18話(防衛?)
18話(防衛?)
机の上に地図が広げられた。
「大和、近江今津の陸自基地にはどんな兵器が残ってる?」
「16式機動戦闘車がある。けど、石油がなくて使えんかった」
「数、石油を揃えて動かしてやってくれ」
「わかった」
学が声を張る。
「こっちの死者は絶対に出さん。追い出せばいい。歩兵は前に出すな。14時に作戦開始や。始めるぞ」
「オー!」
道路の小石が微かに振動し始めた。
「ブーン」という鈍い重低音を響かせ、16式機動戦闘車が町へと侵入していく。
琵琶湖と街を一望できる山頂では、花穗が双眼鏡を握りしめていた。
手元のトランシーバーがパチリと鳴る。
『敵は道の駅に集まってる』
学は信太の腕時計を確認し、「フーッ」と深く息を吐いた。線路の土手に身を伏せ、トランシーバーを握り直す。
「作戦開始」
告げる学の左手は、細かくピクついていた。
大地が叫ぶ。
「ミサイル、撃てーー!」
自衛隊のトラックの発射筒が、猛烈な噴煙を上げる。「シューン」と空を切り裂く轟音を残し、放たれたミサイルは放物線を描いて町へと降り注いだ。
「当たったか!?」
「ずれてる!」
あちこちの民家から黒煙が立ち上る。
「あかん、町が……」
誰かの呟きは爆音にかき消された。
道の駅にいたスカーフを巻いた男たちは、慌てて車に駆け込む。
「なんだよこれ、襲撃か!?」
「全員、一旦集まれ!」
「状況を報告しろ!」
大和の野太い声が機動戦闘車の中で響き渡った。
「戦闘車隊、前進!」
文字通り鉄の怪物たちがぞろぞろと姿を現す。
「バーーン!」と主砲が火を噴き、巨体が反動で一瞬後ろに後退した。鉄の塊が撃ち出され、町に衝撃波が走る。
砲弾は逸れて公園に着弾した。
「撤退だ、撤退するぞ!」
「早く車を出せ!」
「パーン!」
砲撃が命中し、街路樹がだるま落としのように折れ、倒れ込む。スカーフの男たちは冷や汗を垂らしながら、一目散に逃げ出していく。
のどかだった田んぼには、所々に大きな黒い着弾穴が空いている。
学の耳に、トランシーバーの電子音が響いた。
『敵、高島市の入り口まで退いてる』
大和の声だった。
「高島市を出ても追え。堅田まで追い回せ。命中させても構わん」
『了解』
町にはごうごうと黒い煙が立ち込めていた。子供たちは離れた古賀の村から燃える街を眺めている。学は荒れた町を歩きながら、矢継ぎ早に指示を出した。
「消火は後回しでいい。銃を離すな、掃討するぞ」
中学生ほどの男の子も、自分の体格には見合わない小銃を必死に握りしめている。一行は町を南下し、警戒を続けながら練り歩いた。
やがて、大地の声が通信機から響く。
『勝野町、掃討完了』
「全員聞け! 高島市の掃討は完了した。消火活動にかかれ!」
学はバイクに跨がり、高島市の入り口へと向かった。
琵琶湖沿いを走るバイパスの、白髭神社の前に機動戦闘車がずらりと並んでいる。車から大和が降りてきた。
「学、一旦ここに、防衛線を張った」
「わかった。夜間の見張りも頼む」
学はトランシーバーを掲げた。
「全員注目。作戦終了。繰り返す、作戦終了。――大和、お疲れ様。飯の用意をさせてある」
大和は何も言わず、ただ小さく頷いて持ち場へと戻っていった。
大鍋を積んだ軽トラックが何台も神社の境内に滑り込んでくる。理奈と花穗が三角巾を被っておにぎりを配り始めると、すぐに長蛇の列ができた。
「怪我がある人は私に言ってくださいね」
そう声をかけながら、理奈が今津の男たちに温かいみそ汁を手渡していく。
一段落し、学も列に並んだ。自分の番が近づく。花穗の後ろに理奈の姿が見えた。
「花穗、大地はどうしてる?」
「街で消火を指揮してるよ」
花穗がおにぎりを渡そうとした瞬間、理奈がするりと割って入って、学の手に直接おにぎりを握らせた。
「理奈、ありがとうな」
「学こそ。本当にお疲れ様」
花穗はそんな二人を見てクスリと笑い、学を呼び止めた。
「みんな疲れてるやろうし、鶏肉も準備してるけど、どうする?」
学は一瞬考え込んだ。右手に着けた信太の腕時計が視線に入った。
(もう、こういうのも俺がやらな、か……)
「わかった」
そう言ってメガホンをひったくる。
「全員注目ーー!」
境内に大音量の電子音が響き渡る。
「みんな、お疲れ様! 古賀も今津もよくやった。今日は鶏肉が出るから、好きなだけ食べてくれ!」
「うぉぉおーー!」
今津の男たちが一斉に拳を突き上げた。
「鶏肉なんて1ヶ月ぶりやぞ!」
彼らの無邪気な表情を見て、学は肩の力が抜けた。
湖のほとりに佇む神社は、夜中まで明かりが消えなかった。満月が、琵琶湖の静かな水面に浮かぶ大鳥居を静かに照らしていた。
古賀に戻った学は、数豊と大地とともに状況を整理した。三人は地図や資料を片手に、机にかじりついている。
数豊が大きく伸びをした。
「学、いい仲間ができたな」
「そうやな……」
学は、自分の右手に着けられた信太の腕時計を見つめた。
(日本を元に戻す……か)
そして、手が淡い赤色になるほどに握り続けた。
それから何日かが過ぎた。
田んぼの稲は大きな粒をつけ、黄金色に輝いている。今津と古賀のコミュニティは正式に合流した。




