2ー11話
それから更に数日後。
土田御前「お昼の分のお米は炊けているわね?」
台所に来た土私はソコにいる女中たちにそう言葉をかけました。
女中その1「はい、もう少しで炊き上がります」
土田御前「そう、あら? コレはなにかしら?」
勘十郎ちゃんがお昼にもみんなにご飯を食べさせてあげてと話してから私はこうして昼前になると使用人達に食べさせるおにぎりの分のお米がチャント炊けているか確認をしに見に来ていたのですが、その台所の脇に見慣れぬ茶色い何かが皿いっぱいに乗っているのが目に入りそう尋ねました。
女中その1「あっ、それは勘十郎若様が差し入れてくださった、唐揚げです」
土田御前「えっ? 唐揚げってなにかしら?」
そんな物は初めて見るし唐揚げと言う言葉にも聞き覚えがなく私は困惑しながらその女中にそう聞きました。
女中その1「鶏肉に衣を付けて油で揚げた物らしいのですが、凄く美味しい物ですね」
土田御前「勘十郎ちゃんはそんな物を作っていたの……」
そんな話は初めて聞いたのだから私は驚いてしまいました。
女中その1「あら? 奥方さまは知らなかったのですか?」
土田御前「ええ、勘十郎ちゃんは色々な珍しい物を作ってくれるけど、初めて見たわ」
女中その1「そうだったのですか。勘十郎若様がおにぎりを渡す時にコレも一つづつ渡してあげるようにと仰られて、最近お昼前になるとこうして持って来てくださるのです」
土田御前「そうだったの」
女中その1「はい、とても美味しくてみんな喜んでいますよ」
土田御前「そうなの、私も一つ貰って良いかしら?」
女中その1「どうぞ。勘十郎若様はたくさん作ってきてくださいますし、一つや二つ食べて頂いても大丈夫ですよ」
土田御前「そうなの。それじゃあ一つ……ぱくり……まあ! コレは!」
一口唐揚げを食べるとその瞬間口の中にジューシーな鶏肉の味が広がりその味に驚き私は思わずそう言葉を漏らしてしまいました。
女中その1「どうですか?」
土田御前「驚いたわ。いえ、勘十郎ちゃんが作ってくれる物はどれも美味しいけど、コレほどの物とは思っていなかったわ」
見た目的には茶色い色をした塊で美味しいと言われても微妙に見えたけど食べてみるとコレほど美味しい物などそうそう無い、と言うか今まで勘十郎ちゃんが食べさせてくれた物の中で一番美味しいのではないかしら。
女中その1「ホントに凄く美味しくて余った物はみんなで取り合いになるほど凄い人気ですよ」
土田御前「そうなのね。ぱくぱく……ごくん。うん、とっても美味しかったわ」
コレほど美味しいのなら取り合いになるのも納得ですね。
女中その1「本当にとても美味しいですよね」
土田御前「そうね。こんな物を作っていたなんて……それじゃあ私は戻るけど後の事はよろしくね」
女中その1「かしこまりました。あっ、奥方さま」
土田御前「あら? なにかしら?」
女中その1「こうして私たちの分までお昼に食事を出して頂いてみな感謝しています、本当にありがとうございます」
その女中に呼び止められて私がそう尋ねるとその女中が頭を下げながらそう話しました。
土田御前「あっ、その事ね。うん、みんながお腹いっぱいになって元気に働いてくれたらそれで良いわ。午後もシッカリ励んでね」
女中その1「はい。こんなに美味しい食事を出して頂いたら気張らぬ訳にはまいりません。みな気合を入れて頑張りますよ」
土田御前「そう、それは良かったわ。それじゃあまた」
女中その1「はい」
その女中のそんな言葉を聞きながら私は台所を後にするのでした。
コレは大変な事になってしまいましたね。
歩きながら私はそんな事を考えるのでした。
◇◇
信秀「う〜む」
奥の間で信秀が腕を組み難しい顔をしながらそう言葉を漏らした。
土田御前「お前さま、いま台所に行ったら……あら? それはなんですか?」
台所から奥の間に戻って来ると夫の信秀が難しい顔をして畳の上に置かれた物を見ていました、何かと思い私はそう尋ねました。
信秀「コレか、コレは勘十郎が作って来たのだ」
土田御前「勘十郎ちゃんが作ったのですか?」
夫の前には服らしい物が広げて置かれているのは分かるけどソレを勘十郎ちゃんが作ったと言われても直ぐにはピンと来なくてそう言葉が出ました。
信秀「うむ、なにやら儂の服が欲しいとねだられてな、仕方ないから着なくなった物をいくつか渡してやったのだが、そしたらこんな物を返しに来たのだ」
土田御前「そうなのですか、そんな服は初めて見ましたがいったいなんなのですか?」
見るからに着物とは違う作りのその服を見て私は首を傾げながらそう尋ねました。
信秀「コレは作業服という物らしい」
土田御前「作業服ですか?」
信秀「作業をする時に着る服らしいが、鎧を着る時にコレを下に着て、と言われたな」
土田御前「あっ、鎧の下に着る服ですか。しかしその服はどうやって着るのかしら?」
信秀「ああ、この胸の真ん中の所にファスナーと言う物が付いていて、この摘みをこうして上げたり下げたりするとその左右に付いている小さな鉄が噛み合って開いたり閉じたりする。らしい」
土田御前「まあ、随分と手の込んだカラクリが仕込んであるのですね」
その作業服の上半身中央に付いたファスナーと言う物を開けたり閉めたりしてみせた夫に私は驚きながらそう話しました。
信秀「うむ、このファスナーと言う物も凄いが、この作業服には防刃加工+2と耐熱耐炎加工+1と言う物が付いているらしくて、刀で斬っても切れない布を使っているそうだ」
土田御前「刀で切れないって……」
信秀「コレより劣る防刃加工+1と言うモノが付いた試作の服を試しに巻藁に着せて刀で斬ってみたのだが、かなり丈夫で切りずらい物であったな」
土田御前「切れたのですか?」
信秀「うむ、勘十郎も儂に渡す前に試していたらしいが勘十郎の力ではその服の方でも切れなかったらしいが、まあ儂の方が力はあるし少し力を込めたら切る事は出来たな」
土田御前「そうなのですか」
信秀「うむ、とは言え他の布と比べると丈夫で軽く刃を当てて引いただけでは切れんし、儂に渡したこの服の方は更に丈夫で切れない物になっているらしい」
へぇー、そうなのですか。
土田御前「それは試してみたのですか?」
信秀「いや、コレは試してないな」
土田御前「試してないのですか?」
信秀「それは、あんな目にキラキラさせて凄い服が作れたから着てと話している物に傷を付けるのはどうかと思って、出来んかったのだ」
土田御前「そうなのですか」
勘十郎ちゃんが頑張って作ってくれた物にそんな事をするのはこの人も抵抗があったのかしら。
信秀「それに鎧の下に着るのならソコまでせんでも問題はないし、コレより劣る試したあの服の方でも十分な気がするから、まあそんな訳だ」
土田御前「そうですか」
この人も勘十郎ちゃんには甘い所があるから普通に丈夫な服ならソレで良いのかも知れませんね。
信秀「しかし、コレはとんでもない物だな」
土田御前「そうですか」
信秀「うむ、普通の布より多少重いがこんな柔らかい服でナゼ刃が通らんのか訳が分からん」
土田御前「ソレを触らせてもらっても良いですか?」
信秀「うむ、構わん」
土田御前「それでは失礼して……あら、なんだか普通の着物より柔らかくて着心地が良さそうな服ですね」
信秀「そうなのだ。どうやってこんな布を織ったりこんな形にこさえたのか全く分からんが、凄い物だな」
土田御前「そうですか……お前さま実は、」
信秀「待て、言わんでも分かるからソレは話さなくて良いぞ」
えっ? 言わなくて良いって、どう言う事かしら?
信秀「勘十郎がこんな服まで作れるとなると、もし寺に預けてその寺の僧が敵方の兵にこんな丈夫な服を売り始めたら面倒な事になるのは間違いないしな」
土田御前「あっ、そう言う事ですか」
信秀「うむ、しかも勘十郎のヤツはコレより丈夫な服を作る気でいるらしくてもっと良い物が出来たらまた持って来るとか話していたから、敵方にそんな服を着た兵がうじゃうじゃいたら倒す事もままならなくなるし面倒な事この上もないから、よほど凄い術者を見付けるまでは寺に修行に出すとか言わないからソコは心配しなくて良いぞ」
土田御前「あっ、そうですね」
私は勘十郎ちゃんを寺に修行に出すのは反対だけど、この人も勘十郎ちゃんを寺に出す事の危険性が少し分かったみたいですね。
信秀「んっ? そうですねって、その話ではないのか?」
土田御前「ええ、実はさっきお昼のお米が炊けているか台所に見に行ったのですが、勘十郎ちゃんが使用人たちにおかずを作ってあげているみたいなのです」
信秀「はっ? いやいや待て待て! アイツは儂らの分を作るだけで精一杯と言う話ではなかったか! なんでそんな事が出来るのだ!?」
案の定この人も驚いています。まあ私もさっき聞いて凄く驚いたのですけどね。
土田御前「そうですよね。でも鶏の卵より一回りか二回りくらい小さな鳥の肉に衣を付けて油で揚げた物を一人に一つづつ配るようにしているみたいですから、朝晩の食事ほどおかずを作っている訳ではないのですが、それでも結構な量になりますよね」
信秀「そうか。しかし儂らの分を作って家臣の分までとなると、勘十郎は大丈夫なのか?」
土田御前「数日前からそんな事をしていたらしいので大丈夫なのかも知れませんが、後でチヨに聞いてみる事にしましょう」
信秀「うむ、それが良いな」
この数日勘十郎ちゃんがそれほど疲れているようには見えなかったけど、コレは確認しておいた方が良さそうですね。
土田御前「その食事もそうですが、お前さまに作ったその服も絶対に普通に作った服ではなさそうですね」
信秀「そうだな。こんな服など見た事はないし、術かなにかで作り出した物なのだろうな」
土田御前「勘十郎ちゃんは凄いですね」
信秀「うむ、全くとんでもないな」
私たちが思っていた以上に勘十郎ちゃんは色々な事が出来るみたいです。
改めてそんな事を思うのでした。




