13.いつかまた
馬車がゆっくり進み始める。
馬車の中にはわたしと皇太子様の二人。
お互い気まずいから一言も発さずにただ馬車に揺られる。
「……」
わたしはこの静かさに耐えきれず下を向いてしまう。
「……リエリア」
「はっ、はい。どうかしましたか?」
わたしは皇太子様に名前を呼ばれるとすぐに顔を上げて皇太子様を見る。
今日ちゃんと皇太子様の顔を見ていないことが分かった。
なぜなら皇太子様の目の下には隈があったから。
「寝れて、ないんですか?」
「少しやらなければならないことがあってな」
皇太子様は苦笑いをしながらわたしの質問に答えた。
これは誰だって分かる嘘。皇太子様が嘘をついていることがすぐに分かった。
でもわたしはそれが嘘だということを分かっても深くは追求しなかった。だって寝れていない原因は多分わたしだから。
「体調が悪いなら、今すぐにでも帰ったほうがいいんじゃ……」
「大丈夫だ。オレが頼んだことなのに、それを自分で捨てるなんてことはしたくない」
明らかに疲れているのにそれを隠してわたしとのデートを優先している。
本当に皇太子様はわたしと会えなくなることを悲しんでいる。
そんな姿を見ると苦しくなってしまう。
でも苦しくなる資格はわたしにはない。わたしがこの状況を作ったのだから、苦しさを感じてはいけないんだ。
「皇太子様、最初に行きたいところがあるんです」
「どこだ? リエリアの行きたいところなら最優先で行こう」
「ありがとうございます。あの大樹に行きたいんです」
「ああ、分かった」
わたしが行きたい場所を教えると皇太子様は馬車の運転をしている騎士に行き先を伝えてくれた。
また馬車の中は静かになり、目的地まで話をしなかった。
そして目的地へと着いた。
馬車が止まると皇太子様がまず外へと出て、わたしは皇太子様の手を取って馬車から降りた。
「こちらに来てください」
わたしは勇気を出して皇太子様の手を引っ張って、目的の大樹に行った。
大樹を背もたれにして座る。
「どうぞ、皇太子様」
「? どうぞ、とは?」
皇太子様はわたしが何をしているのか分からずにわたしを見ている。
わたしは説明するのが恥ずかしいことだからあまり言いたくないけど頑張って言うことにした。
「膝枕、です」
「……いいのか?」
「皇太子様が嫌じゃなければ」
「! ああ、喜んで借りさせてもらう」
皇太子様はわたしに膝枕をされた。
さっきまで疲れた顔だった皇太子様もほんの少しだけ元気になってくれた気がした。
「可愛いな、リエリア」
「へっ!?」
「最初見た時言えなかったんだが、今なら言っていいと思ったからな」
皇太子様は昨日のことのせいで言いづらかったんだろう。
自分が言っていいものかって悩んだと思う。
でもわたしはとても嬉しくなった。それと同時に最初に抱いていた残念という気持ちも消えていった。
わたしは皇太子様に言ってほしかったんだと思う。
可愛いでも綺麗でも似合っているでもいい。ただ皇太子様の言葉でわたしの変わった姿を褒めてほしかった。
たとえそれが仮初の本当の自分じゃないとしても、褒めてくれたことがとても嬉しい。
「ありがとう、ございます。とても嬉しいです」
わたしは嬉しさと悲しさで少し泣きそうになったけど、素直に今の気持ちを伝えた。
「だけど、オレはいつものリエリアの方が好きだな」
「いつもの、わたし……?」
皇太子様が言ったいつものわたしの方が好きという言葉が、わたしの心の中にある何かを壊そうとしているのが分かる。
それはいい意味で壊れそうなのだけど、壊れちゃいけない気がしてわたしは必死に止めた。
「ああ、いつものリエリアだ。あの綺麗で誰もを魅了する黒い髪に、誰もを惹き込む黒い瞳、誰もが美しいと思う顔。勿論見た目だけじゃなく、中身も好きだ。まあそんな風に言えるほど中身を知っているわけではないんだがな。でもその他の全ても含めたリエリアが、オレは好きなんだ」
「……やっぱり、皇太子様は格好いいですね」
「そうか? それは良かった。リエリアの前では少しでも魅力的な男でいたいと思っているからな」
素直に自分の想いを伝えられるところ。
わたしではできない、そんなところが一番魅力的。
「皇太子様、お疲れでしょ? 眠っていていいですよ」
「だが、それじゃあリエリアとのデートがーー」
「いいんですよ。だってわたしは皇太子様とデートできることが、今凄く楽しいんですから。それだけで満足です」
「ああ、そうか。ならお言葉に甘えさせてもらう」
「はい」
そうしてわたしと皇太子様はまた静かになった。
でもこの静かさは馬車の中での気まずい静かさと違い、とても心地の良い静かさだ。
わたし達が静かになっていると皇太子様はすぐに眠ってしまった。
皇太子様の寝顔を見ると、それはとても可愛らしい。
いつもは格好いいんだけど、寝顔は安心してくれているからか顔が緩んでいて可愛い。
「皇太子様のこと、好きになってもいいんでしょうか?」
「…………」
皇太子様からの返事はない。
寝ているのだから当たり前だけど、こんな時でしか想いを伝えることのできないわたしは情けない。
いつかまた会えた時はこの想いを伝えたいな。
わたしも皇太子様の寝顔を見たら眠くなってしまい、いつの間にかわたしまで寝てしまった。




