第十一話〜グロッタの天敵〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『危害を加えない』事を条件に開放された。
フユナがグロッタを散歩に連れていってから約一時間。
「ルノ、ただいまーー!」
思った以上に早く帰ってきたフユナ。そしてその後には意外な人物がいた。
「ただいまーー! ルノちん!」
「またずいぶんと突然来ましたね、カラットさん」
「私にはおかえりって言ってくれないのかい、ルノちん!?」
「はいはい、おかえりなさい」
「グロッタのお散歩してたら偶然会ったんだよ」
なるほど、フユナの説明でとりあえず状況は理解した。
「まぁ、座ってください。ちょうどお昼ご飯作ろうと思ってたんで、よかったらご一緒にどうですか?」
「いいのかい? なんか悪いね。それなら私も何か手伝うよ」
「気にしないでいいですよ。どうせならフユナと遊んであげてください」
「分かった、んじゃお言葉に甘えさせてもらうよ。フユナちゃーーん!」
そう言ってカラットさんはフユナの方へ向かって行った。
「さて、何作ろうかな。魚は朝ご飯で食べたしな。スープは朝の残りでいいとして……メインは」
チラッと外を見ると、グロッタと目が合った。
「なるほど。フェンリルステーキ……」
「じろーー!」
私の呟きが聞こえたのか、フユナがこっちをじっと見つめてきた。
「よし、んじゃハムステーキにしよう。フェンリルステーキは明日でいいや。あとは、パンを用意してと」
お昼を作るとか言っておきながら、結局ハムを焼いただけになっちゃったな。いや、深く考えないでおこう。スープだって朝にちゃんと作ったんだから。私はちゃんと料理をした!
「よし、完成!」
フユナとカラットさんを呼ぼうとしたところ、賑やかな声が聞こえてきたので見に行ってみることに。
「お、なんだフユナちゃん……それってサトリの本じゃないか!」
「そうなの。サトりんはかっこいいんだよ!」
「ぷっ……くくっ! そうかそうか。あいつも愛されてるじゃないか。お、ルノちん」
離れたところで様子を見ていた私に、カラットさんが気付いた。楽しそうにしていてちょっと羨ましかったのは内緒の方向で。
「お昼できましたよ」
「お、そうか。んじゃ行こうか、フユナちゃん」
「うんっ!」
この二人もずいぶん仲良くなったみたいだ。カラットさんは最初からこんな感じだったが。
「お、ハムステーキか! いいね!」
「美味しそーー!」
「腕によりをかけて作りました」
テーブルの上にはパンと、サン菜のスープ。そしてハムステーキが並んでいる。こうして並べてみると、それなりに『料理しました』感が出ててくるから不思議なものだ。
「それじゃ、食べましょう。あ、そこ私の席……!?」
流れるようにフユナの真正面……つまり私の席に座るカラットさん。これじゃフユナのお顔を見ながら食べれないではないか!
「ん。どうかしたか、ルノちん?」
「早く食べよう、ルノ!」
「そ、そうだね……」
仕方ないのでカラットさんの隣に座ることに。フユナさん、こちらに目線ください。
「「「いただきまーす!」」」
私達はそれぞれ舌鼓を打つ。どうやらカラットさんにも満足してもらえたようだ。これでもちゃんと心を込めて焼いたからね!
「ところでカラットさん。今日は突然どうしたんですか?」
「ん? さっきフユナちゃんも言ったけど、たまたまそこで会ってさ。せっかくだからルノちんの顔も見に行こうかと思ってね」
「ふむふむ」
「でも、そもそも私が出掛けてたのは別の用事があってさ」
「ふむ……?」
「少し前に、フェンリルを見つけてさ。いい素材になりそうだったからとりあえず森の洞窟に閉じ込めておいたんだ」
「ふ、ふむ……」
なんかどこかで聞いたような話だな。
「そんで今日再び行ってみたらいなかったんだよ! そう簡単に抜け出せないような強力な拘束をしたってのにさ!」
「ずずず……」
心の動揺を悟られないようにスープを飲む私。とりあえず手を動かす。
「私の超絶強力な拘束を解ける奴なんてそうそういるわけないんだけどなぁ。(じろーー)」
「そうですか? あれくらいなら簡単……いや、どうなんでしょうね? (ニコリ♪)」
「そんで、その帰りに偶然会ったって訳さ。フユナちゃんにね」
「そうだったんですねーー! (二コリン♪)」
「そしてさらにびっくり。フユナちゃんが乗っていたのは……見覚えのあるフェンリル!」
「ひえっ!?」
「ルノちん? あのフェンリルはどうしたのかな?」
「え、あの……買ったんですよ? 村の八百屋で」
「んな訳あるか!? なにとぼけようとしてんだ! いくらルノちんでも許さないぞ! 私の素材! 肉!」
「ぐえっっっ!?」
ものすごいパワーで私の首を絞めるカラットさん。隣に座ったことが仇となったか。
「お、落ち着いてください!? お肉ならあげますから!」
「お、話が早くて助かるよ。それじゃ、遠慮なく!」
「だめだよーー!」
ビュオォォォ!!
「「ひぇぇぇぇ!?」」
フユナの叫びと共に放たれる猛烈な吹雪。私とカラットさんは仲良く真っ白になりました。
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極寒の昼食を終えた私達は、グロッタの小屋の前にやって来た。とりあえずグロッタとの出会いをカラットさんに説明することに。
「つまり、このフェンリルはルノちんと契約を結んで新しい家族になったって事かい?」
「そういう事です」
「ふむ、そういう事なら仕方ないか。今さら肉にしたらフユナちゃんを悲しませることになるし……」
「ありがとう、カラットさん!」
「別にかまわないさ。てか、別に私のモノって訳でもなかったんだしね」
案外、すんなり納得してくれた。
「でも、よく連れてこれたな? フェンリルもそれなりに強力だったろ?」
「それなら心配いりませんよ。カラットさんの封印がありまし、連れて帰るにあたって、私達に危害を加えようとすると氷漬けになる魔法陣を描きましたから」
「またまた! 状況だろ?」
「見てみますか?」
「ビクッ!?」←グロッタ
「えーー!」
「大丈夫だよ、フユナ。今回は私がすぐに解いてあげるから」
「う、うん……」
「そういうことだから、グロッタ。カラットさんを食べていいよ」
「ルノちん!?」
「いえ……対策はしましたが、私やフユナに万が一の事があったらいけないので」
「私だってだめだよ!?」
「冗談です。絶対大丈夫ですよ」
「うむ……信じるぞ、ルノちん」
「ルノ様……ほんとにやるのですか?」
「うん、大丈夫だよ。今回はすぐに助けてあげるから。それにもし食べれちゃってもそれはそれでおっけー」
「わかりました……では」
グロッタがちょっとニヤっとした。もしかしたら『閉じ込められた恨みを晴らす事ができる!』なんて思ってるのかもしれない。
「お、おい……ルノちん。大丈夫なんだよな?」
「もちろんです。私を信じてください」
グロッタが大きく口を開けてカラットさんを捕食しようとしたその瞬間。
ピキーーン!
「ぎゃあああ!?」
額の魔法陣が発動し、グロッタが氷漬けになった。
「どうですか? 安全でしょう?」
「マジか……魔法陣でこの威力かよ。最悪、私の手で肉にしてやらなきゃと思ってたのに。フェンリルよりよっぽどバケモンじゃないか、ルノちん」
「ふふん。だから言ったでしょう?」
「ルノ! そんなことより早く助けてあげてーー!」
「そ、そうだった。ほいっと……」
私は氷に手を置いてグロッタを解放してあげた。
「ゲホゲホ! ……………………悪くなかった」
「ん、何か言った?」
「い、いえ! 助かりました!」
なぜだか、グロッタが恍惚の表情を浮かべているが、助かったのが嬉しいらしい。
「とまぁ、こんな感じなので安全面の心配はいりません」
「うむ、なるほど。ところでルノちん……」
「なんですか?」
「素材の事なんだけど、フェンリルの毛を少しだけ分けてくれないかい?」
「毛ですか? ……グロッタ、どう?」
「はい、それくらいでしたら」
「らしいです。丸裸にしちゃって大丈夫ですよ」
「!?」
「やだよーー!? 可愛くなくなっちゃう!」
「はは……じゃあちょこっと頂くよ」
ブチブチ……!
「ぎゃあああ!?」
「……けっこう取りましたね?」
「つい……」
「ぐすっ……!」
グロッタの前足の一部分が禿げている。
「いやぁ、ありがとうフェンリル! 助かるよ!」
「はは……は……これくらいっ……!」
かなり我慢してくれているのが分かる。今回ばかりは同情するよ、グロッタ。
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「さて、いい素材も手に入ったしさっそく武器でも作ってみるかな」
「もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、久しぶりに二人の顔も見れたしね。また暇な時に遊びに来るよ」
「またね、カラットさん!」
「あぁ、フユナちゃんも元気でな!」
そうして突然やってきたカラットさんはグロッタの毛を握ったまま帰っていった。
「たまには私の店にも遊びに来てくれよーー!」
そんな言葉を残して去っていくカラットさんを、私とフユナは見えなくなるまで手を振って見送ったのでした。
その頃、グロッタは。
「あの赤い魔女め! 首輪して閉じ込めた挙句、毛まで抜きやがって! ぐう……うぅぅ……すやーー」
小屋でふて寝していました。