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魔法陣にしか興味がない悪役令嬢、破滅フラグを条件表に載せる 〜古代魔導書を読むために、王太子と政略結婚を結びました〜  作者: NN
第九章 割に合わない、はずだった

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舞台は、卒業の夜会

 共鳴の伴が、ルイスに決まった。


 これで、結界規模の同時処理を、組む目処が、立った。アリスの光を核に、リゼットとルイスの共鳴で、それを支える。設計図は、日に日に、完成へ近づいていった。


 だが、そこへ、二つの報せが同時に届いた。


 一つ目は、宮廷魔術師団のオルテガからの書簡だった。


『魔力嵐の接近を、確認。予測より、早い。──次の、建国祭の夜、王都上空で、最大に達する見込み』


 建国祭。


 王立学院が、一年でいちばん大きな夜会を、開く日。学院の生徒、貴族、そして王族が、一堂に会する、盛大な式典の夜。


 その夜に、魔力嵐が来る。


 結界がいちばん危うくなる、その夜に。


 書簡には、追伸があった。


『式典の、延期を、進言した。──退けられた。建国祭は、四百年、一度も、止まったことがない、というのが、理由だ』


「四百年、止まっていないから、止めない、か」


 ルイスが、低く言った。


「王家の、面子だ。……いや、それだけじゃ、ないな。式典を止めれば、"なぜ止めたか"を、公表することになる。結界の欠陥を、国の内外に、さらすことになる」


「隠してきたものは、隠したまま、守りたい。──四百年前と、同じ判断です」


 リゼットの声には、責める色より、疲れに似たものが、あった。


 同じ判断が、四百年続いている。だから、彼女が変えるしかないのだった。



     * * *



 二つ目の報せは、もっと静かに届いた。


 カルロスが、学院の噂を、聞きつけてきたのだ。


「なあ、リゼット。変な噂、流れてるぞ。建国祭の夜会で、なんか、"大きなこと"が起きるって。あんたに、関係あるっぽい」


 リゼットの目が、鋭くなった。


「静寂院、ですね」


 彼女は、すぐに悟った。


 断罪の、舞台。それが、建国祭の夜会だ。学院中の、いや、国中の要人が、集まる、あの夜。公開の、いちばん、目立つ場所で。静寂院は、リゼットを、断罪するつもりだ。危険な力を持つ平民アリスを利用する、悪女として。


 そして。


「……重なりました」


 リゼットは、静かに呟いた。


「魔力嵐と、断罪が、同じ夜です」


 アリスが、青ざめる。


「そんな……嵐が来て、結界が危ないのに、その夜に、断罪だなんて」


「偶然では、ありません」


 リゼットは、首を振った。


「静寂院は、知っています。魔力嵐が、その夜に来ることを。そして、私が、その夜に、結界を救おうとすることを。──だから、その夜を、選んだのです」


「なんで、向こうが、嵐の日を、知ってんだよ」


 カルロスが、聞いた。


「観測できるからです。四百年、封印を見張ってきた組織です。嵐の周期を、私たちより正確に知っていても、驚きません」


「……つまり、あいつら、結界が危ないって知ってて、その夜に、あんたを潰しに来るのか。結界は、どうすんだよ。国が、滅ぶかもしれねえのに」


「彼らの理屈では、結界の一度の危機より、封印が開くことのほうが、恐ろしいのです。──国と、世界を、天秤にかけて、世界を取る。彼らなりの、正義です」



     * * *



「考えてみてください」


 リゼットは、仲間たちに静かに説明した。


「もし、私が、建国祭の夜に、結界を救うために、共鳴発動を行おうとしたら。静寂院は、それを、こう告発できます。『危険な平民の力を使い、王宮で、禁じられた大魔法を発動させようとした、大逆の企て』と」


 ルイスの顔が、険しくなる。


「結界を救う行為そのものを、罪に、仕立て上げるのか」


「はい。しかも、公開の場で。私が、共鳴発動を、始めれば始めるほど、告発の"証拠"に、なります。──救おうとすればするほど、悪女に、見える。完璧な、罠です」


 演習場に、重い沈黙が落ちた。


 断罪と、結界崩壊。二つの、絶体絶命が、同じ夜に、同じ場所で、待ち構えている。結界を救えば、断罪される。断罪を避ければ、結界が崩れ、国が滅ぶ。


 どちらを選んでも、詰み。


 それが、静寂院の仕掛けた盤面だった。


「……どうすんだよ、これ」


 カルロスが、呻いた。


「逃げ場、ねえじゃん」


 だが、リゼットの薄紫の瞳には、絶望ではなく。


 いつもの、あの炎が灯っていた。



     * * *



「面白いです」


 リゼットは、言った。


「こんな時に、面白いとか、言うなよ……!」


「カルロス。よく、見てください。静寂院は、私を、詰めたつもりです。ですが、彼らは、一つ、間違えています」


 リゼットは、床の設計図を、指した。


「彼らは、『救おうとすればするほど、悪女に見える』という、盤面を作りました。ですが、それは、逆です。──もし、私が、大勢の見ている前で、結界を、本当に、救ってみせたら。どうなりますか」


 アリスが、はっと顔を上げる。


「悪女どころか……救国の、英雄に……」


「そうです」


 リゼットは、頷いた。


「静寂院は、公開の場を、断罪の舞台に、選びました。ですが、公開の場は、こちらにとっても、舞台です。国中の要人が、見ている前で、結界の崩壊を、防いでみせる。断罪の証拠にしようとした、まさにその行為で、彼らの、断罪を、覆す」


 リゼットは、立ち上がった。


「向こうが、逃げ場のない盤面を、作ってくれました。ならば、その盤面の上で、勝ちます。──嵐の夜に、賭けます」


 誰も、すぐには声を出さなかった。


 最初に動いたのは、エドガーだった。パン、と手を一つ、叩いた。


「乗った。負け筋の濃い賭けは、嫌いじゃない」


「俺も。……どうせ、逃げたって、あの夜会には出るんだしな」


「わ、私も。──私の光は、きっと、そのために、あるんだと、思うから」


 ルイスは、何も言わずに、リゼットの隣に立った。


 それが、答えだった。


 仲間たちが、その背中を見た。


 悪役令嬢。ヒロイン。逃げない平民。他国の皇子。そして、王太子。


 物語では、断罪される側の、寄せ集め。


 その全員が、今、同じ詰みの盤面を見て。


 勝つ方法を、探し始めていた。


「役割を、割り振ります」


 リゼットの声が、演習場に、響いた。


「全員、私の指示通りに、動いてください。──嵐の夜を、こちらの、舞台に、変えます」


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