33話
信長「なんだあの腕立て伏せと言う鍛錬は、まだ腕がパンパンに張っていて思うように腕が動かせないぞ」
稽古が終わり自分の部屋に戻る途中で信長がそう呟いた。
信長「剣の素振りをしてもここまで腕が疲れる事はそうはないし、相当の時間を費やさなければこんな事にはならないだろう。勘十郎はドコでこんな鍛錬を覚えてきたのだろうな」
剣の師匠を雇った訳でもなく信長は不思議に思いそう呟いた。
信長「まあそれは良いが、いったいあの女は何者だ? 俺や権六では全く歯が立たず更に俺や勘十郎だけでなくあの大きな権六まで片手で軽々と空に投げ上げるなどあんな事は流石にオヤジでも出来ないだろうし、いったいドコでアレほどの者を見付けて来たのだろうな?」
信長「……まあ我が家に仕えると言うのなら頼もしい限りだが、ただメシをガツガツとたらふく食う女と言うだけではなかったみたいだな」
初めて桜を見たあの日から毎回桜も一緒に勘十郎の横に座って共に食事を食べていたのだ。
父・信秀と母・土田御前も咎める事もせず笑って見ているだけでナゼそんな事を許しているのかとズット信長は疑問に思っていたのだが、あれほどの強者であれば侍女とは言え客人扱いしてそんな事を許してもオカシクないかと納得しながら信長はそう呟いた。
信長「しかし、あの女だけでなく勘十郎の部屋にあのような小屋を作って茶道具を与えて茶を習わせるなど、もしかしてオヤジとお袋は俺より勘十郎に期待しているのか?」
そんな疑問を覚え信長はそう話した。
信長「……いやそんな事はないな。なんと言っても俺は長男だし、勘十郎は剣の稽古を始めたとは言えまだ未熟で子供でもあるし、最近は町にも出かけるようになったから強い護衛を付けるのは当たり前の事ではあるな」
信長「うん、それに確か少し前に茶を習えと言われた記憶があるがその時はそんな事をしている暇はないと断ったが、それがそのまま勘十郎の方に流れていったのかもしれないな」
そう考えれば勘十郎の側に強い桜がいたり茶室があってもオカシクはないかと考え信長はそう話した。
信長「しかし、俺の時と違って勘十郎にはオヤジもお袋も随分甘いと言うか剣の稽古も俺の時ほど熱心にしていないように思えるな」
信長「……もしかしてオヤジ達は勘十郎を武士ではなく文官みたいな者に育てる積りなのだろうか?」
常々自分の時とはなにかが違うように感じていたがそんな可能性に気付き信長はそう呟いた。
信長「確かにアイツは鍛えてもあまり強くなりそうな感じがしないし、それはありえそうだな」
勘十郎にやる気が無かったりいい加減に剣の稽古をしている訳でもなく本人なりに真面目に努力をしているのは見ていて分かるが、どうも戦う事は不得手と言うか争い事に向かないように思え信長はそう話した。
信長「うーん、兄弟共に馬を並べて戦場を駆け廻るのを楽しみにしていたが、それは難しいかもしれないな」
密かにそんな夢を持っていた信長は少し残念に思いながらそう呟いた。
信長「まあ勘十郎はまだ子供だし、この先ドコかでバケるかも知れないから無いと決め付けるのはまだ早いか」
信長「うむ、俺もまだまだ頑張らなくてはならないな。せめてあの女から一本取るとはまだ言えないが、せめて顔色を変えさせるくらいには強くならなくてはならないな」
今の自分より強い勝家ですら手玉に取られてマトモに相手すらして貰えなかったのだ。勝てないまでも驚かせるぐらいの実力を付けなけれダメだと思い信長はそう話した。
信長「うむ、強いのは大いに結構、俺もいつかあの女の高みへと辿り着いてやるぞ」
信長は希望を胸に空に向けそう強く語るのだった。




