2ー12話
ドン。
信長「おっと、悪いな」
昼食を食べ終え、町に出て来た俺は道を歩いている途中で誰かと肩がぶつかりソイツにそう話した。
僧風の男「いや、拙僧も周りを見ていて気が付きませんでした。申し訳ございません」
肩がぶつかったソイツも俺にそんな事を話して来た。
信長「坊主か、この辺りでは見ない顔だな」
僧風の男「はい、知り合いに呼ばれてソチラに行った帰りに偶々この辺りを通っていたのです」
信長「そうか」
町の見回りをするようになってからオカシナ奴とか気になる奴には一応声をかけるようにしていたが。
まあ多少胡散臭そうではあるがそんなに悪いヤツには見えないしコイツは大丈夫だろう。
信長「おっ、そうだ。坊主の爺さん、お前茶とかしているか?」
僧風の男「茶ですか? 嗜む程度ではございますが多少の心得はございますぞ」
おっ、良い事を聞いた。
ならこの坊主の爺さんにも聞いてみるか。
信長「それならこの茶碗がいくらするか分かるか?」
俺は懐に入れていた勘十郎から貰った茶碗を取り出すとその坊主の爺さんにそう尋ねた。
僧風の男「茶碗ですか? ほぉ、コレはなかなか見事な茶碗でございますな」
その坊主の爺さんは俺が渡した茶碗に少し驚いたらしくソレを見ながらそう話した。
信長「坊主の爺さんならソレにいくらの値段を出す?」
僧風の男「この茶碗の値段ですか?」
信長「ああ、いくつか店を回って同じ事を尋ねてみたが、ある店では30文、別の店では200文と店によって値段がバラバラでドレが本当の値段なのかサッパリ分からん。茶をやっているのなら坊主の爺さんはそう言う事にも詳しいだろうし、それならいくらでその茶碗を買うか?」
いったい親父たちが勘十郎にどのくらいの値段の茶器を買い与えているのか少し気になって、こんな事をしてみたがこの爺さんならもしかするとその辺の店より詳しいかも知れないな。
僧風の男「そうですか。私なら、そうですな……ふむ、10文と言った所でしょうか」
その爺さんはさんざっぱらその茶碗を眺めてそんな事を話した。
信長「10文って、今までで一番安いじゃないか」
ちなみに1文は住んでいる地域や買う物によって多少価値が変わるが今の値段にすれば概ね25円くらいで10文と言えば250円くらいになるのだ。
百均の少し良い物くらいに言われたのだから吉法師は少し驚きそう言葉を漏らした。
僧風の男「そうですな。もう少し値を上げたいと言うのなら、この茶碗が入る小箱を買うなり作るなりすれば50文くらいで売れるかも知れませんな」
信長「んっ? 箱ってそんなに高かったか?」
僧風の男「そう言う訳ではございませんが、その箱に適当に誰かの名前でも書いておけば、300文くらいにはなるかも知れませんな」
信長「はぁああ? 名前を書いただだけでなんでそんなに高くなるんだよ?」
元々10文の物が箱に入れて名前を書くだけでなんでそんなに高くなるんだよ。この爺さんなにを言っているかサッパリ分からないぜ。
僧風の男「もしお侍さんの父親が足軽組であれば400文くらいになるかも知れませんな」
信長「なに? また値が上がるのか?」
僧風の男「もし侍大将くらいであれば600……上手くすれば800文くらいで売れるかも知れませんな」
信長「はぁああ? 800文って……」
僧風の男「もしお侍さんが大名のご子息であれば、2貫……いや3貫出しても買う者がいるかも知れませんな」
2貫って、2000文って事か?
この爺さんふざけているのか?
信長「爺さん俺を揶揄っているのか?」
僧風の男「そんな事はございませんぞ」
信長「ならなんでそんなに値段がコロコロ変わるんだ?」
もしふざけた事を抜かしたらただじゃ済まさねぇからな。
僧風の男「この茶碗は確かに良い物ではございますが、残念ならがらドコにもコレを作った者の名が掘られておりません。いくら良い物でも誰が作ったか分からない物にお金を出す者はそうはいないと言う事ですな」
信長「ほぉ、そうなのか」
僧風の男「はい、しかし良い物であるのは間違いありませんし、箱に入れるとか少し見た目を良くしてあげれば多少の値がつく」
信長「へぇ、箱に入れろと言ったのはそう言う事か」
僧風の男「はい、その箱に名を書けばソレが誰だか分からなくても一応チャント茶碗かなにかを作っている者だと分かり相応の値段になります」
信長「なるほど」
僧風の男「そして、それを持っていた方が侍大将や大名などの有名な方となると、それが信用になって更にその茶碗の価値が上がると言う事でございます」
信長「なるほど、流石は坊主だ、なかなか面白い事を言うな」
僧風の男「世の中だいたいそのような事で物の価値や値段は決まっていくのではないでしょうか」
へぇー、面白い事を言う坊主だな。
信長「なかなかためになった。そうだ、爺さん面白い話を聞かせて貰った礼によければ家に来ないか」
僧風の男「お侍さまの家にですか?」
信長「おう、俺は茶の事などサッパリ分からんが俺の弟がそれなりに茶を嗜んでいてな。茶ぐらいは飲ませてやるぞ」
僧風の男「ほぉ、お侍さまにはそのような弟がいらっしゃるのですか」
信長「おう、茶の味は俺には分からんがアイツの作る団子は天下一の団子だ。アイツが作った物以上に美味い団子なんて俺は食った事はないし、その団子を食わせてやるぜ」
僧風の男「ほぉ、そのような話を聞かされたら行かない訳にはまいりませんな」
信長「よし、それなら爺さんついて来い」
僧風の男「ほほほ、これはなにやら楽しい事になりましたな。ほほほ」
そうして俺はその爺さんを家に連れて帰るのだった。




