第十二話〜初めての家族旅行① フユナの健闘。からの温泉宿〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『危害を加えない』事を条件に開放された。
ある日のこと。
「おぉ、これは絶景だ」
「大きな樹だねーー!」
現在、私達がいるのは地元の村『ヒュンガル』から山を一つ越えた場所にある、大樹の街『ロッキ』
ロッキというのは樹の名前でもあり、メインストリートには巨大なロッキが六本並んでいる。まさにこの街のシンボルだ。
家族も増えたことだし、みんなで観光にでも行こうということでやってきた訳だ。
「ワンワン!」
ちなみに、グロッタは私の魔法で小さくなっている。街の中に巨大な狼がいたら大変なことになるからね。
「グロッタさ、もうそのまま犬として生きていったら?」
「うんうん。小さなグロッタ可愛いよーー!」
「んなっ!?」
そう言ってグロッタの頭を撫でいるフユナ。傍から見れば完全に飼い主とペット関係だ。なんとも微笑ましい光景だ。
「さてと。着いたばっかりだけど、まずはお昼ご飯食べようか。観光はそれからだね」
「ルノ。あれは? いい匂いするよ」
「ん、どれどれ?」
フユナが指さす方に、何やらお店に看板がある。
〜ロッキ名物!『ロッキサンド』〜
ロッキの実をふんだんに使ったホットサンド☆
「へぇ、美味しそうだね。それじゃ、あれにしようか」
「やったーー!」
ロッキサンドのお店は屋台のような感じで、すぐ横にはテーブルも設置されており、すぐに食べられるようになっていた。なんだかお祭に来たみたいな気分になる。
「グロッタはこれ食べられる?」
「はい。食べ物ならなんでもいけます!」
「じゃあフユナが食べさせてあげる!」
という事で、ロッキサンドを三つ注文した。すると、少し離れた場所でロッキサンドを調理しているのが見えた。レンジでチンではないらしいので安心した。
「お待たせしましたーー!」
出来たてアツアツのロッキサンドとジュースが運ばれてきた。調理している段階から香ばしい匂いがしていたので早く食べたい!
「うん、美味しい! この香ばしい香りにスパイシーな味付けがたまらないね!」
「ちょっと辛いけどおいしいね! はい、グロッタもどうぞ!」
「ガツガツ!!」
グロッタがすごい勢いで食べている。どうやらあらゆる種族に好評みたいだ。
「「ごちそうさまでした!」」
腹ごしらえ完了。何をするにしてもまずはここからだよね。
「村にはない味だったね。やっぱり観光はこうして知らない味に出会えるからいいね」
「もっと色んなもの食べたいね!」
「そうだね……次は、デザートを食べられるお店でも探そうか」
私達は家族そろっての観光でかなりテンションが上がっていた。ついて早々、食べ物のことばかりだが、楽しいのでオッケー!
「お、チーズケーキのお店か。ぶっちゃけよくカフェで食べてるけど……だからこそ食べ比べてみるって手もあるな」
「じゃあ行ってみよう!」
私の呟きを聞いていたフユナが私の手を引いてくれた。そのままお店の前まで来ると、看板娘の営業トークが聞こえてきた。サトリさんじゃないよ?
「いらっしゃいませ! ロッキの樹液を使った濃厚チーズケーキですよーー! あ、そこの可愛いお嬢さん方! おひとついかがですか!?」
「そうですね。美味しそうですけど、私達はあっちのお店にしようかと。でも迷いますねーーこちらも美味しそうですし」
「そ、それなら! お安くしておきますのでぜひこちらに! そうだ、そちらのワンちゃんの分はサービスしますよ!?」
「本当ですか。じゃあこちらでいただきますね」
「ありがとうございます! では、どうぞこちらへ!」
ラッキー!
「ルノ様……策士ですな!」
「ちょ、ちょっと……人聞きの悪いこと言わないでよ。グロッタも食べるでしょ?」
「ぜひ、いただきます!」
「聞いといてあれだけど、ほんとになんでも食べるね……」
という事で特製チーズケーキを三つ注文した。
「お待たせしましたーー! まずこちらは、ロッキチーズケーキと……こちらはロッキの樹液を使っているジュースです。ご来店してくださったお客様へのサービスですので、よかったらどうぞーー!」
「ありがとうございます」
「おいしそう!!」
今気付いたが、先程ロッキサンドを食べた時に出されたジュースもこれと同じものだったようだ。どこでも出てくるのか。
「それにしても、この街はロッキの樹にまつわるものが多いみたいだね。メインストリートの樹にも登れるみたいだから、後で行ってみようか」
「うん、行く行くーー!」
そんな感じに今後の予定を決めつつ、チーズケーキを口に入れると……
「美味しい! 樹液の優しい甘さとチーズの濃厚さが良く合ってる!」
「ルノ。これ、お土産に買って帰ろうよ!」
「そうだね! すいませーん、このチーズケーキお土産用に……いや、やっぱりあっちのお店で……」
「お安くしておきますよ!?」
「では、一つお願いします」
「策士ですな……(ボソッ)」
こうして、私はお土産用のチーズケーキをホールで買ってしまった。観光だからお財布の紐が緩んじゃうな。
「ふぅ、さすがにお腹いっぱいになったね」
チーズケーキのお店を出てから数分。そんな感想をこぼした私はなんだか運動したい気分になってくきた。なんかそういう施設はないものか。
そんな事を考えて歩いていると、街のとある一角に人だかりが見えた。これはイベントの予感がするぞ!
「ちょっと見ていこうか?」
「うんっ!」
私達が興味本位で覗いてみると、人だかりの先にいたのは、金髪を逆立てたちょっぴり目付きの鋭い青年だった。
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雷を連想させるその青年はこんな事を言っていた。
「さぁさぁ! 誰かこのオレから一本取れる人はいないか!? 見事一本取ることができたらロッキの樹に希にできる、ロッキの結晶をプレゼントするぞ!」
青年の手には木製の双剣が握られている。あれもロッキの樹で出来てるのだろうか。
ふと、視線を向けるとフユナの目が輝いていた。
「ルノ……あれ綺麗だね……」
「フユナ、挑戦してみたら? ちょろっとやっつけちゃいなよ」
「か、勝てるかなぁ……?」
「フユナ様なら余裕ですよ!」
目の前ではちょうど誰かが挑戦している最中だった。しかし残念ながら返り討ち。あの双剣の人もなかなか強いようだが……
「いけるいける。ほら、サトりんと比べてごらん?」
「うん……やってみる!」
フユナがやる気を漲らせて挑戦しに行った。私とグロッタは最前列まで行って見学することに。
「おや、今度はお嬢ちゃんが挑戦するのかい? かわいいな(ボソッ)」
「はい。よろしくお願いします!」
おい。あの双剣の人……今、妙な発言しなかったか?
「オッケー! じゃあそこから好きな武器を選んで。全部木でできてるから心配はいらないぞ。ルールは簡単。オレから一本取ればお嬢ちゃんの勝ちさ」
「じゃ、じゃあこれにします!」
「お? オレと同じ双剣か! これは面白くなりそうだな!」
どうやらフユナの可愛らしい見た目で油断しているらしい。痛い目見るぞーー!
「ふん、あの若造はフユナ様を舐めていやがりますな!」
「ふふん、まぁ言わせておけばいいよ」
私はものすごいドヤ顔。グロッタに至っても、フユナの勝利を確信しているようだ。
「それじゃ、始めようか。どこからでもかかっておいで」
「で……では、行きます!」
周囲からは「頑張れ、お嬢ちゃん!」だの「手加減してやれよー!」と言った声が聞こえてくる。どうやらほとんどが面白半分のようだが、それも一瞬。
ヒュン!
「んなっ!?」
フユナが一歩踏み出すと一気に距離が詰まった。双剣の人もまさかの速さにド肝を抜かれていた。
「えいっ!」
「くっ!?」
ガキン!
間一髪、防いだようだ。さすが商売にしているだけはあるみたいだ。
「マジか……これはあいつを思い出すな。面白い!」
双剣の人も気合いを入れ直したみたいだが、フユナの実力を知ってるこっちとしては、もう勝負は決まったようなものだった。『あいつ』って誰だろう。
フユナが再び一歩踏み出した。どうやら反撃の隙は与えないようだ。
ヒュン……!
「むっ!」
キィン!
ヒュッ……!
「うおっ!?」
キン、キィン!
フユナがどんどん加速していく。もうすぐ決着が着きそうだな。
ヒュンッ!
「!?」
キンキン! キィンッ!
フユナが見事に双剣の人の武器を弾いた瞬間だった。もうあの人は文字通りただの人。
「えいっ!」
「ごふっ!?」
フユナが放った一撃が後頭部に命中。それが決着の合図になり、一気に観客が湧いた。
「うぉぉぉ! すげぇぞ、お嬢ちゃん!」
「動きが見えなかった!?」
「可愛いーーー!!」
それまでおふざけだった観客を含め、全員がフユナに大きな拍手を贈った。
「あ、ありがとうございました」
「……」←気絶中
こうしてフユナは沢山の拍手と共に、景品を頂いていきました。
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「いやーー! 勝つだろうとは思ってたけど予想以上だったよ。特訓の成果だね」
「前よりは強くなったかな……?」
「もちろんだよ! サトりんみたいな速さだったよ」
「ほんとに? やったーー!」
憧れの人に近づけていることに喜ぶフユナ。うんうん、娘の成長する姿はいつ見ても嬉しいものだ。
「さすがです、フユナ様! (ドヤァ)」
グロッタも心なしか誇らしげ……いや、完全にドヤ顔だった。まぁ、その気持ちも分からなくはない。
気付けば空はすっかり夕焼けに染まっていた。
「いやぁ、楽しい時間はあっという間だね」
「うん……でも、本当に楽しかった!」
フユナは賞品のロッキの結晶を胸に抱きながら若干、名残惜しそうにしている。ふっふっふっ……その顔を待っていた……と、ばかりに私はニヤリと笑って言った。
「ふふん、フユナ。何か勘違いしているようだね! 遊び足りないなら明日も遊べばいいんだよ!」
こんなこともあろうかと、実は事前に宿を取っておいたのだ。初めての家族旅行……一日で終わってたまるか! ロッキの樹にだってまだ登ってないんだ!
「え、え……? 明日も来るの?」
「ふっふっふっ……今日はなんと、お泊まりだよ!」
「!」
フユナがとびきりの笑顔になった。ちょっと! 眩しいすぎるよ!
「やったぁ、ーー! ルノ、ありがとう!」
「喜ぶのは早いよ。なんたって泊まるところには温泉があるんだからね。今日という日はまだまだこれからだよ!」
「ルノ! ルノさん! ルノ様ーー!」
そう言って、フユナが抱きついてきた。うん、最高の瞬間。その顔が見たかったんだよ!
「そうと決まればさっそく宿にいこうか。今日はまだまだ楽しむよ!」
「おーー!」
こうして私達は、ロッキに到着したとき以上のテンションで温泉宿へ向かった。
一日目の観光を終えて、温泉宿にやってきた私達。全体的に木で統一された内装は、心なしか日本の温泉宿を連想させる。
「よーーし! 夕飯まではまだ時間あるから、先に温泉に入ろうか」
「うん!」
今回の宿は、それぞれの部屋に温泉が備え付けられているタイプなので時間を気にせず、いつでも堪能できる。
「はぁ……このままここで寝たい……」
「気持ちいいね……」
「ゴクゴク……」
温泉にはグロッタも一緒だ。気持ち良さそうに温泉をゴクゴクと……
「いやいや……あのね、グロッタ。これは飲み物じゃないからね? それに、そのサイズで飲まれると温泉が無くなるんだけど……」
「ゴクゴク?」
この狼……飲みながら返事したぞ!
「せっかく元のサイズがいいって言うから戻してあげたのに」
「小さい姿だと慣れてなくて疲れてしまうもので!」
「ガリガリで可愛いくない……」
温泉に浸かっているグロッタの体毛はぺちゃんこになっていた。元が毛むくじゃらだからギャップがすごい。萌えたりしないけどね。
「グロッタ。それ乾かす時どうするの? 身体振るって終わりとかだめだよ?」
「な、なんですと!? それで終わらせるつもりでした……」
「フユナが冷気で乾かしてあげるよ。ビューーって」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
なぜグロッタはお礼を言っているのだろうか。いや、薄々分かってはいたが……この際だから突っ込んでみるか。
「グロッタ。あなた……ずばりドMでしょ」
「ドMとはなんですか?」
「えぇ……どう言ったらいいかな。例えば、今この瞬間に、温泉を凍らされたらどう思う?」
「最高です」
「お仕置きね……って言われて氷漬けにされたら?」
「たまりません!」
「ほら、その被虐趣味。やっぱりドM!」
思ってた通り。グロッタはドM確定。
「ち、違います!? フェンリルとは寒い環境を好むものなのです!」
「ふーん? なんか誤魔化してるみたいだよ」
「とんでもございません(キリッ)」
良い顔で言っているが、これは嘘の顔だな。
「まぁ、この際グロッタの趣味は置いておいて。この後の夕飯も楽しみだね」
「豪華なお料理かな?」
そんな風に期待に胸を膨せながら温泉から上がった私達を待っていたのは。
「おぉ!」
「すごーーい!」
「ゴクッ……!」
部屋に戻った私達を待っていたのは、宿の人達が用意してくれたロッキ尽くしの夕飯だった。ある意味予想通り!
ロッキの実パン。ロッキの実のソテー。ロッキの実のサラダ。ロッキの実のスープ。ロッキの……
「ほんとに全部ロッキ……」
これだけの種類があれば一品くらい別物があってもいいのだが。でも観光中に食べたロッキサンドに、ロッキチーズケーキ、ロッキジュース、全部美味しかったから期待はできる。
「よし。みんな席についたね? ではでは……」
「うん」
「じゅる!」
「「「いただきます!」」」
私はパン、フユナはサラダ、グロッタはソテーに、それぞれ口をつける。結論……ロッキ尽くしの夕飯は最高だった。
「最初はロッキ尽くしでびっくりしたけどどれも最高だね」
「うん、美味しい!」
「ガツガツ!」
グロッタはあれだけお湯を飲んだというのによく食べる。だが、その気持ちも分かる。
「ロッキの実ってどんな料理にも合うんだね。うちでも育ててみたいな……」
「見て、ルノ。ロッキのお土産屋さんに苗木が売ってるみたいだよ」
そう言ってフユナが差し出してきたのは宿に置いてあったこの街のパンフレット。
「あ、本当だ。そしたら帰りに買って、グロッタの小屋の横にでも植えようか」
「うん、そうしよう!」
「ガツガツ!」
私達は、ロッキ尽くしの夕飯に舌鼓を打ちながら、明日のことに思いを馳せる。食後には再び温泉に入って大満足しながら、家族旅行の一日目は終わりを告げたのでした。




