2ー8話
土田御前「勘十郎ちゃんの茶室の奥にある、お風呂の入り口の脇に牛乳と言う飲み物が出て来る自動販売機と言う物がありますよね」
若様の茶室の奥の部屋で見た物を思い出して奥方さまがそう話しました。
信秀「んっ、ああ初めは牛の乳を飲むのはどうかと思ったが飲んでみたら意外と美味いと言うか、儂はあのコーヒー牛乳と言う物が一番好きであるな」
私はフルーツ牛乳が一番好きです。
あれ甘くて美味しいですよね。
土田御前「あれは牛の乳を人が飲めるように加工して美味しく飲めるように味付けした物らしいですが、チヨの話ではあの自動販売機は初めは無かったそうですよ」
信秀「そうなのか?」
土田御前「ええ、勘十郎ちゃんの術が初級から中級に上がった時に増えたらしいです」
信秀「ほぉ、そんな事があったのか」
土田御前「無かった物が現れたのならそれは勘十郎ちゃんがソレを作ったと言う事になりますよね」
信秀「んっ? それは……いや、天狗が追加で与えてくれたのかも知れないぞ」
土田御前「勘十郎ちゃんのあの部屋の中に天狗が忍び込んでそんな物を置いて行ったのですか?」
信秀「無い物があったのならそうなるのではないか? あんな物は普通の人には作れんだろうしな」
確かに若様があんな物を作っている所は見てないからそうなのかしら?
土田御前「その可能性もない訳ではありませんが、チヨの今の話ではお風呂も下から泡が出たりジェットバスみたいな物も無かったらしいですよね?」
信秀「むっ、ならばその自動販売機を置きに来たついでに風呂も手を加えてそんな装置を付けてくれたのかも知れんな」
土田御前「勘十郎ちゃんの作れるお団子の種類も増えましたよね」
信秀「むむむっ、ならソコも追加で増やして行ったのではないか」
土田御前「その天狗はナゼそんな面倒な事を色々しに来たのですか?」
信秀「そんな事は儂には分からんが、勘十郎が頑張っているみたいだから褒美にそんな物をくれたり色々直してくれたのではないか」
土田御前「勘十郎ちゃんが頑張っていると言うのはそうかも知れませんが、天狗が誉めるような事を勘十郎ちゃんはなにかしましたか?」
信秀「むむっ、それはあの戦の折に儂たちに団子をたくさん作って届けてくれた。その親を思う気持ちをよしとしてそんな物をくれたのではないか」
土田御前「そのくらいの事で宝具をくれると、お前さま本気でそんな事を思っているのですか?」
信秀「いや、その他に考えようもないし、色々変わったのならそう考えるのが普通であろう」
確かにそう言われると天狗が作って持って来たと言うのは少し違う気がします。
土田御前「そうですか。それでは決定的な事を今から話しますね」
信秀「むっ、それはなんだ?」
土田御前「お前さまは勘十郎ちゃんのあのお風呂の横にあるトイレに入った事はありますか?」
信秀「そのくらいはあるが、しかしアレは少ししづらいと言うか便器の中に上手く尿を放つのが難しくて勘十郎に床を汚しちゃダメとか叱られたりするのだが、あれはもそっとなんとかならない物かな」
土田御前「女の私からすると一々しがまなくて済みますから慣れると意外と楽で良い物ですよ」
確かにあのトイレに慣れてしまうと他のトイレを使うのがチョット嫌になってしまうんですよね。
信秀「そうなのか」
土田御前「男女兼用の物らしいので多少の不便は目を瞑って貰うとして。その話は兎も角としてアレは天狗が使うのはかなり使いづらいトイレですよね?」
信秀「そうか? 床を汚すとか考えなければ広くはないが狭くもないし、しづらいと言う事はないのではないか?」
広さ的には普通なのかしら? 両手を左右に広げられるほど広い訳ではないけど肘を広げられるくらいの横幅はあるし特に困るような事はないですよね。
土田御前「広さは兎も角としてあの便器の後ろには水を溜めてあるタンクと言う物が置いてありますよね」
信秀「うむ、あの脇のツマミを捻ったりトイレットペーパーと言う尻を拭く紙が置いてある場所の近くのボタンを押すだけで水がそのタンクから便器の方に流れて来て便器の中を綺麗にしてくれる、なかなか良く出来た物だな」
土田御前「はい、人が使う分には問題ありませんが、天狗には羽があるのですからあんな物がソコにあったら座って用をたす事は出来ないのではないですか?」
信秀「むっ、羽か……いや羽があっても多少の距離があるから座れん訳ではないし、ちょうど背もたれくらいの感じで座れない訳ではないのではないか?」
土田御前「でもジャマなのはジャマですし、それならもう少し下の方に付けるとかもっと後ろの方にそのタンクの位置をズラした方が楽に用がたせますよね?」
信秀「まあそうかも知れんが、言うほど困らんからあの位置にそんな物がこさえてあるのではないか」
土田御前「そうですか。ならあのトイレには蓋が付いていますが、アレはどう思いますか?」
信秀「蓋か、いちいち上の蓋とか腰を下ろす中蓋を上げたり下げたりするのはちと面倒だが、まあそう言う物らしいしそうかと思うくらいだな」
土田御前「そうですか、あの上の蓋を開けて座ろうとすると天狗の羽がその蓋に当たって座る事は出来ないですよね?」
信秀「むっ、それは……」
土田御前「タンクの方は一応座る事は出来るのかも知れませんが、あの蓋は絶対に羽に当たって座るのは難しいのではないでしょうか?」
信秀「むむっ、まあ体を前に倒して座れば出来ない訳ではないと思うが、お土は何を言いたいのだ?」
土田御前「あの蓋が外せて横に置けるとかそうした方が天狗でも使いやすいとは思いませんか?」
信秀「ふむ、確かにその方が使いやすそうではあるな」
土田御前「でもあのトイレにはあんな蓋が付いているのです。あれは人が使う事しか考えてない作りになっているとは思いませんか?」
信秀「まあ基本、勘十郎が使うだけの物らしいからそれで問題ないのではないか」
土田御前「そんな事まで天狗が考えて作って与えると思いますか? 蓋を横に置けば済むモノをわざわざくっ付けて蓋が外れないように作り変える必要はないですし、そもそもソコに蓋なんて付けない方が面倒がなくて良いではないですか」
信秀「必要はないと言ってもそうなっているのだから仕方あるまい」
トイレの蓋くらいの事でアレコレ言われてお殿様は少し面倒くさそうにしていますね。
でも奥方さまの話している事は確かにその通りだと思います。
土田御前「でも、アレを勘十郎ちゃんが作ったと考えればそんな疑問は無くなりますよね」
信秀「勘十郎が作っただと?」
土田御前「ええ、トイレの使い方の説明をしてくれた時に蓋を閉めれば匂いがトイレの中にこもらなくて良いとか勘十郎ちゃんが話してくれましたよ」
信秀「なら天狗もそんな理由で蓋を作っていたのではないか?」
土田御前「匂いがこもらないとは言いますが、あのトイレには換気扇とか言う中の匂いを外に吸い出す宝具もありますから蓋なんて必要ないですよね?」
信秀「んっ? それならなんで蓋があるのだ?」
土田御前「蓋のあるトイレを作った後に蓋を閉めただけだと匂いが残るからそんなのを後から付けたのではないですか」
信秀「おお、そう考えれば不思議ではないな」
土田御前「それならナゼあのトイレには蓋があるのですか?」
信秀「だから換気扇を作る前に気が付かなかったと言う話だっただろう」
土田御前「天狗は換気扇が付いているトイレのある家で暮らしているのだとしたら蓋なんていらない事にとっくに気付いている筈ですし、初めから蓋なんて付けないのではないですか」
信秀「むむっ、それは……」
そう言われるとお殿様も少しオカシク思ったのかそう呟きました。
土田御前「でも勘十郎ちゃんが作ったとしたらそんな疑問はなくなりますよね? その順番で追加で作ったのですから蓋があってもなにもオカシクなくなりますよね」
信秀「むむむっ、それは……」
土田御前「その他の事もそうです。色々な種類のお団子が食べたいと思ったから他の団子も出て来る小箱に変わったとか、お風呂の方もただお湯を張っただけの物よりも下から泡が出たり横から水が噴き出す方が面白くて楽しいとか、そんな事を考えてあの奥の部屋があんな形に変わった。そう考えた方が天狗が忍び込んで直したと言うよりもスンナリ納得出来るのではないですか?」
信秀「むむむっ、しかしそんな事まで勘十郎に出来るか?」
まあ初めから若様は初級から中級になってそう言う事が出来る物が増えたって話していたから、奥方さまの話した通りなんでしょうけどね。
土田御前「極め付けはあのドコでもドアーとか言う茶室の奥の部屋に繋がっているあの扉です。アレはオカシイですよね」
信秀「オカシイと言えばオカシイが、宝具とはその様な物ではないか?」
土田御前「あの扉はなんのためにあるのですか?」
信秀「それは、あの茶室の床の間の隠し扉から出入りしたら法術の事が儂らにバレてしまうからバレないようにそんな扉が出来たとか、確かそんな話ではなかったか」
確かにそんな事を聞かれてそう答えた気がします。
土田御前「バレないって、確かにアレがあれば茶室の中に隠し扉がある事はバレないのかも知れませんが、あの扉が別の場所に飛んで行く宝具みたいな物だと言うのは一発でバレてしまいますよね」
信秀「そうか? 上手い事、壁の手前に置いてあるからその壁にそんな扉が付いていると誤魔化す事は出来るのではないか」
土田御前「知らない人なら誤魔化す事は出来るのかも知れませんが、私たちは勘十郎ちゃんの部屋の事は全部知っているのですよ? ソレをイキナリこんな所に扉があるのを見付けたとか言われても、どこからその扉を持って来たの、と言う話に普通はなるのではないですか?」
信秀「まあ、普通はそうなるか」
まあ私もソレはどうなのかしらって思ったくらいですから気が付かれても仕方ないですよね。
土田御前「そうなんです。アレでバレないと思っているのは勘十郎ちゃんだけなのです」
信秀「勘十郎だけって……」
土田御前「良いですか、そもそも事の始まりはお前さまが戦から帰って来た時にお前さまの体が汚れていたから、それを綺麗にしてあげたいと勘十郎ちゃんが思ってあの茶室の奥のお風呂にお前さまを入れてあげた事からこの事が始まったのです」
信秀「うむ、あのおかげで随分スッキリしたと言うか、普通なら何日もあの匂いが体から抜けなくて嫌な気分になったりするのだが、あの風呂に入れてくれたおかげでその日のうちにその匂いが綺麗サッパリ落ちて、なかなか良いモノであったな」
土田御前「そうですね。でもその後にお前さまは私たちまでそのお風呂に入れてくれるように勘十郎ちゃんに頼んでしまったのです」
信秀「それはまああんな気持ちの良い風呂など儂は入った事はなかったしそれならお土たちもどうかと思ってそう勘十郎に話したな」
土田御前「それで勘十郎ちゃんは困ってしまったのです」
信秀「勘十郎が困るのか?」
土田御前「お前さまを一回だけお風呂に入れるのなら目を閉じていてとお願いしてソレで茶室の奥のあのお風呂にバレずに連れて行く事が出来ましたが、私たちまで何度もお風呂に連れて行くとなるとそのうち茶室の床の間を通って行っている事や茶室の秘密がバレてひいては自分が法術が使える事がバレてしまう。だから勘十郎ちゃんは凄く悩んでしまったのです」
信秀「ふむ、それはありそうな話だな」
土田御前「そこで考え出したのがあのドコでもドアーです」
信秀「ドコでもドアーか」
土田御前「はい、アレを通って行けば茶室の中を通る事はありませんし茶室の秘密がバレる事はない、だから自分が法術が使える事もバレない。そう考えて出来たのがあの扉なのです」
信秀「なるほどよく考えたものだな」
土田御前「子供の理屈なら確かにソレで茶室の秘密はバレないのでしょうスッカリ安心した勘十郎ちゃんはその扉がオカシイ事に気付かずに私たちをお風呂に連れて行ってくれるようになったのです」
信秀「ふむ、なるほど」
土田御前「吉法師ちゃんも少しはオカシイと思っているみたいですが、勘十郎ちゃんがコレはこう言う物だと言ったらそうなのかと思ってそれ以上は深く考えてないみたいですが。大人の私たちから見ればアレがオカシイのは一目で分かりますよね」
信秀「まあ、宝具であるし多少オカシナ事があっても不思議ではないのではないか」
土田御前「不思議じゃないって、勘十郎ちゃんは私たちに法術の事を知られるのが嫌なのですよ」
信秀「儂らにソレを知られたら寺に修行に出されるから嫌がっていると言う話なら何度もチヨから聞いたしそうなのだろうな」
土田御前「バレないようにするためにもっとオカシナ物を増やしてどうするのですか」
信秀「どうすると言ってもあの茶室の中を通って行くよりも、あの扉を通って行った方が茶室の秘密を知られずに済むのだから良いではないか」
土田御前「良いって、お前さまはバカですか。法術の事を知られないために更にアヤシイ扉をなんで天狗が作ってよこすのですか」
信秀「バカって……それは勘十郎が儂らに秘密を知られなくないと思っているその気持ちを汲み取って、あんな扉をこさえて持って来てくれたのではないか」
奥方さまは分かっていらっしゃるみたいだけど、お殿様はチョット鈍いのかしら?




