第二十六話「海の怪物」
更新が不定期で申し訳ありません。
評価、ブックマーク有難う御座います。
なんか昨日一日のPVが995PVも伸びててビックリ…
読んで下さった方々に感謝です。 有難う御座います。
本当は挿絵も描きたいんですが、なかなか時間が取れず挿絵が増えない…
頑張りますので今後ともよろしくお願い致します。
◆
それから僕達は、露店が建ち並ぶエリアを抜けて港までやってきた。
港には何隻ものガレオン船が停泊し、それぞれ荷捌きで人が行きかい、大量の積み荷の木箱が積みあがっている。
そして、どこまでも続く海は、太陽の光を反射してキラキラと輝き、磯の香りが広がる。
「わー きれー」
アイエル様は何処までもつづく海のその景色に感嘆の声をあげる。
僕はそんなアイエル様を優しく見守る。
アイエル様は振り返って僕を見ると、指をさして楽しそうに質問する。
「ねーねーロゼ! あの高い建物は何?」
アイエル様が指さしたのは港の近くにある灯台。 僕はアイエル様に説明する。
「あれは灯台ですね。 夜に船が位置を見失わない様に、明かり灯す為の建物です」
「おもしろい建物だねっ」
「近くまで行ってみますか?」
「うん!」
アイエル様は元気に返事をして、灯台のある場所へと軽快に歩き出す。 僕もそれに続き、港を物珍しそうに見まわしながら歩むアイエル様を見守った。
灯台の袂に到着した僕達は、白い煉瓦を積み上げて作られた巨大な灯台を見上げた。
「近くでみるとおっきいね…」
「ええ、とても絵になりますね…」
僕達はそれぞれに巨大な灯台を見上げ、感想を呟く。
「ねぇ、ロゼ。 せっかくだから沖の方まで行ってみない?
ここなら人も居ないし、空飛んでもバレないと思う… どうかな?」
「沖へ… ですか?」
「うん。 私、夜の海はロゼの秘密の特訓でよく行ったけど、お昼間の海って初めてだから見てみたいの… ダメ… かな?」
上目遣いで確認してくるアイエル様。
仕方ない… 索敵しておけば危険は少ないだろう。 空の上だしね…
「いえ、アイエル様がそうおっしゃるなら、僕は最善を尽くすまでですよ」
僕はそう言って微笑みかけ、ついでに索敵魔術を使い周囲の状況を確認する。
「今のところ近くに人の気配はないので、浮遊魔術を使っても大丈夫でしょう」
「ほんと? やったっ! ありがとうロゼ!」
嬉しそうにお礼を言うと、アイエル様は浮遊魔術を発動して一気に上空へと舞い上がった。
思わず見上げてしまって、スカートの中が見えたのは秘密だ。 今後、淑女の嗜みとして、スカートで飛んだらダメだと教えよう。
僕はそんな事を思いながらアイエル様の後を追って、空へと舞い上がった。
◆
レザリアの港から三十キロほど離れた沖合い。 そこにウィリアム侯爵家の紋章を掲げた一隻の貴族船が、レザリアを目指して航行していた。
乗船しているのは、ウィリアム家の嫡男のクライス・フォン・ウィリアムと、二歳下のニーナ・フォン・ウィリアム。 それに護衛の兵が十名と魔術師三名。
そして使用人としてメイドと執事が数名と、船員がその船に乗船している。
クライスとニーナは船のデッキで椅子に腰かけ、ティータイムを楽しんでいた。
「お兄様、もうすぐレザリアですわね」
そう言いながら少女は優雅にお茶を口に運ぶ。
「ああ、そうだな。 ニーナも学園に入学したら暫くは遊びに来れなくなるからな。 今の内にしっかりと楽しんでおくんだぞ」
「分かってますわ、お兄様。 私の我儘を聞いてもらえて嬉しいです」
「ハハッ、可愛い妹の頼みだからな。 兄として当然の事をしたまでさ」
嬉しそうに笑うニーナに、クライスは得意げに答える。
潮風に吹かれ、静かな一時を満喫する。 メイドはお茶を煎れ直し、空いた皿を下げる。
そんな二人の乗る船の行く先に、突如として巨大な水しぶきが上がり、巨大なイカの魔物が姿を現した。
――ドバシャーン!――
「なっ! なんだあれは!」
「ばっ… 化け物だっ!」
突然姿を現した魔物に、船の乗員含め、皆が慌てた。
イカの魔物は海面から船を見下ろすと、その触手を使ってあっと言う間に船を捕縛した。
身動きが取れなくなった船は、なす術なく、されるがまま巨大イカの元へと引き寄せられる。
「「「きゃあああ!!」」」
揺れる船体と軋む音に、ニーナとメイド達が悲鳴をあげた。
護衛の兵士達は一斉に剣を抜き放ち、船体に絡み付いたイカの触手に斬りかかる。
「クライス様! ニーナお嬢様! 我々の後ろにお下がり下さい!」
護衛達の隊長は、絶望的な状況の中でも、必死で自分の後ろに二人を庇うと、他の部下達に指示を飛ばす。
「魔術師は即刻詠唱に入り、魔物本体を攻撃! 魔術の仕えない者は魔物の触手を攻撃し、船体から引き剥がせ!」
「「「はっ」」」
部下達は突然の襲撃に最初こそ混乱したが、すぐさま体勢立て直し、それぞれの役割を果たそうと行動を開始する。 魔術師は詠唱を始め、各々得意とする魔術で魔物へと攻撃を仕掛ける。
兵士達は船体に絡みついた触手を必死に剣で攻撃し、引き剥がしにかかった。
「くっそっ! このイカ固すぎる!」
だが、巨大なイカの魔物には、その攻撃はあまりにも貧弱なものでしかなかった。
船体に絡みついた触手を攻撃していた兵士達は、その触手の攻撃によって一人、また一人と海に弾き飛ばされ、その数を減らして行く。
それを見かねたクライスは、自分達を護っていた護衛隊長に進言する。
「私も加勢します!」
そんな劣勢の中、クライスは魔術を詠唱し、攻撃に参加した。
「助かります、クライス様」
しかし、たかが学院の生徒。 その攻撃は護衛の魔術師に比べれば明らかに劣っていた。 護衛の魔術師でも刃が立たない状況で、たかが学生の魔術が通用するはずも無かった。
絶望的な状況に、船に乗員している皆が死を覚悟した。
そして、揺れる船体に体勢を崩したニーナが、海へと投げ出された。
「きゃっ!」
「ニーナ!」
クライスは必死に手を伸ばすも、その手は空をきり、ニーナは海へと落下する。
――バシャンッ―-
海に落下したニーナは必死にもがき、なんとか海面へと浮かびあがるが、泳ぎ方の知らない貴族の娘では、ただ必死にもがくことしかできない。 溺れて力尽きるのも時間の問題だった。
「誰かっ! ニーナを助けてくれ!」
クライスは慌てて必死に叫ぶ。 ここで助けられるのは、泳ぎの得意な船乗りを置いて他にいない。
しかし、助けた所で船そのものが沈没の窮地に立たされている。 そんな状況で助けに行く船乗りは居なかった。
「なんで誰も助けてくれないんだ!」
クライスは叫ぶが、皆怪物に気を取られてそれどころではない。 護衛の兵士は必死に戦い、魔術師は必死に応戦している。 クライスは自分が飛び込んで助けるしかない。 そう思って行動しようとしたところ、護衛隊長に腕を掴まれ、それを阻止された。
「なんでっ!」
「クライス様まで溺れたらそれこそ二次災害です! ここは我慢してください!」
護衛隊長に諭されるも、納得できないクライス。
そんな時、どこからともなく少女の声がした。
「大丈夫… だよ」
そう言いながら静かに船の穂先へと、空から舞い降りた存在が居た。
そう、舞い降りたのだ。
皆が絶望する中、少女は銀色の髪を風に靡かせ、動じる事無く皆と魔物の間に降り立つ。
その銀色の髪は、揺れる度に虹色に色が変わり、神秘的なオーラを纏っている。
ニーナとさほど変わらない歳の少女にも拘わらず、その美しき後ろ姿に、皆の視線は戦闘中だと言う事を忘れ、思わず息を呑んで見とれていた。
まるで時が止まったかの様に錯覚する程、その少女の登場に皆が魔物の存在を忘れていた。
「アイエル様!」
そんな空気を変えたのは、少年の少女を呼ぶ声だった。
少女は皆の注目を集める中、手を魔物に翳す。 次の瞬間、あたり一帯が魔物や船体を含め、全てが一瞬にして氷着いた。
一瞬の出来事だった。
そのあまりにも神秘的な光景に、目を見開いて少女を見つめる。
氷の欠片がキラキラと辺りに舞い散り、その魔術の威力の高さを物語っている。
「みんな、もう大丈夫だよ」
その少女は振り返ると、そう言って皆の様子を覗った。
振り返った少女は、あどけなさの中に美しさを秘め、その瞳は左右で色が違い、吸い込まれそうな程奇麗な瞳をしていた。
危機的状況に現れたその神秘的な少女を、女神だと勘違いしても仕方のない事だろう。 皆はそれほど少女に見とれていた。
「女神… 様…」
そんなクライスの呟きを、誰も否定しようとは思わなかった。




