2ー14話
勘十郎「それで、ドォーーン! はい、できあがり。それではどうぞ」
小箱の引き出し中でおだんごを作ると僕はおだんごの乗ったお皿をお爺さんの前に差し出してあげました。
僧風の男「これはかたじけない。おやコレは、このような物は初め目にしましたな」
差し出してあげたおだんごを見てお爺さんがそう話しました。
信長「美味いぞ。食ってみろ」
僧風の男「左様でございますか。それでは失礼して、頂戴いたします……ぱくり。なっ! コレは!!」
信長にいちゃんに勧められてそのお爺さんが一口僕の出してあげたおだんごを食べると驚いたようにそう言葉を漏らしました。
信長「どうだ? 美味いだろう?」
僧風の男「いやコレは驚きました。まさかこれほどの物とは思っておりませんでしたが……この辺りではこのような団子が食べられているのですか?」
信長「いや無いな」
僧風の男「無いのですか?」
信長「うむ、俺も前にコイツにこの団子を食わせて貰ってその時は誰かが手土産にその団子を持って来たのかと思って町中の店を探し回った事があったんだ」
僧風の男「ほぉ、そのような事があったのですか」
あー、あったよね。
一番初めに信長にいちゃんにおだんごを食べさせてあげた時の事かな。
信長「ああ、でもいくら探してもこの団子を売っている店がなくてな、もう二度と食えないのかと諦めかけていたのだが、ある時コイツの部屋に行ったらコイツが部屋で団子を作っていてな、お前が作っていたのかとビックリしたな」
僧風の男「そうだったのですか」
信長「ああ、いや最初に食わせてくれた時もコイツは僕が作ったと言ってはいたのだが、まさか本当にこんな物を作る事が出来るとは思わなくて信じてなかったんだが。まあ驚いたって話だな」
僧風の男「左様でございますか。ふむ、確かにコレは並の店では作れる代物でございませんな」
信長「おっ、爺さんもそう思うか?」
僧風の男「はい、この上にかかっているタレは砂糖と醤油を使った物でございますかな?」
凄い! 一口食べただけでこのお爺さんはソレが分かってしまったみたい。
信長「おっ、確か勘十郎はそう話していたな」
僧風の男「やはりそうでございましたか。このような物は並の者では作る事はまず不可能、並ではない者でもこのような物を作ろうなどと考えもしないでしょうな」
信長「へぇー、そんなに凄いのか。いやそう言えば醤油ってなんだ?」
信長にいちゃんが思い出したようにそうそのお坊さんに尋ねました。
僧風の男「醤油でございますか?」
信長「ああ、コイツは醤油、醤油と普通に話しているんだが俺は醤油なんて見た事がないし、オヤジとお袋は知ってはいるみたいだが、一体どんな物かと思っていたんだ」
あれ? そう言えば僕もお醤油を見た事がないかも?
僧風の男「左様でございますか。醤油と言うのは味噌を作る時に樽の底に汁が出来るのですが。その汁の事をたまり醤油、あるいは醤油と言うのです」
信長「なんだ、味噌なのか」
僧風の男「味噌ではなくてあくまで味噌を作る過程で出来る汁で、コレがなかなか珍味と言うか美味いと評判になって公家の方や高貴な方達の間で食べれるようになった物でございます」
信長「へぇ、そうなんだ」
あっ、たまり醤油って言うのは元の時代で聞いた事があるよ。アレってお味噌が元になっていたのか。
僧風の男「はい、作ろうとして作っている訳ではなくて偶々味噌を作る過程で少し出来るくらいの物ですから、なかなか値段も高くて見る機会が無くても不思議ではございませんな」
信長「へぇ、醤油ってヤツも高いのか」
僧風の男「はい、それをこのような形で使ってこのような物を作り上げるとは、なかなか見事と言う他ありませんな」
信長「まあ、砂糖も高いし高い物と高い物を合わせてばソレは美味くてもオカシクないか」
信長にいちゃんはお坊さまの話を聞いてそう話しました。
僧風の男「そうとも言えませんぞ」
信長「んっ? 言えないってどう言う事だ?」
僧風の男「確かにドチラも高価な物ではございますが、ソレを合わせれば必ず美味い物になると言う訳ではなく、例えば味噌に甘い砂糖を足して美味しくなると思いますかな?」
信長「んっ? それは……食った訳ではないが塩っ辛い物に甘い物を混ぜても変な感じになるような気がするな」
僧風の男「まさにそう言う事でございます。塩辛い醤油に甘い砂糖を混ぜようなどと誰も思いもしないでしょうし、その誰も思わない事を行ってここまでの味に仕上げるには一体どれほどのご苦労があった事か……いや、弟君の歳を考えれば、苦労と言うより天才と呼ぶのが相応しいのやもしれませんな」
信長「それほどか……?」
僧風の男「それほどの物でございますな。コレであれば帝に献上してもオカシクない、それほどの一品であると私は思いますな」
信長「帝って……いや流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
まあただのおだんごだしね。
僧風の男「そんな事はございませんぞ。ただの庶民のオヤツをここまで見事な菓子にまで昇華なされたのです。コレは天下一品の団子だと私は思いますな」
信長「そうか。まあ勘十郎の団子が美味いと言う話なら確かに美味いし、そんな褒め言葉が出てもオカシクないか」
えへへ、褒められちゃった。
おっと、信長にいちゃんの分も作りましょう。
勘十郎「それでは、ドォーーン! はい。できあがり。吉法師にいちゃんどうぞ」
できあがったお団子を信長にいちゃんの前に差し出してあげました。
信長「おっ、悪いな。それじゃあ。ぱくり……うん、美味い!」
信長にいちゃんは僕が出してあげたおだんごを美味しそうに食べ始めました。
僧風の男「おや? お侍さまの団子はコレとは違うのですな」
僕が出してあげた信長にいちゃんのお皿を見てお爺さんがそう話しました。
信長「おう、この団子もなかなか美味いぞ。ぱくぱく……」
僧風の男「左様でございますか。ソチラの物は団子にあんこを乗せているのでございますな」
信長「ああ、コイツの作るあんこも甘くて美味いぞ。ぱくぱく……」
僧風の男「左様でございますか」
おっと、コレは信長にいちゃんにだけ特別な物を出したと思われたら困るし、チャント説明しておいた方がよさそうだね。
勘十郎「ええと、お坊さまにお出しした物がのぶ……吉法師にいちゃんに出した物より劣るとかそう言う事ではなくて、お坊さまに出したおだんごが僕の作るおだんごの基本の物なの」
僧風の男「コレが基本でございますか?」
勘十郎「うん、まずはそれを食べて貰ってソレから他の物を順番に食べてもらっているのだけど、吉法師にいちゃんはあんこのお団子が一番好きだから、好きな物を食べてもらうのが一番だと思って吉法師にいちゃんにはあんこのお団子を出したの」
よもぎあんのお団子も食べてもらったけど、よもぎ入りのおだんごより普通の白いおだんごの方が信長にいちゃんは好きみたいなんだのよね。それで普通のあんこのお団子を出してあげたの。
僧風の男「左様でございますか」
勘十郎「うん、僕はお坊さまに出したそのみたらし団子が一番好きだし、劣るとか手抜きでソレを出した訳じゃないの」
僧風の男「いや、このような素晴らしい物をいただいて劣るとかそのような事を考えた訳ではないのですが、なるほど弟君の中ではそのようなしきたりみたいな物があると言う事でございますな」
勘十郎「うん」
どうやら劣る物を出したと思われなくて済んだみたいです。
おっと、チヨと桜も食べたそうにしているし、そちらもなにか作らないと……。
勘十郎「それでは、ドォーーン! もう一つオマケに、ドォーーン! はい。できあがり。チヨ、桜、どうぞ」
僕は続けて2つ作るとチヨと桜の方に差し出してあげました。
ちよ「若様、ありがとうございます。サクラさん、どうぞ」
桜「……こくこく、ぱくぱくぱく……」
受け取った片方の皿をチヨが桜の方に回してあげると桜がパクパクとそのおだんごを食べ始めました。
ちなみに2人にはお坊さんと同じみたらし団子を出してあげたのだけど、まああまり差をつけるのも良くないみたいだし今回はコレで我慢してもらいましょう。
僧風の男「それにしてもこの団子が見事なのは先ほども話しましたが、この団子が乗っている皿の方もなかなか見事な物でございますな」
お爺さんがおだんごが乗っている皿を手に取って見ながらそう話しました。
信長「そうなのか?」
僧風の男「コレはドチラで買われた物でございますか?」
勘十郎「えっ、それは買った訳ではないのだけど……」
いきなりそんな事を聞かれて僕は驚いてしまいました。
ちよ「あっ、そのお皿は若様が作られた物ですよ」
僧風の男「若様って、まさかこの皿を弟君が作られたのですか?」
ちよ「はい、そうみたいです」
あー、確かにお茶碗の方は小箱の中にたくさん入っているけど、お皿の方はおだんごと一緒に作っていると言えば作っている事になるのかな。
信長「なに? この皿も勘十郎お前が作っているのか?」
勘十郎「うん、でもこのお皿って僕のおだんごを出すだけの、おだんごを食べてもらう人用の物だからたいした物じゃないよ」
信長「ああ、皿とか茶碗って土を捏ねて焼けば出来るらしいからそんなに難しい物ではないのか」
勘十郎「うん」
僧風の男「これがたいした物ではないと……いや、そう言われるとこの皿にも銘や印なども見当たりませんな。なるほど、そう言う事でございましたか……」
お坊さんがなんだか驚いた顔をしてお皿を見ています。
僕が見た感じ100均で100円とか多少高くて300円くらいで買えるような物だと思うからそんなに感心するような物ではないと思うけど、柄とかなにがそのお坊さまの好みだったりしたのでしょうか?
驚くお坊さまを見ながら僕はそんな事を思うのでした。




