5話
ちよ「若様、出て来てください」
扉の向こうからチヨの声が聞こえました。
勘十郎「イヤ!」
チヨに追い付かれそうになったので僕は近くにあった蔵の中に隠れる事にしました。
ココならチヨに捕まる事はないよね。
僕も外に出れないけどね!
ちよ「分かりました。誰にも話しませんから出て来てください」
チヨは諦めたのかそんな事を話して来ました。
勘十郎「……ホントに?」
ちよ「ホントです。若様に知らないと言われたらどうする事も出来ませんし、誰にも喋りませんから出て来てください」
むむむ、コレは信じて良いのだろうか?
いや、のこのこ出て来た所を捕まえられてみんなの前で自白するまで問い詰められるってパターンなのじゃないだろうか。
勘十郎「……やっぱりイヤ!」
ちよ「嫌って、本当に誰にも喋りませんから出て来てください」
うーん、チヨが困っているみたい。
僕をお寺に売ろうとしたのが悪いんだけどね!
ちよ「本当に誰にも喋りませんよ、お願いだから出て来てください」
うーん、そのまで言うのなら信じてあげる事にしようかな。
嘘だとしてもとぼけちゃえば問題なさそうだし。
それにこの蔵の中って暗くてチョット怖いものね!
と言う訳で僕は蔵から出て行く事にしました。
ちよ「あっ、若様、良かったぁあ」
チヨが出て来た僕を見てホッとした様な顔をしてそう話しました。
僕が悪い訳じゃないけどね!
勘十郎「もし嘘だったら絶交だからね?」
ちよ「分かりました。誰にも話しませんから信じてください」
ふむ、そこまで言うのなら信じてあげる事にしましょう。
僕は度量の大きな男の子だからね!
ちよ「それにしても若様があんな術を使えるなんて、チヨはビックリしてしまいました」
勘十郎「えへん。凄いでしょう」
ちよ「そうですね、若様は他にどんな術が使えるのですか?」
勘十郎「えっ、あの2つだけだよ」
その他にも鼓舞ってスキルがあるけど、アレは気合を入れてやる気にさせるだけのモノだから大した術ではなさそうだし。
それに使ってみてもソレが術なのか証明するのも難しそうだしね!
ちよ「そうなのですか、そよ風を吹かせる術と小屋を出す術の2つを使えるのですか」
勘十郎「そよ風って……今はそうだけどそのうち凄いスキルになるの」
多分だけどね!
ちよ「そうですか。あの小屋の方は何か特別な小屋なのですか?」
勘十郎「えっ、アレは茶室なの」
ちよ「ちゃしつってなんですか?」
勘十郎「お茶を飲む為の部屋かな」
ちよ「ええと、お茶ならあんな小屋じゃなくてもどこでも飲めますよね?」
勘十郎「そうだけど、この先あんな感じの茶室でお茶を飲むようになるの」
ちよ「それも天狗に教えて貰ったのですか?」
勘十郎「それは天狗に教わった訳じゃないけど、僕は知っているの」
僕は遥か未来から来たのだからそのくらいは普通の知識として知っているんだ。
他の人には言えないけどね!
ちよ「そうですか……あの小屋をもう一度出して見せて貰う事は出来ますか?」
勘十郎「だからあれは小屋じゃなくて茶室ないの」
ソコは大事な所なのでハッキリ言いました。
ちよ「あっ、そうでしたね。その茶室をもう一度見せて貰う事は出来ますか?」
勘十郎「そんなに言うのなら見せてあげても良いけど、それじゃあお部屋に戻ろうか」
ちよ「あれは部屋の中ではないと出せないモノなのですか?」
勘十郎「えっ、そんな事はないと思うけど……」
秀吉さんの黄金の茶室は基本的に室内で使う物らしかったけど、それと全く同じ物とは限らないし外でも問題ないのかな。
黄金の方が派手でカッコ良かったかもだけどね!
勘十郎「それじゃあ出すね。茶室召喚!」
僕はチヨに茶室を見せてあげる事にしました。
ちよ「わっ、また出た。若様は本当に妖術を使えるのですね」
勘十郎「うん、あれ? 妖術ってなに?」
ちよ「ええと、人が使う術は法術とか神通力と言って、天狗が使う術は妖術になるのかと思ってそう話しました」
勘十郎「そうなんだ、でも普通の人間の僕が使えるんだから法術になるんじゃないの?」
ドチラでも構わない気はするけど、イメージは大事だからね!
ちよ「そうなのかしら……」
勘十郎「妖怪と思われたら困るからコレは法術なの」
ちよ「そうですね。変な噂になっても困りますし法術と言う事にしておきましょう」
チヨが話さなければ噂になる事はないんだけどね!
ちよ「こうして見ると、小屋とかお神輿の櫓みたいに見えますね」
勘十郎「そだね」
ちよ「この中を見せて貰えます?」
勘十郎「いいよ。僕もまだ見てないしどんなのか気になるしね」
ちよ「そうなのですか?」
勘十郎「うん、さっき初めてコレを出して中を見ようとしていたらチヨが来たからまだ見てないの」
ちよ「そうだったのですか……」
そうでーす。まあ追いかけっこしているみたいで少し楽しかったからソレは許してあげる事にしましょう。
僕は五歳児だから追いかけっことかかくれんぼは好きだしね!
勘十郎「それじゃあ障子を開けるよ」
ちよ「はい」
勘十郎「それではオープン」
僕はそう話すと茶室の正面中央に2枚並んで付いている障子を動かして開けました。
ちよ「あら、可愛らしいお部屋ですね」
中の様子が見えたのかチヨがそう話したよ。
勘十郎「茶室だからこのくらいの広さなの」
確か茶室って畳三畳とか四畳とかそのくらいの広さだった気がするよね。
僕は茶室に入った事はないけどね!
ちよ「そうなのですか」
勘十郎「そうなの、茶室の基本は侘び寂びと言って質素な感じのモノが好まれるらしいから普通の部屋より小さくなっているの」
この秀吉さんの黄金の茶室っぽい茶室の床には丁度畳が三枚しいてあるから多分そんな事なんじゃないかな。
黄金で作っていたらちっとも質素じゃないけどね!
ちよ「そうなのですか、あっ床の間とかもあるんですね」
チヨが入り口から見てその正面右奥の所に作ってある床の間を見ながらそう話した。
勘十郎「それがないとホントに小屋みたいな感じになって殺風景になっちゃうからそんなのが作ってあるんじゃないかな」
ちよ「そうなのですか、掛け軸とかお花が飾ってあって良い感じのお部屋に見えますね。小ちゃいけど」
小ちゃいは余計です。
本当に小ちゃいけどね!
勘十郎「見ているだけじゃなくて中に入って良いよ?」
ちよ「中に入っても良いのですか?」
勘十郎「僕も入りたいしお先にどうぞ」
レデーファーストの言う言葉もあるし僕は気配りの出来る男の子なのです。
ちよ「それでは失礼します」
勘十郎「はいどうぞ。さて僕も入ろうっと」
そうして僕とチヨは茶室の中に入りました。
んー、新しい畳の匂いがして良い感じ。
ちよ「左側には小さな机があるのですね」
勘十郎「そだね。ソコは僕の席かな」
その畳三畳の部屋には畳が一枚だけ縦にしかれた場所があってその奥の壁の手前に丁度畳の縦横の短い方の幅と同じくらいの横幅の机が置いてありました。
茶道具っぽい物がその机の上に乗っているけどソコはこの部屋の主人の僕の席だと思うので僕はその机の前に座る事にしました。
よいしょっと。
ちよ「なんだか机の上に鉄の壺みたいな物が置いてありますね」
チヨが興味津々と言った感じで机の上に乗っている物を見ています。
僕も興味津々だけどね。
勘十郎「そだね。あっ、中にお水が入っているみたい」
ちよ「あっ、ホントだ。なにに使うのかしら?」
その机の上の左の脇に置いてあるソレの蓋を開けると中に水が入っているのが見えました。
勘十郎「あっ、コレはお湯を沸かす茶釜なの」
ちよ「コレはお釜なのですか」
勘十郎「そう、お湯がないとお茶は作れないしその為の道具なの」
ちよ「そうなのですか。その脇に置いて蓋の付いた小さな湯呑みみたいな物は何ですか?」
勘十郎「コレは、お茶筒と言うか抹茶を入れておく棗と言う入れ物なの」
僕のスキルで出した物なので触るとその名前とか使い方が分かるみたい。
便利だね。
ちよ「そうなのですか、その脇にある耳かきみたいな物はなんですか?」
勘十郎「コレは、抹茶をすくってお茶碗に入れる茶杓なの」
ちよ「そうなのですか、その脇に置いてある小さな竹のカゴみたいな物はなんですか?」
勘十郎「それは、茶筅と言ってお茶碗に入れたお湯と抹茶をかきぜるモノなの」
小さな泡立て器みたいな形をした物を見ながら僕はそう説明してあげました。
ちよ「そうなのですか、若様は物知りなんですね」
勘十郎「えへん。僕は凄いのだ」
次々と説明してあげた僕にチヨが感心したようにそう話しました。
スキルで名前が分かっただけだけど褒められるのは嫌いじゃないし嬉しいから少し得意になっちゃいそう。
ちなみにその机の上にはあと一つ柄杓って言う茶釜で沸いたお湯を茶碗に注ぐ為の道具があるけど、柄杓は普通に使っているから特に説明の必要はないのかな。
普通の柄杓よりチョット小振りの物だけどね!
勘十郎「と言う訳で、お茶にしましょう」
ちよ「お茶ですか?」
勘十郎「そう、折角お茶があるのだから飲んでひと休みしましょう」
ちよ「えっ、でもチヨはお茶を入れた事はないのですが……」
勘十郎「大丈夫、ココは僕の茶室だから僕が作るの」
ちよ「えっ、若様が作ってくれるのですか?」
勘十郎「そうでーす。と言う訳で少し待っていてね」
と言う訳で僕はチヨにお茶を入れてあげる事にしました。




