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わたくし、魔法少女になります! ~伯爵令嬢セフィーナは魔法で世界を救いたい~  作者: 犬柳


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5 前触れ

「ランドール隊長、報告です」


 王立魔術師団、第五部隊。王都の防衛や警備を担う保安部隊だ。

 アダム・ランドールは第五部隊の部隊長を任されている。


「手短に頼む」

「はっ。王都第三十地区の教会跡付近で、正体不明の魔獣が出現したとの通報がありました」


 警備兵から上げられた報告に、他の部隊員達が騒めいた。


「馬鹿な……王都に魔獣だと?」

「有り得ないでしょう。瘴気の濃い場所でもないのに」


 通常、魔獣は瘴気の濃い森林や山岳地帯で発生すると言われている。

 王都で存在が確認された例は一度も無い。


「……続けろ」


 騒めく部隊員を尻目に、アダムは表情一つ変えずに言った。

 警備兵は緊張した面持ちのまま報告を続ける。


「昨晩未明、第三十地区の住民より、赤い眼を持った狼のような魔獣が居たとの通報がありました。魔獣は教会跡付近をしばらくうろついた後、いつの間にか消え去っていたとの事です」

「怪我人は?」

「居りません。念のため、周辺の住人には教会跡に近づかないよう呼びかけてあります」

「分かった」


 アダムはすぐに立ち上がると、声を張り上げた。


「直ちに警備を増員する。第三十地区を特別警戒地域とし、二級以上の魔術師をリーダーとして配置。三級以下十四名で警備シフトを構成する」

「……は、はッ!」

「警備は必ず二人一組で行う事。異常が発生した場合は即時報告。いいな?」

「はっ!」

「人命最優先だ。民間人が襲撃を受けた場合は救出を第一に考えろ。緊急時は特殊攻撃用の魔道具を使用しても構わない。使用申請は後回しで構わん、私が責任を取る」

「はっ! 了解いたしました!」


 矢継ぎ早に飛んでくる指示に、第五部隊の部隊員たちは一瞬呆気に取られたような顔をした。

 しかし彼らとて優秀な王立魔術師団の一員だ。すぐに表情を切り替えると、アダムの指示に従って行動を開始した。




 ――王立魔術師団。

 それはこの国の核となる組織。

 この世界において、政治、軍事、医療、学問、文化――あらゆるものが、魔術と深く繋がっている。

 そして王立魔術師団はそれらの全てに関わっている、この国の屋台骨であった。


 アダム・ランドールは王立魔術師団に所属する一級魔術師だ。


 一級魔術師になれる者は、王立魔術師団でもほんの一握りである。

 ランドール侯爵家は代々一級魔術師を輩出している優秀な家系だ。

 アダムは昨年、弱冠二十歳で一級魔術師となった。歴代最年少の一級魔術師とあって、ランドール家の中でも特に秀でた存在として一目置かれている。


 その優秀さがゆえに、アダムは王都の防衛責任者という重要なポジションを任されたのだ。

 王都に魔獣が発生したという異常事態も、迅速に治めなければならない。第五部隊の部隊長として。一級魔術師として。ランドール家の者として。


「……王都に魔獣、か。通常では考えられない事だが……だからこそ無視は出来ない」


 アダムは警備プランを組み立てながらも、頭の片隅で思考する。

 これは何かの前触れに過ぎないのではないか、と。






「む? お馬さんの駒は前にしか進めないんだっけ?」

「そうよ」

「じゃあこのマスにボクの駒を置けば……よし! セフィーナの駒が動かせなくなったよ! ボクの勝ちだぁ」

「凄いわプー、もうルールを覚えたのね」


 とある晩。セフィーナとプーの二人はボードゲームに興じていた。

 『光と闇の国』というゲームだ。


 プレイヤーは光と闇の陣営に分かれて戦う。

 盤面は二色に塗り分けられており、光の陣営は白のマス、闇の陣営は黒のマスにしか駒を動かす事が出来ない。

 駒ごとに動ける範囲が決まっており、相手の『王様』の駒を追い詰めれば勝ちだ。


 このゲームはプーの世界には存在していないらしい。

 しかしセフィーナが簡単にルールを教えただけで、勘の良いプーはすぐにこのゲームのコツを覚えた。


「ボク達の世界にもチェスっていうゲームがあってね……む?」

「どうしたの? プー」


 小さな身体で駒を抱えたまま、プーはくんくんと鼻を鳴らした。


「奈落獣だ。遠くの方で気配がするよ」

「……!」


 途端、空気が張り詰める。

 プーはふわりと宙に浮き上がり、長いしっぽで空中に円を描いた。

 円の中から光の粒が浮かび上がる。光の粒は四方八方に広がり、やがてひとつの地図の形となった。


「これは……王都の地図?」


 空中に投影されたのは、王都を描いた地図であった。

 プーは地図のとある部分を指し示す。セフィーナの住む貴族街からは離れた地域、第三十地区と呼ばれているあたりだ。


「この辺りだと思う。ここからは少し遠いね。ボクの嗅覚でもなかなか気付けない訳だ」

「すぐに向かいましょう!」


 セフィーナはためらう事なく、即座にペンダントを握りしめた。


「光は内より出でて、赤き宝玉へ」


 ペンダントに込めた魔力が、光の粒となって放出される。

 光はセフィーナの身体を覆い尽くし、彼女の姿を変化させた。

 そこに現れたのは淡い桃色の髪にチェリーピンクのドレス、この世界にたった一人の魔法少女の姿だ。


「さあ行くよ! 魔法少女セフィーナ、第二戦目だ!」

「ええ!」



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