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魔法陣にしか興味がない悪役令嬢、破滅フラグを条件表に載せる 〜古代魔導書を読むために、王太子と政略結婚を結びました〜  作者: NN
第九章 割に合わない、はずだった

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波長が、合う相手

 共鳴発動には、"相性"が要る。


 エドガーの言葉を、リゼットは、そのまま、研究課題にした。結界規模の同時処理を組むには、アリスの光を核にして、その周りを、複数の術者の魔力で、支える必要がある。だが、支える術者の波長が、アリスの光や、リゼットの制御と、合わなければ、共鳴どころか、反発して、暴走する。


 だから、まず、"誰と誰の波長が合うか"を測る。


「相性試験を、始めます」


 リゼットは、演習場に候補を集めた。


 まず、エドガー。魔法大国の皇子。魔力量は、桁違いだった。


 リゼットが、共鳴用の小さな術式に、エドガーと同時に魔力を流す。


 結果は、即座に出た。


 術式が、ばちんと弾けた。二人の魔力が、真っ向からぶつかり、反発したのだ。


「……見事に、反発しましたね」


 リゼットが、焦げた術式を、見て言った。


「俺と、お前は、魔力の"気性"が、似すぎている」


 エドガーが、肩をすくめた。


「どちらも、自分が、中心にいたがる。共鳴には、向かない。片方が、相手に、合わせられなければ、掛け算には、ならない」


「なるほど。記録します」


 エドガーは、焦げた術式の端を、指で弾いた。


「……なあ、シルヴァーヌ嬢。一つ、聞くが」


「はい」


「合わせられない、というのは。能力の、話だと、思うか」


「違うのですか」


「意志の話だ」


 彼は、肩をすくめた。


「俺は、お前に合わせる気が、ない。お前も、俺に合わせる気が、ない。──それだけのことだ。魔力の相性なんてものは、たいてい、後づけの言い訳だよ」


 リゼットは、少し考えた。


「では、記録を、訂正します。『反発の原因:意志』」


「訂正するな。書かれると、恥ずかしいだろうが」


 言いながら、皇子は、演習場の隅へ、目をやった。


 そこには、いつも通り、腕を組んだ王太子が立っている。


 あの男は、八年、合わせ続けてきたのだろう。合わせている自覚すら、たぶん、ないままに。


 魔力量でも、身分でも、頭の切れでもない。ただ、それだけの差だった。


(……勝ち目が、ないな)


 エドガーは、そう思った。


 思って、なぜか、少しだけ、清々しかった。


 彼は、共同研究者の顔に戻り、次の候補の名を、読み上げた。



     * * *



 カルロスは、そもそも、術者として魔力が足りなかった。


「俺、無理じゃね?」


「無理です。ですが、あなたには、別の役割があります。共鳴のずれを、直感で、指摘する役です。数字より、あなたの『なんか、変』のほうが、早いことがあります」


「なんか、それ、褒められてる気が、しねえ」


「褒めています」


 アリスは、光の核なので、支える側ではない。


 候補が、尽きた。


 リゼットは、腕を組んだ。共鳴の伴が、見つからない。エドガーは反発し、カルロスは足りず、アリスは核。このままでは、結界規模の同時処理は、組めない。


「……困りました」


 その時。


「俺で、試すか」


 演習場の隅から、ルイスが、言った。



     * * *



「殿下が、ですか」


 リゼットが、意外そうに、振り返る。


「殿下の魔力は、平均的です。共鳴の核には、なれません」


「知っている。だが、候補が、尽きたんだろう。試すだけ、試せばいい」


 ルイスの申し出は、半分は、研究のためだった。だが、もう半分は──リゼットの隣に、立つ口実が、欲しかっただけ、かもしれない。それを、彼は、認めなかった。


「……妥当です。試します」


 リゼットは、共鳴用の術式を描き直した。中央に、二人分の魔力の経路。


「殿下。私の合図で、ゆっくり、魔力を、流してください。無理に、強く出さず、私の波に、合わせるように」


「合わせる、か」


「はい。共鳴は、どちらかが、相手に、合わせなければ、成立しません」


 ルイスは、ふと思った。


 合わせる。それは、この八年、自分が、ずっと、やってきたことだった。この、魔法陣しか見ていない女の、突飛な世界に、いつの間にか、自分の歩調を、合わせてきた。


「……得意分野だ」


 彼は、小さく呟いた。


「何か、言いましたか」


「なんでもない。始めるぞ」



     * * *



 二人が、同時に魔力を流した。


 最初は、ずれた。ルイスの魔力が、リゼットの波より少し速い。


「殿下、速いです。もう少し、ゆっくり」


「……こうか」


「そうです。──そのまま」


 ルイスは、目を閉じ、リゼットの、魔力の流れを、感じ取ろうとした。彼女の波は、意外にも、静かだった。激しく、突き進む印象とは、裏腹に。奥深くで、澄んで、規則正しく、脈打っている。


 その波に、自分の魔力を、そっと重ねる。


 合った。


 術式の中央で、二本の魔力の道が、ぴたりと揃った。ぶつからず、反発せず、互いを支え合いながら、静かに回り始める。


 淡い光が、演習場を満たした。


 アリスが、息を呑む。カルロスが、「うおっ」と声を上げる。エドガーが、目を細めた。


「……共鳴、しています」


 リゼットの声が、わずかに、震えた。


「殿下と、私の波長は、合います。反発、ゼロ。ここまで、綺麗に、合うとは──」


 彼女は、術式の澄んだ光を見つめた。そして、ぽつりと言った。


「不思議です。殿下の魔力は……なんだか、落ち着きます」


 その瞬間。


 ルイスの集中が、途切れた。


 術式の光が、ふっと揺れる。


「殿下? どうしました。急に、波が、乱れました」


「……なんでもない」


 ルイスは、顔をそむけた。


 落ち着く。


 この女が、そんなことを、言うとは。魔力の話だ。分かっている。ただの、観測結果だ。彼女に、他意は、ない。


 なのに。


 その一言が、ルイスの胸のいちばん奥を、まっすぐ撃ち抜いた。


 少し、離れた場所で。


 エドガーが、カルロスに囁いた。


「……おい。今の、見たか」


「見た。殿下の波、思いっきり、揺れたな」


「原因も、見たか」


「見た。……言わねえほうが、いいんだよな、ああいうのは」


「賢いな、お前は」


 二人の観測者は、この重要なデータを記録しない、という紳士協定を、その場で結んだ。



     * * *



 その夜、リゼットは、手記に重要な発見を記録した。


『共鳴の伴:ルイス。波長が、完全に、一致。反発ゼロ。』

『結界規模の同時処理は、アリスの光を核に、ルイスとの共鳴で、支えられる可能性が高い。』


 彼女は、その記述を、研究の成果として淡々と書いた。


 だが、ペンを置いたあと、ふと、昼間のあの感覚を思い出した。


 ルイスと魔力を合わせた時。ぶつからず、反発せず、静かに重なった、あの感じ。


 なぜ、あんなに綺麗に合ったのだろう。


 波長が、近い。エドガーは、そう言った。似すぎていると、反発する。違いすぎても、合わない。ちょうどいい距離の、ちょうどいい違いを持つ相手とだけ、共鳴は、成立する。


 リゼットは、手記の余白に、小さく書いた。


『疑問:なぜ、ルイスとだけ、これほど、合うのか。』


 答えは、出なかった。


 仮説は、いくつか、浮かんだ。魔力量の、比率。属性の、配置。八年分の、同席時間。──どれも、検証の、しようがなかった。最後の一つに、至っては、条件表の、どこに載せればいいのかすら、分からなかった。


 だが、その"合う"という感覚を、思い出すと。


 なぜか、少しだけ、胸のあたりがあたたかくなることに。


 リゼットは、気づいた。


 そして、それをどう記録すればいいのか、分からずに。


 しばらく、ペンを宙に浮かせたまま、動けなかった。


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