表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくし、魔法少女になります! ~伯爵令嬢セフィーナは魔法で世界を救いたい~  作者: 犬柳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

6 光と闇

 第三十地区は、王都の中でも比較的住民の少ない地域だ。商店や飲食店もほとんど無いに等しい。

 以前は教会があったが、施設の老朽化によって何年も前に閉鎖されている。


「ここね……」


 プーが奈落獣の気配を感じたのはこのあたりだと言う。

 閉鎖した教会の跡。まだ建物自体は残っているが、外の壁面には蔦が鬱蒼と茂っている。

 月明りに照らされた廃墟は、どこか不気味さを漂わせていた。


「うん、間違いない。このにおい……近くにいるはずだよ」


 プーがそう告げた瞬間、空気がどろりと濁った。


(来た……!)


 セフィーナは即座にあたりをぐるりと見回す。

 月明りに照らされた廃墟の影。そこに赤い光が二つ出現した。


 先手必勝。前回のように遅れを取ってはいけない。

 セフィーナはペンダントを握ると、力いっぱい魔力を込めた。


「光は内より出でて、刃となれ!」


 ペンダントから放たれた光は刃の形となり、勢いよく放出される。奈落獣を目がけてまっすぐ飛んで行った刃は、その身を貫いた。

 ――はず、だった。


「え……?」


 確かに貫いたと思った。

 けれど、手ごたえがない。目の前には何も居ない。

 奈落獣は、忽然と姿を消していた。


「どうして? 一体どこに……」

「セフィーナ、後ろ!」


 肩に乗ったプーが大声で叫ぶ。

 その言葉の意味を脳が察知するよりも先に、反射的にセフィーナは宙へ高く飛び跳ねた。


 身体強化魔法が付与されたセフィーナの身体は、高く高く飛び上がる。

 空中でひらりと身体を回転させながら眼下を見下ろすと、先ほど消えたはずの奈落獣が再び姿を現していた。


「どこから現れたの!?」


 奈落獣は牙を剥き出しにし、グルル……と威嚇するように唸っていた。

 あと一歩回避が遅れていたら、おそらく攻撃を直に受けていただろう。


「もう一度……! 光は内より出でて、無数の刃となれ!」


 セフィーナは地面に着地すると同時に、再びペンダントに魔力を込めた。

 今度は大量の光の刃を創出し、四方八方へ撃ち放った。


 しかし、敵は光の刃が突き刺さるよりも速く、闇に溶けるようにして姿を消した。

 つい先ほどまで奈落獣の居た場所には、月明りに照らされた廃墟の影しか無い。

 狼のような身体も赤い目も、どこにも見当たらなかった。


「む!? また消えたよ!?」

「今度は一体どこに……!?」


 セフィーナは周囲を見回す。

 視界の端、ほんの少し揺れる影があった。


「……っ!」


 奈落獣は、セフィーナの傍らに生えた木の影から姿を現す。

 赤い目がこちらを捉えた瞬間、再び襲い掛かってきた。


「今度はこっち!?」


 咄嗟に地面を蹴り、後方へ退避する。

 回避姿勢のまま再び奈落獣へ攻撃魔法を撃つ。

 しかし奈落獣は攻撃が当たるよりも速く、またどこかへ消え去ってしまう。


「そんな……」


 消える。また現れる。攻撃を放っても、当たる前にまた消えてしまう。


(違う……ただ消えてるんじゃない)


 出現と消失を繰り返す奈落獣を、セフィーナは注意深く観察する。

 消える、また現れる。消える……影の中へ。


「もしかして」


 セフィーナの視線は、地面の影を追った。


「何か分かったの? セフィーナ」

「影の中を移動している……?」


 セフィーナはハッと息を飲んだ。

 地面に落ちた影。

 月明かりに照らされ、建物や木々の影が色濃く落ちている。

 奈落獣はその影のある場所で消失し、また別の影から出現している。


(つまり……影がある限り、奈落獣はどこからでも現れるって事……?)


 セフィーナは絶望的な気持ちになった。

 ただ攻撃するだけでは勝てない。

 敵の出現箇所を的確に予測し、影の中に消えるよりも早く攻撃を当てなければいけない。

 しかもその間も相手は、死角からセフィーナを襲おうと狙ってくるのだ。


「はぁ……はぁ……ッ」


 鼓動が逸る。

 呼吸が浅くなる。

 視界に入るもの全てが敵に見えた。


(どうすれば勝てるの……?)


 影がある限り、敵は逃げ続ける。

 追い詰められる。周りは影だらけだ。


「むぅっ……!あいつの出現する場所が分かれば……」


 焦り混じりの声でプーが呟いた。その時、ふと。


「あ……」


 セフィーナの脳裏を、白と黒の盤面が過ぎった。


『む? お馬さんの駒は前にしか進めないんだっけ?』

『そうよ』

『じゃあこのマスにボクの駒を置けば……よし! セフィーナの駒が動かせなくなったよ! ボクの勝ちだぁ』


「……そうだわ、『光と闇の国』よ!」

「え? なになに、どうしたの? セフィーナ」

「プー! この付近の地図を出して。近くに広い空き地が無いか探してほしいの」

「……! わかった!」


 言うが早いか、プーは長いしっぽでくるりと円を描いた。

 先ほどのように、空中に地図が投影される。


「このまま東にまっすぐ進んで! 突き当たりに大きな空き地があるよ」

「分かったわ!」


 セフィーナは瞬時に駆け出した。プーの指し示す方角へひた走る。

 奈落獣の姿は見えない。けれどどろりと濁った重い空気が、その存在を示している。きっと近くで息を潜めているのだろう。


(そうよ、敵が出現するのを待つ必要なんてない)


 第三十地区は住民の少ない地域だ。家屋も少なく遊閑地となっている場所が多い。

 セフィーナが目指している空き地もその一つだった。


「あったわ!」


 辿り着いたのは、ただの野原のような空き地だ。

 辺りに建物は無く、高い木々も無い。手入れされていない土地ゆえに雑草は生えているが、土地が痩せているせいか、萎れた草がまばらに生えている程度だった。


 あたりを見回す。奈落獣の姿は無い。

 けれどそのうちきっとやって来る。

 ……いや。


(来るんじゃない。来させるのよ)


 セフィーナは胸元のペンダントを握り、ありったけの魔力を込めた。


「光は内より出でて、闇を照らせ!」


 ふわり。

 セフィーナの手のひらの上に、光球が現れる。


「照らせ……照らせ……!光よ、光よ光よ光よ、闇を照らせ……!」


 セフィーナは叫んだ。身体の内にある精いっぱいの魔力を放出させながら。

 手のひらの上の光球は、セフィーナが魔力を込めるたびに膨れ上がる。

 ボールほどの大きさから、両手で抱えきれないほどの大きさに。やがてセフィーナの身長よりも遥かに大きく、更に二倍、四倍、十倍と膨張する。

 大きく膨れ上がった光球は、月明りよりも遥かに眩い。まるで舞台役者を照らすスポットライトのようにも見えた。


 セフィーナが右手を頭上に掲げる。光球も真上にふわりと浮かび上がった。

 宙に浮かぶ光の球は、野原を明るく覆い尽くす。


 光を遮る物は何もない。――ただ一つを除いて。


(……さあ、来なさい。あなたの出口は『ここ』しか無いわよ)


 セフィーナは足元に視線を落とす。

 そこには、唯一の影があった。


(チャンスは一瞬。この至近距離で攻撃を外したら、きっと無事ではいられない)


 セフィーナは足元の影から一瞬たりとも視線を外さない。

 まばたきすらもしない。全ての知覚を足元の影に傾ける。

 冷や汗が首筋を伝う。喉がごくりと鳴る。


 そして、影が僅かに揺れた。


(……来た!)


 足元の影の中、二つの赤い光が出現する。

 それを視覚で捉えるよりも速く、セフィーナは叫んだ。


「光よ……! 貫け!」


 セフィーナの手から光の槍が放たれる。

 槍は足元の影にまっすぐ突き刺さった。


「ギャオオオオッ!」


 影が――いや、影の中から現れた奈落獣が咆哮する。

 光の槍は、奈落獣の頭を貫通していた。

 獣はその場で悶絶するように転げ回る。


「今度こそ……消えなさい!」


 セフィーナは更にもう一本光の槍を生成し、悶え苦しむ奈落獣めがけて一直線に投射した。

 槍は胸元に深く突き刺さる。今度こそ奈落獣は動きを止めた。


「グォ……ォォ……」


 咆哮が徐々に小さくなる。

 地面に伏した身体が完全に動きを止めると同時に、奈落獣の身体はボロボロと崩れていった。


 やがて、あたりに静寂が戻った。


「……はぁ……はぁ……やったわ」


 セフィーナはその場にへたり込む。流石に魔力を使いすぎたようだ。


「すごい……! すごいよセフィーナ! あんなに厄介な奈落獣を倒すなんて」

「ふふっ……プーのおかげよ」

「ボクのおかげ?」


 戦闘中に脳裏に浮かび上がった『光と闇の国』の記憶。

 勘の良いプーは、少しルールを教えただけですぐにこのゲームのコツを掴んだのだ。

 『自らの駒を動かす事によって、敵の駒の動きを誘導する』というコツを。


「さあ、夜が明ける前に帰りましょう。屋敷の誰かに見つかったら大変だわ」

「そうだね! そーっと、そーっとお家に入るんだよ!」


 笑い合う二人を、月明りが照らしていた。





「……嘘だろう?」

「夢……じゃないよな?」


 第三十地区。二人の魔術師が立ち尽くしていた。

 最近このあたりで魔獣が出没したとの通報があり、周辺の警備に当たっていた。

 すると突然、夜だというのに空が不自然に明るくなったのだ。

 

 異常事態か?と、光が発する元を探した二人は、東側のとある遊閑地にたどり着いた。

 そこで彼らが見た物は、目を疑うような光景だった。


「幻としか思えないが、俺たちははっきり見たんだ。とにかく上に報告しよう」

「そうだな。まあ、王都に出るはずのない魔獣が出現したんだ。もう何が起こってもおかしくないよな」

「それにしてもまさか……」


 魔術師の二人は互いの顔を見合わせて、大きなため息を吐いた。


「魔法を使う少女がいるなんてな」


 それは、この世界の常識を覆す言葉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ