36話
兵士その1「失礼致します! 吉法師様より急ぎ届けよとのご指示で、コチラの物をお届けにあがりました」
あれから暫く経ち、尾張を出て陣を張っていた信秀軍の本陣の中でそう叫ぶ兵士の姿があった。
信秀「むっ、吉法師から届け物だと?」
机の上に地図を広げてどう攻めどう守るのか軍議を開いていた信秀はその言葉にいささか戸惑いながらその兵士にそう尋ねた。
兵士その1「はっ、コチラがそちらの物でございます」
信秀「ふむ、いったい吉法師はなにを送って来たのであろうな?」
机の上に置かれた重箱を目にして信秀は首を傾げながらそう話した。
信秀「まあ開けてみれば分かるか。……なっ! コレは勘十郎の団子ではないか!」
その箱の蓋を開けてみるとみたらし団子がビッシリと詰め込まれていたのだから信秀は驚きそう言葉を漏らした。
信秀「勘十郎がコレを届けるように言ったのか?」
兵士その1「いえ、届けるように仰られたのは吉法師様でございます」
信秀「おお、そう言えば最初にそう話していたな」
兵士その1「はっ。勘十郎様の部屋でそのような指示を受けたのですが、勘十郎様はお休みになられているご様子でした」
信秀「なるほど、それで吉法師がその指示を出したのか」
兵士その1「はっ、事の経緯は分かりませんが、そのような事でございます」
信秀「うむ、あいわかった」
とりあえず勘十郎が作りそれを吉法師が届けさせたらしい事は分かり信秀はその兵にそう答えた。
武将その1「殿、それは団子でございますか?」
その机の両サイドに座っていた武将の中の一人がその重箱の中を覗きそう信秀に尋ねた。
信秀「うむ、コレは勘十郎が作った団子だな」
武将その1「ほぉ、勘十郎さまはその様な事がお出来になられたのですか」
信秀「うむ、コレが美味いのよ。折角こうして届けてくれたのだ食わせて貰うか。ぱくり……美味い! 流石は勘十郎の団子だ、まことに美味いな! ぱくぱく……」
慌ただしくしていてろくに食事など食べている暇などなかったが、こうして口にした勘十郎の団子は非常に美味しく思え信秀は思わずそう言葉を漏らした。
武将その2「それはそれほど美味いのですか?」
信秀「うむ、これ以上に美味い団子など儂は食うた事がないわ。おお、そうだ。お前たちも食べてみろ」
武将その2「よろしいのですか? それでは失礼して……ぱくり。なっ、なんと! これは非常に美味しいモノでございますな」
その武将は信秀にそう言われ団子を一つ取って食べてみるとその味に驚きそう言葉を漏らした。
信秀「そうであろう。勘十郎の作る団子は天下一品の団子であるな」
武将その2「コレほどのモノとは思いもいたしておりませんでしたが、確かにコレは他に類をみない見事な団子でございますな」
信秀「そうであろう。ほらお前らも遠慮するな。この団子を食うてみろ」
武将その1「それでは某も失礼して……なっ! コレは!?」
武将その3「なんと! まことに見事な団子でありますな!」
信秀の言葉でその場にいた武将たちはその重箱に手を伸ばし勘十郎の団子を食べると口々にそう話した。
勝家「うおお! コレはまさしく勘十郎様の作られた団子に間違いないわ! この団子を食べると力がみなぎり、今直ぐにでも松平や今川の雑兵など100や200軽々と蹴散らせそうな力が湧いて来ますな! がはははは」
信秀「おおっ、そうか?」
武将その1「確かに権六殿の言う通りこの団子を食べると疲れが吹き飛び力が湧いてくる気がしますな」
武将その2「まこと、戦さ場でこんな美味い物を食べれるとは思っておりませんでしたが、これは力が湧いていますな」
勝家の言葉を聞きその場にいる武将たちが意気揚々とそう話した。
信秀「おお、そうか。ココにはこのみたらし団子しかないみたいだが、勘十郎はコレの他にもコレにも劣らぬ美味い団子をいくつも作れるのよ」
武将その2「なんと! 勘十郎若様はコレ以外にもそんなに美味い団子を作る事ができるのですか!」
信秀「おう、無事に帰ったらその団子もおぬしらに食わせて貰えるように勘十郎に頼んでやっても良いぞ」
武将その2「なんと! そんな話を聞かされたらコレは気張って松平どもの兵を追い払って勝って帰らなければなりませんな!」
武将その3「まこと、そんな話を聞かされたらおちおち死んでなどおられませんな! 必ずこの戦勝ちましょうぞ!」
信秀のその言葉に更に士気が上がり武将たちはそう叫んだ。
信秀「おう。そうだ。この団子はまだあるのか?」
兵士その1「はっ、そこにお出しした他にもたくさんございます」
信秀「そうか。ならばソレは外の兵どもにも食わせてやれ」
兵士その1「よろしいのですか?」
信秀「よいよい。それは勝利の団子だ。みなに存分に振る舞ってやるがよい」
兵士その1「かしこまりました」
信秀「うむ。これで我が軍の勝利は間違いないな」
武将その1「まこと、大勝利まちがいございませんな」
その団子が届く前は松平今川軍の兵の多さに沈んだ空気が漂っていたが、いつの間にかそんな物はどこかに消え去り信秀たちは意気揚々とそう話すのだった。




