11.想いを伝えたことはありますか?
皇太子様が去った後、シーリルが部屋に入ってきた。
シーリルはわたしの姿を見てホッとした表情を見せてくる。
そんなに皇太子様と一緒にいることが不安だったのかな。
皇太子様は優しくてとても良い人だけど、なんでそこまで警戒するのだろう。
まあ理由は分からなくても、シーリルはわたしのことを思って警戒しているに違いない。
「リエリアお嬢様、皇太子様と何があったのでしょう?」
「どうして?」
「皇太子様が少しですが落ち込んでいるように見えたので。それに、リエリアお嬢様は何か隠しているようですし」
皇太子様の表情とわたしの隠し事で何かがあったのだと一瞬で見抜くシーリル。
多分わたしが隠し事をシーリルが見抜けたのは、昔の癖だと思う。
無意識にどんなことをしているかは教えてもらえないけど、ある癖があるということだけ聞いたことがあるから。
「パーティーのことを断ったのと、明日デートすることになったの」
「それだけですか?」
「シーリルには隠せないみたいだね。皇太子様にもうここへ来ないでほしいって伝えたの。その代わりにデートに行くことになった。ただそれだけだよ」
隠していたことを全て伝えた。要点だけをまとめて。
「いいんですか? 皇太子様のこと、気になっているように見えていましたが」
「気になって、か。ある意味間違いではないけど、それも明日で終わる関係だから」
気になってはいた。
もしかして信頼できる信用できる信じれる相手なんじゃないかって。
それは合っていたのかも間違っていたのかも分からない。だけど一緒にいたらお互いがお互いを駄目にしていってしまう。そんな気がした。
「そう、ですか。なら明日に向けて栄養のある食事と十分な睡眠を取る必要がありますね。晩御飯を作ってきます」
「ありがと」
わたしのお礼を聞いたシーリルは料理をするためにキッチンへと行った。
わたしはベッドに寝転がり、天井をぼーっと眺める。
ふと外を見るともう夜になっていた。
立ち上がって窓を開けて外を見る。下を見ても誰もいない。それが当たり前なんだ。空を見ても星はほとんど見えず、見えるのは半分以上が雲に覆われた月だけだった。
これで良かった、のかな。
今は辛くても、いつかはこの選択がとても良いものだったと思える。そんな日が来てくれるといいんだけど。
いつしか月は全て雲に覆われ、暗い夜になってしまった。
「リエリアお嬢様、食事ができましたよ」
そう言って食事を持ってくるシーリル。わたしはテーブルへと移動し静かに椅子へと座った。
シーリルの温かいご飯を食べる。
そして寝る支度をし、すぐにベッドで眠りについた。
「リエリアお嬢様。また会えることを願っています」
この時のわたしは気づいていなかった。
次シーリルに会えるかはわからないという事実に。
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「ラディウス様、元気がないみたいですね」
「そんなこと……。いや、あるな」
元気もなくなるに決まっている。
あんなことを言われてしまえば、あんな決意を見せられてしまえば、そんな顔をされたら……。
会えないのは辛い。
あんな決意を見せられれば引かざるを得ない。
だけどあの顔だけは忘れられない。
オレに決意を言った時の顔は、とても辛そうだった。
そんな顔をさせてしまった自分が情けなかった。
オレがデートをしたいと言ったのは最後のチャンスが欲しかったのと、最後に見る表情が辛く悲しく今にも泣きそうな顔なのが嫌だった。
せめて別れは笑顔を見たい。
以前のような別れは絶対に、もう二度としないと決めたのだから。
「……」
「はぁ、一旦帰りましょうか」
「自分はリルを待つことにします。リルが王女様に会える最後の機会になると思いますから。ギアル、ラディウス殿下を頼む」
「ああ、任せておけ」
オレは頭の中で考えが全く纏まらず、そのまま離宮を去った。
どうすればよかったのか、なんてことをずっと考えてしまう。心のどこかではどうしてもこの結果になっただろうと思うが、それを受け入れることができなかった。
本当に格好がつかないな。
全てを受け入れ受け止める、なんて言ったくせに断られもう二度と会えないということを受け入れることができていない。
明日のデートで思いを変えてくれないか、なんて思ってしまったことが恥ずかしい。
愛するならば受け入れ受け止める必要があるのに、愛ゆえにそれができない。
受け入れ受け止めなければならないリエリアの思いを拒否してしまう。それはリエリアの決意を踏み躙ることだ。
自分の想いかリエリアの思いか。
どちらかを選んだとしてもオレは後悔する。かといってどちらとも選ぶなんてことはできない。
最善は……オレが諦めることだ。
デートをするという情けなく格好の悪い願いを聞き入れてもらえたんだ。
それを本当にただの思い出にして、リエリアの思いを決意を尊重してあげよう。
「ラディウス様、着きましたよ」
「ああ、そうだな」
「少し部屋で待っていてください。紅茶を持ってきますから」
そう言ってギアルはオレを部屋に送り届けると、部屋から出ていってしまった。
部屋は明るい、はずなのにいつもより暗く感じてしまう。
心が沈んでいるから、そんなふうに感じてしまっているのかもしれない。
何もすることがなくて、やる気も起きなくて、オレは夜空を眺めた。
今の時間はリエリアと話していたのに。昨日までは楽しかったと感じていたのに。
夜空を眺めても月が少し見えるだけ。
その月を見てまだ希望があるんじゃないかと考えてしまったが、雲が月を隠したことでその希望もないんだなと感じた。
「ラディウス様、酷い顔してますよ」
「離宮にいた時からか?」
「いいえ、離宮にいた時は普通の顔を頑張って作れていましたよ。ここまでの道中よりここに着いてから顔が酷くなっています。私が見たラディウス様の顔の中で一番酷いです」
「そこまでか……」
「元気もないようですね」
ギアルはオレの今の顔を本気で酷いと思っているようだ。
それがギアルの声と顔からよく伝わってくる。
「話を聞いてもよろしいですか?」
「聞いてくれるとありがたい」
オレは人に話したら整理がつくかもしれないと考えてギアルにリエリアとの会話の内容を話した。
話していくうちに自分を多少だが客観視できてきたけれど、確信できたのは自分の情けなさだけでその他は分からなかった。
「私はラディウス様のことを見損ないました。女性を泣かせるのはいつものことですが、諦め手を伸ばすことすらしない。そんなラディウス様を見るのは初めてです。だからこそ言わせていただきます。そんなラディウス様とリエリア王女は釣り合いません。ラディウス様がその調子なら明日のデートでも笑ってもらうことはできないでしょう」
「ッ!」
オレは何も言い返すことができなかった。
普通ならイラつくところなのだろうが、ギアルの言ったことは全てが事実だ。だからイラつくどころか納得し黙ることしかできない。
多分明日のデートもギアルの言う通りになる可能性が高い。
「そもそも、真剣に想いを伝えたことはありますか?」
「伝えてきたさ」
「それは本気で本当の自分の心の底からの想いを言葉にして伝えてきましたか?」
「……分からない。が、ないかもしれない」
「一度でいいんです。自分の想いを本音を伝える。結果がどうであれ自分の想いを整理することができるはずですよ」
気持ちは伝えてきたと思う。だけどそれは本当に伝わっていたのか。そう問われるとはっきりとした答えができない。
ならばギアルの言う通りにしてみよう。
「それに情けなくていいんですよ。男はそういうものなんですから」
「そうだな……。それにしても実体験を聞くと頼りになる」
「まあ、そういうことにしておきます」
「ギアル、明日の朝にリィナをリエリアのところに行かせろ。髪の色を変えることも一緒に伝えておいてくれ」
「分かりました。では、おやすみなさい、ラディウス様」
眠りの挨拶をしてギアルは部屋から出ていった。
ギアルには助けられてばかりだ。
ありがとう。
いつかはその言葉を言おう。




