第010話〜番犬・フェンリルと氷の小屋〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『危害を加えない』事を条件に開放された。
怪狼・フェンリル。
大顎から覗く鋭い牙。全身を覆う美しい白銀の体毛。人を丸呑み出来るであろうその巨体からは想像も出来ないほどのスピード。
出会ったのはつい昨日。ヒュンガル山の洞窟にて、封印されていたところを『危害を加えない』ことを条件に、私の魔法陣による契約の元に解放されたのだが、そのまま「はい、さようなら」という訳にもいかないので、行くあての無いフェンリルは共に暮らすことになった。
新たな家族『グロッタ』として。
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日が登って間もない早朝。
「ん〜〜……今日も良い天気だ」
天気は快晴。太陽の光を浴びてすくすくと育つ草花達が風に揺られて微かに音を散らす、そんな平和な我が家の庭。そこにいたのは一人の少女と一匹の……犬?
「うん、ちゃんと朝ご飯食べられたねーー! よしよし」
「フユナ様の愛情が篭もった素晴らしい食事でした! ワンワン!」
「もぉ〜〜そんなこと言って。わしゃわしゃ」
「ゲラゲラ!」
……
「すっかり仲良しだねぇ」
とまぁ、起床して様子を見に来た私を出迎えたのはおおよそこんな光景だった。文面的にはフユナが愛犬と戯れているようなやり取りだが、その大きさは『怪狼』と言われるだけあってかなりのもの。事情を知らない人が見たら一目散に逃げ出してしまうところだ。
ちなみにグロッタはその大きさが故に、昨日は家の横の庭で寝てもらった。申し訳ない。
「あ、ルノ。おはよう!」
「おはようフユナ」
「ワンワン!」
「うん、グロッタもおはよう。……って言うかさ」
「ワン?」
先程はその平和な光景が幸いして突っ込むことを忘れてしまったが、昨日と今朝で異なる点が一つ。いつからこの子は犬になったんだ?
「ワンワンって、あなたフェンリルでしょ。暴れないでいてくれるのは助かるけど種族チェンジまでしなくてもいいのに」
「しかしわたくしはフユナ様やルノ様と契約したのでお二人の犬のようなものです!」
「うーーん……?」
私の知らないうちに何があったのか、いつの間にかフユナも契約者として認識されている。確かに名付けの親はフユナだけどそれを踏まえてもたったの一日で随分な懐き様だ。優先順位的には一にフユナ、二に私、みたいな感じ。
「まぁ、無理してる訳じゃないなら別にいいんだけどさ。でも牙を抜かれたみたいに丸くなっちゃったからびっくりしたよ」
空腹だったとはいえ、封印を解いてあげた瞬間に捕食しようと襲いかかってきたことを考えればそれはもう雲泥の差である。元々性根は良い子のかもしれないな。
「グロッタはまだ緊張してるんだよね〜〜? よしよし」
「うぅ、なんという優しさ……! やはりルノ様よりフユナ様についていきます!」
「あの、グロッタさん? 聞こえてますよ……?」
グロッタは完全にフユナの支配下……妙な主従関係が確立された瞬間だった。少々複雑な気持ちもあるが、こうして早くも新しい家族として馴染んでくれた(?)のは素直に喜ばしいことだ。二人が仲良く戯れている姿は実に微笑ましい。
「ま、改めてこれからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますぞ、ルノ様!」
「よろしくね、グロッタ!」
「ははっ! このグロッタ、フユナ様の手となり足となり、どんな命令にでもお応え致します!」
「この落差はなんやねん……」
呆れ返る私を他所に仲良し二人のやり取りは続く。そろそろ朝ご飯の準備を始めようと思っていたが……もう少し見ていこうか。
「いいの〜〜? じゃあ命令します。そこで横になってください!」
「ははっ!」
命じられるがままにゴロンと横なるグロッタ。たったそれだけでモフモフ愛好家を虜にする至高の枕が完成。これで昨日まで野生だったというのだから驚きである。
そこへ――
「とりゃ〜〜! わしゃわしゃ! モフモフ〜〜♪」
「ゲラゲラ!」
フユナが遠慮無しのダイブがグロッタのお腹に炸裂。ボフッと音を立ててその身が毛にのまれる様は見ているこちらまで体感したくなるような魅惑的な魔力に満ち溢れていた。
「はいはい、ほんとに仲良しなんだから。……私もちょっとモフっとこ。うりゃ!」
「ぐはっ!」
「あ、ルノ。グロッタが潰れちゃうよ〜〜?」
「えぇ!? 私はそんなに重くないってば! グロッタも大袈裟だよ!?」
「ゲラゲラ!」
そんなこんなで朝の平和な時間を過ごすこと約一時間。正直もっとモフっていられる自信があったがこれ以上ここにいたら眠ってしまいそうなのでこの辺で終了。こういうのは程々が一番なのだ。
「ふぅ、危うく一日がこのまま終了するところだったよ。……さて、私達もそろそろ朝ご飯食べようか。昨日の魚焼くからフユナもおいで。グロッタはまた後でね」
「わかった〜〜! またね、グロッタ!」
「ははっ、また後ほど!」
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場所は変わってリビング。朝の食卓を囲むのは私とフユナ。グロッタという新たな家族が増えた事もそうだが、我が家も賑やかになったものだ。いずれはグロッタも一緒に家族旅行なんてのもいいかもね。
「「いただきま〜〜す!」」
今朝のメニューは焼き魚と山菜のスープ。どちらも昨日ヒュンガル山で採ってきたものだ。
「それにしてもフユナとグロッタ随分と仲良くなったみたいだね。上手くやっていけそうで安心したよ」
「ふふ。グロッタね、良く言う事聞いてくれるしお利口なんだよ。あとお腹がすごくモフモフで気持ちいいんだ」
「それすごく分かる。さっきもそうだけどあのお腹を枕にしたら一瞬で眠れる自信あるよ」
「ね。寝室のベッドより気持ち良かったな〜〜」
「ほんとほんと。うちのベッドなんかより……え?」
「あ、そうだ。今夜はグロッタと一緒に寝てもいい?」
「ええっ!?」
流れるように話が進んでいるがそれだけはなんとしても阻止せねばならない。それはつまるところ、私の密かな楽しみとなっていたフユナとの就寝ができなくなるという事だ。ここに来てまさかの障害が……!
「どうしたの、ルノ?」
「……いや。グロッタをお肉にしちゃおうかと思ってね」
「なんでそういうこと言うの〜〜!?」
「でもほら、想像してごらん。あの大きさなら特大の厚切りステーキができるよ?」
「えっ? ぁ……(ゴクッ)」
おや、ちょっとだけフユナの心が揺れたぞ。これは案外チョロいな?
「……はっ!? だ、だめっ! だめだよ!? ちゃんと育てるって言ったでしょ〜〜!」
「太らせて食べるの?」
「もうっ! ルノのばか〜〜!」
「あはは」
私の追撃によってプンプンと頬を膨らませて真っ赤になるフユナ。どんな顔でも可愛い……なんて。
「ごめんごめん。それは冗談として。一緒に寝るにしてもまずは先にグロッタの小屋を造ってあげないとね。あの大きさだから室内に入れる訳にもいかないしさ」
「ほんとに冗談かなぁ。……でもそう言えばグロッタって今まではどうしてたんだろね? 移動を繰り返してるって言ってたけど」
「だねぇ。フェンリルの生態には詳しくないから分からないけど、もしかしたら小屋とかそういう類のものは必要無いのかもね」
種族が異なれば生活も異なるのは当然。私達が良かれと思ってやった事でもそれが害になることだって有り得るのが共存の難しいところだ。
「ま、そこはグロッタに直接聞けばいいか。必要ならその時は私達で造ってあげようね」
「うん! ご飯食べ終わったらグロッタに聞いてみるね!」
その結果。
「ぜひ欲しいです!」
「え、いるの?」
朝食を終えて再びグロッタの元へやって来た私達の質問に対する答えがそれだった。
「住処が必要なかったのは移動を繰り返すフェンリルだったからこそ! 今はフユナ様の犬なので必要です!」
「えっと、ごもっとも……なのかな……?」
本人がこう言ってるみたいなのでもう犬を飼うみたいな感覚で良いのかもしれないな。それより、もはや私の存在が抜けてるぞグロッタさんよ。
「まぁ、そういうことなら今日はグロッタの小屋を造るよ。要望があればできる限り叶えてあげるけど何かあるかな?」
「それでしたらぜひルノ様の氷で造っていただきたい! なんせわたくしはフェンリルなものですから!」
「ふむふむ。フェンリルは氷好き……っと。もしかして昨晩とかなかなかに暑かったんじゃない?」
「確かに冷たい方が好みですが、どちらかと言えば程度です。フェンリルは多少の暑さでやられる程ヤワじゃありませんのでどうぞご安心を!」
「なら良かったよ。んじゃ氷でぱぱっと造っちゃうからグロッタもちょっとだけ協力してね」
「ははっ、なんなりとお申し付けください!」
「話が早くて助かるよ。じゃあ早速こっち来てくれるかな」
「ははっ!」
優先順位的にはフユナがナンバーワンだがちゃんと私の言うことも聞いてくれるいい子だ。よしよし。
「はいストップ。じゃあそこでじっとしててね」
我が家のすぐ横。昨晩、グロッタが寝床としていた場所に到着すると、私は少しの距離を置いてグロッタ――と言うよりもその場所へと手を翳す。
「一体何を?」
「ふっふっ……氷の家をご所望とのことだからね。うりゃ!」
バキン! ガガガガッ!
「なっ!?」
バキバキバキィン!
「ひえっ!?」
氷柱が一本二本と次々と地面から現れ、やがてグロッタの正面を除いた全てが私の魔法によって覆い尽くされる。あとは屋根となる部分も同じように氷で覆ってしまえばあら不思議。氷の小屋の完成だ。
「ルノすごーーい! これってもしかして?」
「うん、グロッタの家だよ。残りの細かい部分は一緒にやろっか。このままじゃ味気ないしね」
「うん! じゃあフユナ、中の飾り付けしてくるね!」
「はいはーーい」
フユナは新しい遊びを見つけたかのように目を輝かせて小屋の内装へと取り掛かる。数秒後、窓からひょっこり顔を覗かせたと思うと何やら窓枠に手を加え始めた。双剣を器用に使ってシャレオツなデザインを施しているらしい。
「あの調子なら中はフユナに任せてといて大丈夫そうだね。私は外をやるか」
そういう訳で、私は再び魔法を使って小屋を更なる高みへと昇華させていくことに。氷の柱をランダムに配置したり、樹木を髣髴させるように屋根を氷の枝葉でアレンジしたりなどなど。
そんな感じに、豪快かつ繊細に魔法を連発していると――
「ふーーむ。ルノ様は氷魔法を極めていますな!」
「お、わかる?」
いつの間にやって来たのやら、グロッタが私のすぐ横でそんな一言を。ついついドヤ顔をしてしまったが、こんなにも素直な賞賛を贈られたのだから調子に乗ってしまうのも致し方ないというもの。よし、もう少し張り切ってみようか。
「ほら、こんな巨大なのも出せるよ。とりゃ!」
「おぉ!?」
「ほらほら、こんなのも!」
「素晴らしい!」
魔法の無駄使いもいいところだが、褒めちぎられた私はすっかり調子に乗ってそんなことはお構い無し。もはやそこにあるのは氷の城と言っても過言ではなかった。
「いいねいいね。我ながら素晴らしいデザインだよ」
「さすがルノ様ですな!」
「ふふん。照れるなぁ」
「次はもっとこう……高さを!」
「よーーっし!」
とまぁ、何やら火がついてしまった私だがここでようやく気付く。これは過剰装飾もいいとこだ。
なので――
「削るね。正直、ちょっと邪魔かな」
「んなっ!?」
「あはは、ごめんね。でもやっぱりこういうのはシンプルが一番。変な背伸びは身体に毒だよ」
てな訳で、我が家よりも立派になりつつある小屋は製作者自らの破壊行為によってその姿を小屋にふさわしい形で落ち着かせた。それでも大きいんだけどね。
「よし、こんなもんかな。あとは……仕上げに氷が溶けないような魔法陣を描かないとね。一応、何かあったら分かるように結界も張っておこう。備えあれば憂いなしってね」
「まさか……わたくしが脱走したら氷漬けになる魔法陣ですか!?」
「いや、何かあったらってのは『グロッタの身に』って意味ね。脱走する気ならそういう結界も張っとくけど?」
「ご勘弁ください! たぶんしませんので!」
「『たぶん』ね。じゃあ張っとくよ」
「絶対! たぶん絶対です!」
「はい、完成」
「ぐはっ!?」
もはや完全にフリとしか思えなかったので遠慮なく張らせてもらった。まぁ、脱走しなきゃ関係ないし特に不自由は無いはずだ。
「ルノ、グロッタをいじめちゃだめだよーー!」
「あぁ、おかえりフユナ。大丈夫だよ、グロッタを守るための魔法陣だからね」
同じタイミングで、窓枠の装飾を完成させたフユナが帰ってきた。ちなみにガラスとなる部分は薄い氷になっていて、透明度はかなり高い。魔法陣の効果のおかげでこの美しさは永遠のものになることだろう。
「うんうん、だいぶ立派になったね。私の魔法にフユナのアレンジ。気に入ったかな、グロッタ?」
「それはもちろん! ありがとうございます、フユナ様、ルノ様!」
「良かったね、グロッタ!」
こうして、私とフユナによる『番犬・フェンリルの氷の小屋』は無事に完成したのでした。
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その後、氷の小屋の完成度を確認した私は、ひとまず距離を置いて全体像を視界に収めながら本日の成果を堪能するに至った。
「うん、いい感じだね。今更だけど全部氷にしちゃったけど平気? 一応、魔法陣の効果で氷は溶けないようになってるから寒すぎたら火を焚いても大丈夫だよ」
「ありがとうございます! わたくしはこれくらいでちょうどいいくらいです! むしろもっと寒く……!?」
「はいはい、グロッタのドM疑惑はとりあえず置いといて。ほかに何か必要なものはあるかな?」
「いえ! わたくしはこの小屋を頂けただけで十分でございます!」
「そう? ならいいけど……何かあれば言ってね」
一緒に暮らす以上は幸せになれる環境を築いてあげたいというもの。それが家族ともなれば尚更だ。
「それでしたらひとつ聞いてもよろしいですかな?」
「ん、どうぞ」
「ルノ様のその氷魔法は一体どのようにして?」
「覚えたかってこと? どうだったかなぁ……」
ここでまさかの不意打ち。魔法に関しては『好きだから』という他なく、この世界に転生してから割と間もない頃から使えていた気がする。それ以上は――
「いえ、なんと言いますか……先程のルノ様の魔法はフェンリルに伝わる魔法によく似ていると思いまして」
「あの氷の柱のこと? ぶっちゃけあれは柱と言うよりも槍なんだよね。小屋造りに使うだけだから加減したけど本来は氷槍の魔法。単純だけどあの魔法が一番好きなんだよね」
「ふむふむ」
「もしかしたらフェンリルに教わったのかも……なんてね。なんせ100年も生きてるからそこまで覚えてなくてさ」
「ゲラゲラ! またまたご冗談を! もしそれが本当でしたらわたくしはルノ様の師匠ということになってしまいますぞ! なんせこの世に存在するフェンリルはわたくしだけですからな!」
「あはは、そうだったら面白いね。まさに運命だ。げらげら〜〜」
「それなら今後はわたくしが師匠、ルノ様が弟子ということで」
「はいはい、もしそうだとしたら私は完全に師匠を追い越しちゃってるよ。とりゃ」
「ぎゃあああ!?」
カチンと一撃。グロッタの鼻先を氷漬けにしてやる。なんだか一気にアホっぽい面構えになっちゃったな。
「まったく。元気が有り余ってるならそこの草原でも走っておいで。運動不足でぶくぶく太っちゃっても困るしね」
「じゃあフユナがお散歩に連れて行ってあげる!」
氷の小屋から出てきたフユナがそう言いながらグロッタの背中に飛び乗った。ずいぶんと手慣れていらっしゃる。
「草原からは出ないようにね。フユナはもし人に出会っちゃったら驚かないように説明してあげてね。グロッタは何かあったらフユナを守ってあげること。んじゃ気を付けてね」
「うん、わかった! いこ、グロッタ」
「ははっ、フユナさまのご命令とあれば!」
ビュン!
「おぉ、さすがフェンリル。相変わらずの速さだね。私もちょっと乗りたかったかも」
一緒に行かなかったことに少々残念な気持ちにはなったが、グロッタ、そしてその背中に乗るフユナ。二人が楽しそうに戯れるその姿はつい笑顔がこぼれてしまうような平和な空気に包まれていた。
そして――
「わーーい、速い速い!」
「こんな事もできますぞ! ガウガウ!」
グロッタの掛け声と共に地面から突き出すのは先程の話題に出てきていた魔法。よく似ているとまで言われた氷槍の魔法だった。
「そしてこの上を!」
「ちょ、ちょっと!? うわぁ、すごいすごい!」
器用に氷槍の先端に飛び移ってあっちこっちに移動を繰り返すグロッタ。まるで一種のアトラクションだ。
「最後に特大のやつを行きますぞ! ガウガウ!」
バキィン!
一際大きな氷槍が空へ向かって突き出す。それはまさに私の魔法のイメージとぴったり重なるもので――
「うーーむ。確かに似てるかも」
その時ほんの一瞬だけ、先程冗談で言った「フェンリルに教わったのかも」なんて言葉が事実だと錯覚してしまう自分がいた。そんな野生児だった覚えはないんだけどな。
「ま、いいや。今日はグロッタの小屋の完成記念ってことで私はのんびりコーヒーでも飲もうかな。フユナの『双剣使いサトりんのワクワク冒険記』でも読もうっと」
野生児でもなければグロッタに教わった訳でもないのでそんな雑念は早々にポイ。過去よりも未来。未来よりもスローライフ。という事で私はゆっくりまったりしようじゃないか。
「それにしてもあの速さといい、魔法といい……最初はただのネタのつもりだったけどこれは本格的に番犬としての役割を担ってもらってもいいんじゃないかな」
そんなことを思っている間にもグロッタは――
「むむっ、あそこにスライムがいますぞ!」
「ほんとだ。よく見つけたねグロッタ」
「ふっふっふっ、なんせフェンリルですからな! わたくしにお任せください!」
「え? うわぁ!?」
草原に迷い込んだスライムを見つけ出したグロッタはそのまま一気に加速してバクリ。そんじょそこらの冒険者などでは相手にもならないだろう。
「うん、決まりだね」
という事で『怪狼・フェンリル』改め『番犬・フェンリル』として、これから一緒に幸せな生活を築いていこう。
こうして、まったりとコーヒーを飲みながら時間を潰すこと約一時間。どういう訳か、突然地響きがこちらに迫ってきた。
ドドドド……!
「あぁ、グロッタが帰ってきたってことか。帰宅したのが分かるから便利だね」
「ルノ、ただいまーー!」
「ワンワン!」
「おかえり。フユナ、グロッタ」
なんとなしに出迎えるとその後ろにはもう一人、意外な人物がいた。
それは――
「ただいま、ルノちん!」
「あら……」
燃えるような赤い髪の女性。
魔女鍛冶師・カラットさんだった。




