとした笑顔を向けられて、葵は場都合《ばつ》が悪そうに視線を逸らした。

 主様がなつ兄様にも内緒にして(隠せてないけど)趣味のお酒を買う為に溜め込んでいた臍繰《へそく》りを、私の私物購入の為に使ってくれた。

 なつ兄様も葵も「気にしなくて良い」みたいに言ってたけど……。

 

「と言う訳で! 葵は今回、お留守番です!」

「ぬぅあ~ッ! 久しぶりの皇都なのにぃいい!」

「……葵って、あんなに大きな声出せたんですね?」

「猫(マ~オ)。久々に葵っちの雄叫び聞いたニャ~」

「あいつ、お洒落とか買い物とかになると人格変わるんだよ」

「主相手だから何も言い返せねぇけど、他の奴等が言ったら結構本気でキレるから気を付けろ」

「は…はぁ…?」


 何故か、天といさ兄様の言葉には説得力があった。

 ……さては、過去に葵に怒られた事があるんですね?


「と言う訳で、主の補佐兼護衛役として俺が同行する。轟の乗車人数を考慮して、主、椿ちゃん、俺と、残り二名なんだが―――天。お前も来い」


 淡々と話を進めて行くなつ兄様の指が、きょとんとした顔の天を指した。


「えっ。良いのか!」

「良いも何も、お前は主が決めた椿ちゃんの護衛役だろ? 今朝は領地内だし、俺も葵も居たから護衛役として呼ばなかったけど、今後は椿ちゃんが領地の外に出る時は必ず同行してもらうからな」

「よ……よぉーっし!」


 天は両手を上に掲げて全身で喜びを表した。

 それ程、先程の買い出しに同行出来なかった事が悔しかったのでしょうか…?

 そして、その隣では―――


「残りひと枠だ…! 絶対ぇ譲らねぇぞ、綺ぁ!」

「望む所ニャッ! 前回も前々回もお預け食らった猫の執念深さ舐めたらア・カ・ン…ニャーよ!」


 いさ兄様と綺ちゃんが、全身から妖気が漏れ出しながら睨みあっていた。

 お二人から漏れ出す妖気は空気を揺らし、大広間に置かれたお膳や花瓶が小刻みに揺れ始めた。

 「そんなに皇都へ行きたいんですか?」と問いかける前に、ウデさんがお二人の首根っこを掴み上げて喧嘩を止めた。

 いさ兄様も綺ちゃんも、悪戯した後で叱られる猫の様に身を固くして大人しくなってしまった。

 他の皆様に比べると屈強な肉体のいさ兄様を片手で制するとは……ウデさんも中々の剛腕と見た。

 ちなみに、すば兄様はお二人の睨み合いには参加せず、「我関せず」と言いたげで、完全に空気に溶け込んでいた。


「喧嘩すんな。今回は半日近く皇都に滞在する事になるとは思うが、自由行動は殆ど出来ないと思っとけよ。挨拶回りが目的なんだからな。しかも、出向く先は上位貴族の所属部署ばかり。今みたいに感情的な言動は御法度だ。主の顔に泥を塗らない様、気を付ける様に」

「「……はぁい(猫(マァ~オ))」」

「昴《スバル》はどうする? 前回の領主会談の時は同行してもらったけど、今回は譲るか?」

「………俺は、残る。皇都に特に用事無い」

「分かった。じゃあ街の警護は引き続き頼むな」 

「了解」

 

 なつ兄様の指示を受けて、すば兄様は冷静に答えたけれど……背中の羽がぴこぴこと小さく動いている。

 頼りにされて、嬉しかったのかな?


「はいはい。明日の朝までに決めてくれれば僕は構わないからね。まだ紡《つむぎ》も起きて来ないし、彼女とも話し合って決めるんだよ?」

「「はぁい(猫(マーオ))…」」


 こうして、私が無条院家に来て最初の昼餉の時間が過ぎた。

 なつ兄様とウデさんのお手伝いで食器洗いを終えた後、しょぼくれる葵と喜色満面の天と一緒に自室に戻ったら、そこには先程まで伸びていたはずの紡さんの姿は無かった。

 部屋の中に戻って、夕餉までの午前中の買い出しでの出来事を天にお話したり、葵の愚痴を聞いたり、その間になつ兄様が持って来て下さったおやつの大福を食べて至福の時間を過ごしました。


「そう言えば、明日の皇都へ伺う目的の中で、主様が何やら曖昧な言い方をされていたのだけど、葵と天は明日何処へ行くのか分かる?」

「俺? 分かんねぇ。しかも明日その人が居るのかも分かんねぇみたいな事言ってたよな?」

「うん。主様ですら事前に面会の予約を取り付けられない程の相手となると……もしかして、お国の重鎮なのかも…?」

「じゅーちんって、お偉いさんって事か? 主だって上級貴族なんだからそのじゅーちんってやつじゃねぇの?」

「それは……葵はどう思う?」

「ん~」


 葵は畳の上でふて寝をしていた。

 未だにお留守番を言い渡された事が精神に大打撃を与えている様だ。

 葵は寝転がったまま、ごろんと寝返りを打って此方に生気の無い視線を向けた。


「……それは多分ねぇ……あの方(・・・)の事だと思うよぉ」

「あの方?」

「そう。あの方……華族の長であろうと、ましてやその令息令嬢であろうと簡単にお目にかかる事はおろか、その御尊名すら安易に口に出す事すらも恐れ多い―――『皇都の宝玉(・・・・・・)』と呼ばれる程の御方……ちなみに、うちもまだ二回程しか直接お目にかかった事は無い……」


 言い終えた葵は再び寝返りを打って、障子の向こうの景色に向かって「はぁ~」と深い溜息を吐いた。

 そして私と天はと言うと―――


「皇都の?」

「宝玉?」

「皇都の…」

「宝玉…」

「………」

「………」


 二人同時に引き攣ったように息が止まり、青ざめた顔で向かい合った。


「「皇都の宝玉ぅうう!?」」


 私と天の叫び声が、お屋敷中に轟いた。

 けれど、驚きもするでしょう………『皇国の宝玉』とは、読んで字の如く『国で一番の高貴なる存在』という意味で呼ばれた字《あざな》―――


 ―――極東皇国が現皇帝、天神院《てんじんいん》明之彦(アケノヒコ)様の事なのだから……。


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