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16.向かうのは皇太子様のもと

「リィナ様……」

「その姿でパーティーには行かせられないかな」

「なんで、パーティーのこと……」


 リィナ様はたまたまわたしの離宮に来たわけじゃないと思う。

 自分の意思か誰かに頼まれてか、どっちかは分からないけど。でもわたしのために来てくれた。


 リィナ様が今日パーティーがあることを知っていてもおかしくはない。

 多分それを聞く相手がいるとしたら夫である執事様か、仲の良いと言っていた皇太子様。


 じゃあなんでわたしがパーティーに出ると思ったのか。それが謎だ。

 皇太子様でも執事様でもどちらかから聞いているのなら、わたしがパーティーを行かないと言ったことも知っているはず、なのに。


「なんであたしがここに来たのか、って思ってるでしょ」

「は、はい……」

「あたしの“力”のおかげだよ」


 リィナ様はわたしが思っていることをすぐに当てた。

 そして当てた理由も教えてくれた。


 力、ってどういうこと?

 力と聞いてふと思い当たることがあった。

 思い当たることとはリィナ様の瞳の色。完全な白色ではないけれど、色を聞かれたら白色と答えられるくらいの色だ。


「リィナ様の両親のどちらかは『日の助け人』なんですか?」

「両親じゃなくて曽祖母がイレス人なの。先祖返りってわけ」

「先祖返り。そうなんですね」


 イレス人とは『日の助け人』のことで、多くの人はわたしのように本来の呼び方ではなく違う呼び名で呼ぶ。


 先祖返りで力を持つなんて初めて聞いた。

 でも『日の助け人』の力を使ったとして、なんでここに来ることになったんだろう。


「それはね。あたしの癒す力は精神を癒す力だから。とは言っても、誰かの心を見ることは滅多にしないよ。あたしが先祖返りで使えるようになった力だから、使うのに結構精神力が必要だしね」


 『日の助け人』の力は人を癒す力。だけどその癒すは人によって様々。

 リィナ様の場合、精神を癒すために心の中を見れる力なんだろう。

 多分リィナ様が先祖返りだから直接的に手を加えられる力じゃなくて、力を使い心を見てあとは自力で精神を癒す。

 自力ということは相手の心の中のことを理解して、最適な選択をしていかなければならない。

 それ次第で自分が悪者扱いされる可能性もあるのに。


 だからあまり便利な力じゃないと思う。

 力を使う対価が自分の精神力というのも大変そう。それに見ることしかできないのは使った時に対してのメリットが少ない気がする。

 しかもリィナ様の言い方的に自分が消費する精神力も相当なものなんじゃないかと思う。


「リィナ様は、凄いですね」

「ありがと。でもね、勝手に自分の心の中を見るな、なんて言われたこともある。まあ幼い頃だから上手く力が使えなかったせいでもあるけどね」


 やっぱりそういうこともあるんだ。

 つまりわたしにもその力を使ってわたしの心の中を覗いたことになる。

 もしかしたらわたしが怒るかもしれないのに。


「お嬢さんは怒らないんじゃないかな」

「もしかして今力を使ったんですか?」

「まさか。今までのはお嬢さんが分かりやすすぎるだけだから。でもここに来ようと思ったのはね、昨日お嬢さんの心の中を見た時から決めてたの」

「昨日から……」

「うん、そうそう。まあ殿下ちゃんのためでもあるしね」


 わたしのためであり、皇太子様のためでもある。

 わたしと皇太子様のために力を使っても、リィナ様にはメリットなんてないはず。

 それでもわざわざここに来てくれた理由はなんなんだろう。


「じゃあさっそく、お化粧しちゃおうか」

「でも、もうパーティーが始まってるんじゃーー」

「いいの。主役は遅れて登場するものでしょ」

「主役って、わたしはそんなのじゃ……」

「じゃあ、主役級の可愛さにしてあげる。楽しみにしててね」


 わたしはリィナ様に押されて部屋へと戻り、化粧台の前に座らされた。


「目はいいって言うまで瞑っててね」

「分かりました」


 そう言われわたしは目を瞑り、じっと動かないようにした。

 そのままわたしとリィナ様は話をせず、全てをリィナ様に任せた。


 コンコン、と音が聞こえる。


 誰だろう?

 わたしのところに来る人はいないと思うんだけど。


「お嬢さんはこのままにしてて。あたしが出迎えるから」

「あっ、はい。お願いします」


 リィナ様は誰かを出迎えにいった。


「リエリア王女!」

「ギアル! 失礼よ」

「ごめん、リィちゃん。今はそれどころじゃないんだ」


 この声それにギアルって名前からして、皇太子様の執事様だよね。

 でもなんでここに来て? もしかしてわたしがパーティーに行くのを止めに……。


 わたしはリィナ様に目を瞑っていてと言われたけど、さすがに今瞑ったままなのはいけないなと思い目を開けた。

 そこにはやはり執事様がいた。


「リエリア王女、失礼ながら頼みたいことがあります」

「はっ、はい」


 執事様がわたしの前にきて、立膝をした。

 下を向いたと思ったら、すぐに頭を上げる執事様。

 急いで来たようで少し息を切らしているみたい。


「ラディウス様をお助けください」

「えっ!? 皇太子様がどうかしたんですか!」


 わたしは執事様が皇太子様のことを助けてと頼まれたので、何があったんだと思い勢いで立ち上がってしまった。


「落ち着いてください、リエリア王女」

「……はい、大丈夫です」


 わたしは執事様の言ったことに動揺したのを落ち着かせるために深呼吸をした。

 そして椅子に座る。


「ラディウス様とネプ王国国王が決闘をすることになりました」

「ど、どういうことですか! なんで皇太子様が決闘をすることに」

「それが……」


 わたしは再び動揺し、大きな声を出してしまう。

 執事様が理由を言うのを躊躇っているようだ。

 わたしの声に驚いて、というよりは、理由が言いづらいまたは言えないような内容なんだろう。


「ギアル、言ってあげて」

「分かったよ」


 リィナ様が執事様に理由を言うように説得してくれた。

 執事様は少し黙り込み頭の中を整理しているよう。そして理由を言い始めた。


「国王がラディウス様のことを馬鹿にしていたんです。理由は省力して言いますが、簡単に言うと…………リエリア王女を連れてこられなかったことを」

「えっ……」


 まさかわたしのせいで皇太子様は馬鹿にされた。それで決闘に……。

 でも皇太子様がそんなことで決闘をするような人には見えない。


「そこまでは良かったんですが、そこからが問題なんですよ」


 わたしは黙って聞くことにした。

 執事様の後ろにいるリィナ様はなにか考えながら執事様の話を聞いている。


「国王がリエリア王女のことを貶しだし、それにラディウス様が怒ってしまって……。それから色々なことを言い言われ、国王が剣を抜き剣先をラディウス様に向けたんです。それでラディウス様も剣を抜かれまして……」


 剣を抜いた。それ自体にはあまり意味はないけれど、剣先を相手に向けるという行為が挑発となり、相手も剣を抜くと決闘を受けたこととなる。そしてもっと重要なことがある。それはその場所が公の場であること。

 その条件の決闘は全てを賭けるという意味。


 伝説上の物語で、神と邪神が争った初めての場所がそこであり、その時にしたのがその行為だからだ。


 その手順を綺麗に踏んで行うというのは、完全に同意の上での決闘ということになる。


 でもその物語では邪神が途中で邪神の味方と一緒に神と戦ったという話だったはず。

 簡単に言うと一人対多人数の決闘となったらしい。そんな状況でも勝ったと言えるのが神だ。

 正確に言えば邪神が追い詰められ撤退したのが始まりの決闘の終わり方。


 この決闘のやり方を『神の決闘』という


「決闘はもう始まっているんですか?」

「おそらくは、始まっているかと。一応数名の騎士を近くにつかせましたが、『神の決闘』に割り込むのは国際問題になりかねないことなので。それにラディウス様はどこか気分が優れないように見えました。それもパーティーの途中から」


 『神の決闘』は己の全てを賭ける決闘。

 その一戦の勝ち負けで自分の全てが失うかもしれない。

 それに『神の決闘』で割り込むのは邪神と同じと見られる。皇太子様の騎士達が割り込めば、皇太子様のことを邪神扱いする人が出てきてもおかしくないことなのだ。


 皇太子様が体調不良。それもパーティーの途中から。それって何かされたってこと?

 もしかして、この決闘は事前に仕組まれていたものなんじゃ……。


「それじゃあ、早く行かないと!」

「待って。お嬢さんが行ってどうするの? 何ができるの?」

「そ、それは……」


 リィナ様はわざとわたしに厳しい言葉で聞いてくる。

 わたしは焦っていたから、その言葉で考えることができるようになった。


 わたしに何が、できる?

 何もできなかった。けど今ならできる。

 借り物の力だけど、それを使えるのはわたし。わたしにしかできないこと。


 わたしがもし『夜の守り手』なら、できるはず。

 想いを伝えれば守れる力。

 皇太子様なら勝てると信じてる。だったら守る必要はないのかもしれない。


 だけど、皇太子様を守りたい!


 少しでも傷つかないように。

 少しでも痛い思いをしないように。

 少しでも頑張れるように。


 わたしは皇太子様を守るんだ。


「わたしは力を授かりました。たった一度しか使えないですけど、その力でこの想いで、皇太子様を助けたいんです!」

「そう、分かったわ。もう化粧は完成してるから、あとはこれに着替えて」

「これは……?」

「殿下ちゃんがお嬢さんのために用意してたドレスよ」


 皇太子様の髪の色と同じ色のドレス。

 とても軽くて温かい。この温かさは皇太子様が近くにいる気がするから。


「気をつけて、行ってきてね」

「はい!」


 皇太子様に頂いたドレスというなの鎧を纏い、リィナ様にして頂いた化粧というなの兜を被り、あの声の人から頂いた力というなの剣を携える。

 そしてわたしは離宮から走って出ていった。

 向かうのは皇太子様のもと。


###


「ギアル、今すぐ帝国に帰る準備をして」

「どういうこと?」

「多分、王国とは敵対することになると思うから」

「……分かった」

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